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殺し屋な執事とヤンデレなお嬢様  作者: 竹ノ利
殺し屋始めました編
2/15

修行始めます

 





「それでは美幸お嬢様、ここからはお任せ下さい」


 スーツの男は女の子に、充分すぎる程の礼儀を表した。

 大方主人と従者のような関係なのだろう。


「ん〜…分かった!!」


 女の子は元気よく声を上げて部屋から出て行った。

 一時の静寂。先程までスーツの男が浮かべていた笑顔は消え失せ、今は初めてであった時と同じ何を考えているのか分からないような顔になっていた。


「あの御方は美幸お嬢様、俺の主の一人娘だ」

「まー、そんな所だろうと思ったよ」

「お前名前は?」


 聞かれた質問。

 この状況なら素直に答えない訳にはいかない。


「ジャック、ペテル、ノア、アレクサンダー、マーク、グレン、ジャクソン、ケルビン、ユリアン。色々あるが全部偽名だ、名前は無い」

「そうか、ならば」


 待っていたと言わんばかりに懐から分厚い本を取り出した。どこから取り出したかは聞かない方が身のためだろう。


 そしてスーツの男は、ペラペラと本を大雑把に開き指を挟む。


「そうだな、これからは二宮 銀と名乗れ」

「何だ?日本語か?この形で日本人は無茶だろ」

「口遣いが荒いな、それにしてもこの年でよく日本人だと分かったな」

「あいつらはいい鴨だからな」


 旅行などできた外国人、特に黒髪黒目の日本人はスリを始めた時から一度もバレたことがない。何が言いたいかというと、あれほど狙いやすい鴨は他にはいないってことだ。


「理由は至ってシンプルだ、俺のボスが日本人と結婚して生まれた美幸お嬢様は、ハイスクールは日本に通うことになってる、その時に動きやすいようにするためだ」

「そんな勝手していいのか?スラムのガキをボンボンの近くに置いて、後悔してからじゃ遅いぜ」

「口の減らねぇガキだな、それに問題ないお前は俺が教育するからだ」


 教育という言葉に少し反応してしまった。


「調教の間違いだろ?」

「物は言いようだな、どう捉えられてもいい。だがやるべき事はやってもらう」


 色々と心配が残る。

 完全には納得していない、そんな表情が滲み出ていた。


「成績に応じて給料もだす、っといっても休日はほとんど無いがな」

「別にいい、飯があるなら死ぬ事は無い」

「それもそうか」


 一番の心配がきえ、少しだけ安堵してしまった。少し保おけた顔をしていたが、スーツの男と目が会い瞬時に表情を戻した。


(警戒するべきだ。こんなに上手い話が回ってくるわけがない)


「そう表情をコロコロ変えるなよ、ガキだってことを主張してるようにしか見えんねぇぞ」

「…まだガキ何でね」


 苦し紛れに反論するが、どこか面白かったのかスーツの男は笑をこぼした。


「まぁいい、殺し屋ってのは誰でもなれる。金を貰って人を殺せばガキにもジジィにもできる。殺し屋と名乗った瞬間から殺し屋だ。だがお前、二宮銀には超一流の殺し屋になってもらう。それだけの資質を感じた」


 資質、確かにあっても不思議ではないだろう。この年で殺した人の数は1人や2人じゃない、中には拷問の延長で死んだ奴もいる。なのに、吐き気も罪悪感も対してなかった。寧ろその数時間後には、ケロッと飯を食べていた。そういうことに関してはあると断言出来る。


「お前は俺並み、いやそれ以上になってもらって美幸お嬢様に使えてもらう」

「は!?」


(こいつ殺し屋を主の娘に仕えさせる気かよ)


 流石に狂っている。と思う。


「勘違いするなよ、お前にやってもらうのは殺し屋だがそれ以外にも仕事をこなしてもらう」


(どういう事だ?)


 頭が回らなくなってきた。


「殺し屋には変装のスキルも必要だ。執事・・として、殺し屋として美幸お嬢さまに仕えるんだ」

「一応聞いておこう、何の為にだ?」


 あまりにも抽象的な疑問を投げたが、確信についた感覚はあった。つまりは、そういう事だろう。


「全ては美幸お嬢様の為だ」

「マフィアってのが関係してんのか?」

「ほう?なぜそう思った?」



「最近スラムで話題になってたんだよ、マフィアの娘が独り歩きしてるって噂がな。何度か探したが見つかる気配なんて無かったから、今まで記憶の片隅に置いていた。後は状況証拠だ、殺し屋を匿わせるなんて並大抵の事じゃない。むしろさっきのお嬢さまってのを見た時は、あんたの事を知ったふうに見てたあのお嬢さまってのとは顔見知り。そんだけ分かれば後は──」


