再開と再会
おっひざー(誤字ではない)
静寂に包まれた。
部屋には美しい女性の姿に目線が注目する。
これはもう、魔性と呼ぶべきかもしれない程であり注目した目線は、彼女から離すという選択肢を忘れさせられていた。
「十年ぶりですか…」
静寂を先に破ったのは、彼女の方だった。
「はい、本来ならあと一年早く来られたのですが…(マティアス許すまじ)」
何故か距離を感じる。
昔はもっと砕けた話し方だったような気がする。
多分俺も、彼女も気付いているんだろう。
だが、言葉には表さない。
表してしまえば、それはもう戻らないものだと思ってしまったから。
だから、この距離は物理的なものであることを、刹那に願った。
「やっぱり美幸様の幼馴染って二宮くんの事だったのですね」
「やっぱりって?」
言葉の綾、そんなものがフィリップスから感じ取られた。「やっぱり」とは、何の意味が含まれているのか。
「はいなのです。昨日美幸様が「ミラノ」いえ!何でもないのです!!」
美幸お嬢様がすごい笑顔でいらっしゃる。
とても喜ばしいことなのだが、目が笑なっていない。
フィリップスにそれ以上喋るなと、笑顔で脅しているようだ。
隣のさっきまで生き生きとしていたフィリップスば、冷凍庫で凍らされてる魚みたいになっていた。
そこまで怖いのか!?
「二宮さん、先程の一年早くこられたというのはどういう意味なんですか?」
(やばい、矛先がこっちに向いた)
「いや、あのですね。師匠が連絡を忘れていたと言いますか…まぁ、そんなところですね」
ごめんマティアス、あんたの犠牲は無駄にはしない。
というか、元々はアンタが悪いんだからね。
「成程、ではマティアスが全て悪いと?」
「いや、そこまでは…」
「では言い方を変えます。一年間も私の事を忘れて仕事をしていた二宮さん、何か弁明はありますか?」
「いえ、無いです。私が悪かったです」
予想が確信へと変わった。
(あ、俺この人に逆らえないわ)
流石月見里の一人娘と言うべきか、マフィアの一人娘と言うべきか、人心掌握に長けている。
というか、支配者の貫禄すらこの年ででている。
あの無邪気さは、もう見る影もない。
やはり俺が変わったように、彼女も変わったんだ。それが、突きつけられているみたいで嬉しい反面悲しかった。
「まぁここにいるのですし、今はもう過ぎたことです。今はいいでしょう」
え!?そこは許すところじゃないの!?
しかも今はって言ったぞこの人、いつか追い打ちをかけるように使うに違いないな。
「あ、ありがとうございます?」
なぜ疑問系になった俺!
「ふふ、昔みたいにしてくれてもいいんですよ」
多分俺が思っていたことを当てられた。いや、もしかしたら彼女も同じことを考えていたのかもしれない。
「今は立場がありますので」
戻りたくても、接したくても、今はもう…
「ミラノは偶に美幸おねぇーちゃんと呼びますけどね」
フリーズしているフィリップスに美幸お嬢様が追い打ちをかけた。
凍っていたフィリップスは、自分から発する熱で解凍したのかと思わせるほど、顔が真っ赤に染まっていた。
恥ずかしかったんだな〜と他人事の用に振るう。
(にしても、天真爛漫ではなく大和撫子か)
分からないでもないが、大和撫子と言うよりも小悪魔、いや魔お──
「二宮さん?」
「は、はい!?」
「それから先は……ね?」
何でこの人に俺の考えてることわかるんだよ!?
こえーよ、いやマジで。
読心術極めすぎだろ!?
「は、はて、、何のことやら」
「二宮さん」
「……ごめんなさい」
尻に引かれる、とはこういう事なんだろうな。いや、隷属?とか下僕?みたいなものか。
何より、彼女には絶対に勝てない。
そう悟った時でもあった。
小言を交わす。
微笑んだり、怒られたり、呆れられたり。
そんなひと時が心地いい。
でも、だからこそ、より際立つ。
彼女の仮面が。
付けることを強要された訳ではなく、しかし自ら付けた訳でも無い中途半端な仮面が。
とても気持ちが悪いと思った。
「それではミラノ、少し頼みたいことがあるのですが」
「はいなのです!」
美幸お嬢様はフィリップスに頼み事をした。
内容は学園で忘れ物をしたらしく、取りに行ってほしいというものだった。
支配者と言えど人の子、完璧ではないと少しだけ肩の荷が降りた。
「では行ってくるのです!」
フィリップスは元気よく扉を開き、部屋を出ていった。
敢えて俺を同行させなかったのは、二人きりになる為なんだろう。
積もる話…がある訳では無いが、一応幼馴染との再会になる。
伝えたいことの一つや二つあるだろう。
「それで二人にした理ゆ──ん?」
話し終わる前に、美幸お嬢様は早足でこちらに向かってきた。
顔を伏せ、地面と足だけを見ているように。
「美幸お嬢様?」
段々と距離が縮まり、最終的には距離は無くなった。
美幸お嬢様は俺の胸に体を預けるように、頭を寄り添わせた。
それに俺は流されるように、何もせずに待ち受けた。
「───銀くん」
放たれた愛称。
俺はずっと待ち続けていた瞬間に巡り会う。
放たれた音色は金色のように美しく、寄り添う体は陽だまりのように暖かい。
幸せな時間。
滅多に味わえない感覚を俺は抱きしめるように包んだ。
世の中には立場というものがある。
人を選ぶ、階級を決める、そんなものがある。
だが、今は。
誰もいない二人だけなら……
「ただいま、美幸」
そっと胸に寄り添う頭に手を置く。
「おかえり、銀くん」