初めての学校
昨日のことが嘘のように、いつものように陽は昇る。
何も変わらないと思われもすれば、全てが変わることもある。
一つの行動が全てを変えてしまうバタフライエフェクトのように、元々変わることは決まっていた世界線という言葉まである。
「はぁ、学校か…初めてだな」
スラムで育ち、後に殺し屋となった銀にとって。どこで何があれば、こんなに波乱万丈な人生になったのだろうか。
「あ、おはようフィリップス」
「おはようなのです二宮さん。それでは行くのです」
2人とも身支度を済ませ、片方は中等部の制服でありもう片方は高等部の制服。
「フィリップスは10歳じゃなかったのか?なんで中等部に?」
「一応飛び級したからなのです。こう見えてもアタシはできる女なのです」
「…そっか、じゃあできる女のフィリップスさん。道案内をよろしく頼む」
朝食は軽めにすまして寮を出る。
何人かの執事、メイドの生徒も学校に向かっているみたいで銀とフィリップスはそれに流されるように学校へ向かった。
「フィリップス、この学校はどんなことをするんだ?態々寮も分けている訳だし、学科も違ったりするのか?」
その問いにフィリップスは思ったよりも深刻そうな顔で答える。
「いいえ、学科が違うということは無いのです。ですがテストなど実力が計られる場だけに限っては分けられているのです。結果の張り出しも別々なのです」
「…なるほど、分かった」
その続きをこの歳の子に言わせるのは酷だろう。
曰く使用人は主を立てなければいけない。その言葉通り、昔に何かあったのかそれともプライドが…知る由も、知る気もないが、そういうことなんだろう。
「とりあえず職員室に向かうか」
中等部であるフィリップスに高等部を案内させるのは酷だと思い別れてきた。
だが寮同様に校舎も広い。
流石金持ち学校と思ったが、流石にやりすぎなのではと思う所もある。
キョロキョロしていると一人の学生が声をかけてきた。
「迷ったんですかぁ〜?」
気の抜けたような声のする方向を見ると、なんというのだろうか…ぽわぽわした女子がいた。
「はい。今日から転入なのですが…職員室の場所がわからず…」
フィリップスとの口調とは改める。
この学校で銀は執事として来ている。もし主である美幸お嬢様の御学友であった場合、大変失礼になるかもしない。
更にいえば礼儀ひとつ知らないと周りに思われれば美幸お嬢様にまで迷惑がかかる。
それは切腹ものだろう。
「そうですかぁ〜、じゃあ少し待っててくださいねぇ〜」
ぽわぽわした女子は待っていろといいつつも自分は何もしようとしない。
この光景に遊ばれているのでは?と疑問に思ったが、その可能性は刹那として消えた。
「それじゃあ幸田さん、お願いしますねぇ〜」
「畏まりました」
ぽわぽわした女子の命令を聞くと、ガッチリとしたガタイの男子がこちらに歩いてきた。
「アリナお嬢様の専属執事の幸田 茂海だ。着いてきてくれ」
幸田と名乗った男子はやけに【専属執事】の部分を強調していたように見えたが……。
気にしすぎか?
考えつつも、ガタイがよく足幅の広い幸田の移動に少し早歩きで銀はついて行った。
………
……
…
割と惜しかったようで、二人と遭遇したフロアから2階あがった所に職員室があった。
見た目は多分普通だ。
広すぎる土地や、豪華な噴水やらなんやらを抜けば普通だ。
見たところでは大して何も変わらない。
だが、何かがおかしい。
まだ全体のことが分かっていないのに。
この学校は活気ある訳でもなく、トゲトゲとした雰囲気でも無い。
何か沈んでいるように見える。
そうやってチラチラと観察していたら、幸田という専属執事から声がかかった。
「あんまりキョロキョロするなよ」
幸田はこちらを振り向かずにそう告げた。
銀も一瞬戸惑ったが、何食わぬ顔で幸田についていく。
「この学校はいろんな場所で使用人は監視されている。まだ手続き前だから採点は始まっていないが、得点によって学校側からの対応が違う。良くも悪くもだ。主に恥をかかせたくなければしっかりとしておく事だ」
「肝に銘じておきます」
銀はこの学校はなんのための学校なのかと思ったが、どうしても答えは出てこなかった。