第1話 なにが起きたんだ
――さて 突然ですが、みなさんは中学生時代どんな学生生活を送っていただろうか。
部活で仲間たちと和気藹々と切磋琢磨しながら青春を謳歌していた?
クラスで文化祭や学園祭、体育祭のことで話し合っている最中に揉めた時クラスメイトを率先して意気投合させ、見事に行事を大成功へと導いていた?勉強が疎かにならず常に学年上位をキープしていた?そしてクラスでもダントツに可愛い女の子と楽しく喋り終いには一緒に帰っていたり?
そう。上の事柄全ては現実ではフィクションであり登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは全く言っていいほど関係ありません………なのか?
いや、これらは全くフィクションではない。なんとこれら全ては中学時代の俺こと山下カズヤ本人が実際に体験したことである。そうだな、、、カズヤの中学自伝とでも名付けようか……
なに?ネーミングセンス?そんなものどうでもいい、表紙の迫力より内容が良ければいいじゃないか。表紙のタイトルだけで本を買う奴がいると聞くがそんなもの中学時代の俺様から言わせれば愚の骨頂、例えるなら…いいや、例えるまでもない。いやだってこんなことを何かに例える時間があるなら他のことに手まわした方が効率が良いだろうと思ったまでだ
――まぁそんなわけで俺の中学時代は誰しもが認める完璧美少年で、そのまんま高校もこんな感じで順風満帆にいける予定のはずだったのだが……………………
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〈カズヤ高校生の春〉
時は入学式の朝のことだ。
「おい起きろー、起きろ!カズヤ!おい!起きろ。起きろ!!起きろ!!!!いや、起きれや!」
「ちょっと待って、今起きると俺の体に何らかの異変が起きそうだから無…理。」
「…ったく。今日は北高の入学式だろ!早く支度しろ!俺はもうすぐ行くから、もしこのままお前が5分以内に起きなければ朝食は全て片付けてやるからな!そーなったら朝飯は俺のクソをご馳走してやる」
親父はそう言い残すと部屋から出て行った。
――山下カズヤ[16歳]
この春 無事 俺は中学を卒業し、都内でも有数の進学校に入学した。そこは入学式の日にクラスのホームルームがありいろいろな決め事をするらしい。そういうことなら この俺が遅れるわけにはいかないと前日に張り切って、明日に起こりうる出来事をあらかじめ予想し、それにどう対応するかを考えていたのが今の眠気に繋がったんだろう。なんてことだ。
すると何かを言い忘れたのかまた親父が部屋に入ってきた。
「あ、それとカグヤも起こしといてくれ。あいつその気になればずっと寝てるから」
そう言った親父が寂しい表情をしているのは見らずともわかる。
―― 俺の妹の山下カグヤ[14歳]はちょうど親父という生き物を受け付けない年頃にあってそれを知ってか知らずか親父も少し気を遣っているのだろう。
しかしさっき親父が言ったことを整理すると、今まだ寝ているであろう妹も俺が起こさなければ親父のクソを食うはめになる。それだけはまずい。拷問どころではない
「わかったー、起こしとくよ。」
そう気怠く言った俺は遅刻もしたくないので、眠気なんぞ気合いでふっとばし、布団から出ようとした。のだが、、、
―――あ、これは、、、出れない。。。。。
これは布団の中があったかいくて外が寒いから!とかいう生半可な理由ではない。
俺はこの時今起きている事実を頭の中で解析し、光の速さで理解した。
―本当に異変が起きていた。
そう、自分の息子が朝のラジオ体操をしているのだ。これは背伸びの運動だろう。すぐ隣にある時計を見ると時間はもうすでに3分は経っていた。親父のクソだけは冗談だとしても嫌だ。
しかし…
〈いや、あれを横に倒せばよくね?それか斜めとかに〉
〈そんなん気にせずさっさと立てや!〉
〈てかやればよくね?〉
などという意見もあるだろうが、俺は違う。
俺は横に倒しても、斜めにしてもなんか分かってしまうパジャマを着ている。つまりちょっとピチッとしてる。
あと やる時間がない
(このバカ息子がぁぁぁあ。早急に解決策を考えなければ!!!)
