1 転移
アップデートが終わる数分程前、河野愛碧はある決意を決めていた。
(ごはんは食べたし、お風呂も入ったし、お昼寝もたっぷりしたし、今日は遊び尽くそう。)
時計のタイマーがアップデートの終了を告げる。
河野愛碧は機械を被り、パソコンの画面に浮かぶアイコンをクリックした。
ーーー☆ーーー
〈正式サービス開始から77777777回目のログインを確認しました。
プレイヤーコウにオリジンワールドへのアクセス権限を与えます。
プレイヤーコウのログアウト権限を剥奪します。
プレイヤーコウの課金機能をGM権限により凍結します。〉
コウが目を開くと、辺りには青々とした草原が広がっている。今までのゲームには無かった嗅覚が再現されていた。
(今、何か聞こえたような…)
コウは疑問を浮かべるが、ウィンドウを出さずにシステムのログを見ることが出来る筈も無く、コウの疑問はいつの間にか消え去っていた。
「今の技術では風を再現することは出来なかった筈だよね。なのに風を感じるってことは、誘拐か夢。
誘拐した相手を野放しにするってのはおかしいから、夢かな?
ゲームのモンスターが居るし、ゲームとして楽しんだほうが良いよね。」
コウはウィンドウが出現することを確認し、武器である杖を取り出した。
コウが戦闘用の小型ウィンドウを呼び出し、広範囲攻撃魔法であるテンペストをタップすると、辺りに災害と言って良い程の竜巻が発生した。空は雲に覆われ、雨がコウの頬を濡らす。
竜巻は辺りの草を刈り取りながら、コウ以外の全ての命を等しく切り裂き、全てを吹き飛ばした後、一条の風となって消えていった。
『レベルが174上昇しました。
称号殺戮者を取得しました。
称号大物喰らいを取得しました。
称号神殺しを取得しました。』
「夢じゃ……無い?」
ゲーム内のテンペストは緑の風のエフェクトと共に敵にダメージを与える魔法だ。大規模な自然破壊を起こす魔法では無い。