「後は、なんだ?」

「勘だな、少なくとも筋は通ってると思うんだが」



 筋は通ってる。

 スラムでは噂はすぐに出回る、頭がいいやつなんて本の一握り。自分だけの情報にしようなんて考えてるやつなんて殆どいない。覚えたことを見せたくて仕方ない子供みたいだ。

 だが、あといくつかのピースが集まっていない。



(当たらかずとも遠からずってとこか)


「そうだな、半分正解ってとこだな。大雑把にいえば問題ないが、重要な部分が抜けてるな」

「マフィアって証拠か?」

「まぁ、それもあるが…そうだな、お前ならこうは考えないのか?」

「こうって…」


「──マフィアの娘が独り歩きしてる理由とかをよ」



 ………。

 人なんてどうでもいい、死んだやつの人生なんてどうでもいい。金が入れば手段を問わない。


 神に顔向け出来ない?

 ──そんなのは暴論だ。


 ずっと見えてこなかったことがある。

 感情という、目には見えないあやふやな現象。


 人の金が欲しかっただけで、俺は人のことなんてどうでもいい、そう思っていた事に気付かされたような気がした。


「盲点だったな」

「カッカッカッ!そうだな、答え合わせをしよう。お前が言った通り、ボスはマフィアのボスという意味だ。あれだけの材料でここに辿り着いたんだ、誇っていいぞ。それじゃあもう半分の答えを与えよう。美幸お嬢様の母親、つまりボスの奥様は世界でも有名な【月見里工業】の女社長だ」


 両親共に有能か。あの女の子も人の上に立つ仕事に就くことは間違いないな。次期社長か、次期マフィアのボス。凄いな、どっちにしても人生勝ち組か。


「聞いたことあるだろ?」


 得意げに話すスーツの男。

 あんたの事じゃないだろと叫びたくなるが、心を殺す。けれど無性に腹が立つな。


「ああ、豪華客船から銃のネジまでありとあらゆる物を作り出している。あの【月見里工業】様の社長の娘に会えるなんてな」


 少しも驚くことなく淡々と話す。スーツの男も期待はしてなかったので落胆はしない。

 俺みたいなやつ以外なら「あの月見里工業!!」なんて反応は当たり前だっただろうに。


「そんなサラブレッドが美幸お嬢様だ。ここまで話せば美幸お嬢様にお前が必要なのが分かるだろ?」


 得意げな笑を見せる。

 要するにこいつは、美幸お嬢さまの危険を目の前で守る自分か自分以上の存在を作ると言っている。いや、少し違うか。作らなければいけない・・・・・・・・・・。という事だろう。


「生きられるなら何でもいい」

「そうか、すんなり受け入れてくれて嬉しいよ。さてこれから本題だ、美幸お嬢様は別に独り歩きをしてる訳じゃない。少なくとも護衛は三人は必ずいる。だが、そんな噂が絶えない」


「誰かに狙われてんのか?」

「そうだな、そう考えるのが自然だ。だが、美幸お嬢様も第一反抗期ってのか?今それなんだわ。ふらーっと屋敷から居なくなるなんてことが増え始めてな、いつ誘拐されても可笑しくない。そんな危険な状態なんだ」

「は?そんなに大事なら縄でもくくってそばに置いとけよ」


 嘲笑しつつ挑発をする。スラムで学んだ。

 相手との対話において、冷静さが欠けた方はボロを出す。


「そう慌てるなよ、お前も美幸お嬢様見ただろ?あんな笑顔でお願いされたら断るわけにはいかねぇだろ?」

「…まぁ分からんでもないが」

「お?何だお前、美幸お嬢様に惚れたのか?」

「──!!?」


(やられた)


 顔が熱くなってる。

 対話においては、間違いなく完膚なきまでに俺の負けだ。


「え?マジ?」

「…早く話を進めろ」

「ほうほう……それもそうだな、まず初めにやってもらうことは美幸お嬢様と仲良くすることだ。だが、敬語は忘れるなよ、あくまで従者と主の関係だ」

「…分かった」

「不満そうだな、からかってる訳じゃねぇよ。美幸お嬢様には、同世代の知り合いが居ない。歳もお前となら近いし、外に出てまで遊ぶ必要も無くなる。期限は美幸お嬢様に関する噂が無くなるまで」


「まぁ、妥当だな」

「一応殺し屋への修行はもう始まってると思え、どんな時でも冷静に、どこかに冷ました自分を置いとけ。それが出来れば何とかなる」


 冷ました自分。

 その言葉にはとても説得力があった。いや、違うな。見透かされた。そんな気がした。


「だが、想い人の前でどこまで通用するか見ものだけどな」

「死ね」

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月見里やまなしって読みます。

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