そうやって内心慌てていたカズヤの心の中のナポレオンがある革命を起こした。いや、考えを与えたと言った方がこの場合適切だろう。
その瞬間おもむろにカズヤは独り言をボソボソと言い始めた。
「いや…待て。。。別に良くないか?まぁこーなった原因は生理現象なわけだし?てかこんなこと気にする範疇のことでもないよな。」
そう、悟ったのだ。もう何も気にしない、どうなってもいい。そこから先は早かった。とてつもなく早かった。
カズヤは何事もなかったかのように前傾姿勢のまま自分の部屋を出て、前傾姿勢のまま階段を降り、前傾姿勢のまま親父に朝の挨拶
「おっはよう!」
そんな息子を見た親父は
「おお!なんだ!全然起きれるじゃねーか。。。。。いろいろとな(笑)」
ふむ、親父は俺の前傾姿勢から何も感じとらなかったようだ。最後の方はよく聞こえなかったが、堂々とすれば何事も気づかれないのが分かった。
それから、前傾姿勢のまま顔を洗い、前傾姿勢のまま歯磨きをし、前傾姿勢のまま制服に着替え、前傾姿勢のまま妹の部屋の前に行き、前傾姿勢のまま妹の部屋の扉を開き、大きく口を開け言った
「おっっっっはぁ…………」
しかし、この時カズヤはちょっと前傾姿勢じゃなくなっていたことに気づいていなかった。惜しくも妹の部屋の扉の前まではキープしていたのだが、その扉は引き戸で、引くときに普通の姿勢に戻ったのだろう。
――その瞬間だった。腹部いや下半身いや股間に凄まじい痛みが生じ立ってられずその場に跪き、なにが起こったのかわからないまま叫んだ。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ」
都心部の2階建マイホーム全体いや、ご近所さんまで届いているんじゃないかレベルの絶叫だった。
「どこの世界にその状態で妹の部屋に入ってくる兄さんがいるんだ!」
なるほど、俺は前傾姿勢を忘れ、自然な俺を妹に見せたわけか、、
しかし!あぁなんとも動物のリスのアフレコにはぴったりな可愛い声なのだろう、一瞬だけ痛みと恥を忘れふとその声が聞こえた方を見るとそこには妹のカグヤが怪訝そうな顔立ちで立っていた。
「あら。起きてらしたのですか。。ははは、、、、、」
そう言うカズヤをなお、しばらく無言で凝視するカグヤ
その無言の圧力に耐えきれなくなったのか、カズヤは咄嗟に言った。
「いや!違うんだ!!起こしに来ただけなんだ!早くしないと学校遅れるぞ!って言いに来ただけだから!!」
股間を押さえながらそう必死に言いよる兄貴がこの世にいるだろうか。
そんな姿の兄を見てカグヤは笑いを堪えながら言った。
「わかっ…てるから……おはよう、に、いさん(笑)ククク(笑)ハハハハハハハハ!(笑)」
堪えきれず口を大きく開け笑っているカグヤは腹を抱えながら階段を降りて行った。
そんな妹を横目で少しばかり憎らしく見ながらカズヤはふと思った。
「あれ?そういえば俺一体なにに痛がってたんだ?」
この痛みは物理的なダメージに感じたが、俺が跪いた辺りには妹が投げたと思われる物は無いし、そもそも妹の部屋には当たったとしてもそこまでの痛みは感じないだろうと思われる物しかない。
とはいえ、妹に何かされてなかったとしたら単なる股間の病気だ。それだけは何か嫌だ。
「………わかんねーな、、、、、て、時間やば!遅刻すんじゃん!」
そんな不可解なこと普通ならすぐ妹に聞くのだが、それよりも今は学校に行く方が大事だと判断し、カズヤは学校に向かった。