サヨナラとこんにちわ
久しぶりの投稿です。
待っていた人…いるか分かりませんがお久しぶりです。
一応やりたい話までは続けるつもりです。
ブランクがあるみたいなので、短いですが許してくださいm(_ _)m
フィリップスがいなくなった部屋に二人で居座る。
少々不敬かと思ったが、二人はベットに腰をかけて話を続けた。
最初こそ言葉が詰まったり、被ったりと中々上手く話せなかったが腐っても幼馴染。
打ち解けるまでに必要な時間は、さほどかからなかった。
「銀くんは変わりましたね」
「それは十年も経てば変わりますよ。美幸お嬢様も変わられましたよ」
「あら、そうですか?私も十年前とは違いますからね」
敬語で話すのは仕方がない。
立場がそれを強要する。
しかし、美幸お嬢様の口調はどこか洗礼されているようにも感じた。
メイド長等からのお稽古が華が開いたのだろう。
「その髪飾り、持っててくれたんですね」
美幸お嬢様の髪飾りを見て、銀は嬉しさのあまり話題に出した。
美幸お嬢様の黒髪に、飾るにふさわしい玲瓏とした蒼い桔梗が銀の視線が奪った。
「ええ、銀くんからもらった大切なものですから」
美幸お嬢様から言われたなにげない一言に銀は感激する。
「銀くんは持っていますか?」
少しだけ心配層な声で、美幸お嬢様は銀に確認する。もちろんそれはあのネックレスのことに違いない。
「もちろんです」
そう言いながらワイシャツの第一ボタンを開け、ネックレスを取りだす。
「持っててくれたんですね」
嬉しさを隠したような声で、美幸お嬢様は呟いた。
「はい、美幸お嬢様から頂いた大事なものですので」
二人は思い出のものを見せ合う。
それが自分達の関係性を示す様なものでもあるから。
「似たもの同士ですね」
美幸お嬢様はそう言って髪飾りを優しく撫でる。
大切そうに、まるでそれにいつも縋っていたすら思わせるほど。
「そう言えば、フィリップスに何を取りに行かせたんですか?」
確か忘れ物がどうとかと言っていたが…
「ああ、あれですか。特になんでもないですよ。学校にある筈のないシュシュを取りに行ってもらったんです」
サラッと美幸お嬢様はすごいことを言った気がする。
シュシュがどうとかと言っていたが、今話しながらポーチの中から話題に出ていたであろうシュシュを取り出したぞ。
「それは、予備ですか?」
「いいえ、動く時によく使っている物です」
「ではフィリップスに探させたのは?」
「ええ、たまたま探していないポーチの中に入っていたみたいですね。うっかりしていました」
美幸お嬢様…流石にこの時間に10歳の子供に学校に用もないのに行かせるのはどうかと…。
2人になるまではいい考えかもしれないけど、流石にミラノに悪いな。あとでなにか奢ってあげよう。
「銀くん」
「はい?」
「目の前に女の子がいるのに、違う女の子のことを考えるのは失礼ですよ」
見透かされているな。
どうも見透かされている。だが何故だろう、それがたまらなく嬉しい。
分かってくれる。そんな存在は片手で数えるくらいだ、口に出さなくてもわかる関係。そんなものが無いなど分かりきっている。
だが、それでも捨てきれないものに…
だから彼女もその1人だということが堪らなく嬉しい。限りなく理想に近い存在であるということが。
「申し訳ございません……それでは失礼します」
「もう行ってしまうのでますか?」
美幸お嬢様の言葉に、銀は人差し指を自分の左手の腕に当てた。
「そろそろ時間かと…いつまでも帰ってこないフィリップスも気になりますし」
「そう…ですか」
顔には出さないものも、美幸お嬢様の音色は数段落ちた。
別に居たくない訳では無い。むしろ居たいと言えるだろう。
10年前がトクベツであったとして、今もそうとは限らない。
あくまで銀が駆り出されたのは、美幸お嬢様の専属執事としてだ。
その本質を見誤ってはならない。
その解から導き出すに、今は思い出に浸るよりも明日のこと。つまり学校でのサポートのことを最優先にすべきだろう。
「もう、そんな時間ですか。久しぶりに会えたというのに…」
「美幸お嬢様──」
「──また、明日」
「───ええ、また明日」
明日会える。
それは10年も待った二人にとって、長いようで短い。
一度会えたことによって少しは我慢できる。一度会えたことによって手離したくない。
それが一種の感受性となり、真っ白なキャンバスに一粒の黒点となったことを銀はまだ知らない。
これからどんな学校生活が始まるのかということを銀はまだ知らない。
今の彼女が…美幸お嬢様が、周りからはどう思われているのかを銀はまだ知らない。
10年も経った彼女の変化がこんな些細なものだけだと銀はまだ知らない。
そして何より、10年前も今も彼女の本質を一つとして理解していなかったなんて銀は知らない……。