5.踊
誰かが近づいてくる気配に目が覚めた。
うん。デジャブ?
今までのことはしっかり覚えているし、混乱はしていない。
歴代不死鳥の大量の記憶を受け継いだことで、できることがいろいろ増えたし、なぜ不死鳥がここにとどまっているかも知った。
記憶を受け継いだおかげか、記憶がよくなった事と、俺自身の記憶なら以前よりも格段に思い出しやすくなった。
今の俺なら、前世で俺がちらっとでも見聞きしたことはすぐに思い出せる便利な状態だ。もちろんほぼ忘れかけてた黒歴史のあれやこれも大オープンだ。...便利だが黒歴史は意識的に思い出さないようにしよう。
歴代不死鳥がどうやって過ごしてきて、どう消えていったか。歴代の生活は、狩り→食事→寝る
の繰り返し。文明的な記憶はほとんどなく、野生的なものばかりだ。時々神殿からくる人や、面倒な勇者の対応、どこかの国からの使者が訪問に来るとかがあるくらいで、常に暇を持て余していたようだ。しかも、ほぼ皆無趣味。そのせいか、大体100年くらいで生きることに飽きて代替わりしている。
全く理解できないが、歴代そろって、俺が最初に見た大きな芋虫が好物らしい。食感とか味とかも記憶にあったが、俺にとっては拷問だった。金輪際絶対思い出したくないし、食べたくない。
人間については、『従属しようとしたり、魔物の頭として討伐しようとしたり、わがままでうっとうしい!勇者とか最低だ!』と、ほぼ全ての歴代不死鳥が人間を毛嫌いしているが故、人間の生活や情勢、国・町・村についてなんかが全くない事だ。
そんで、そんなことしている勇者は大体、日本人な匂いがするんだが...
村や町はそのうち行ってみたいから、頼れる人脈の確保が必要だ。
記憶には感覚の記憶も含まれていて、魔法やスキルの使い方、戦い方なんか、前世日本生まれ日本育ちの俺には感覚なんてわからなかった俺でも、感覚のずれはあるだろうが、おそらくすぐに使えそうだ。
ステータスが表示される半透明なシートは、記憶によると『鑑定』のものらしい。しかも、俺が使えるのは高性能な物らしく、俺が知りたいと思ったことが大体なんでも表示される。
俺のステータスを再び確認してみる。
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【種族】不死鳥(幼鳥)
【年齢】0歳 1日
【名前】---
【レベル】1
体力 640/640 魔力 2000/2000
筋力 480 知力 100000000650
敏捷 1500 幸運 1200
器用 950 精神力 600
【状態】正常
【スキル】鑑定 / 魔法[地水火風光闇] / 斬爪 / 刺突 / 魅了 / 物理耐性 / 魔法耐性 / 地点移転(不死鳥の巣 ・ -- ・ --) /
精神異常耐性 / 念話 / 炎流操作 / 言語 / 記憶共有 / 魔力結界
【アビリティ】転生者(異世界) / 不老(停止中) / 不死 / 炎攻撃無効 / 復活の炎 / 不死鳥の血 / 不死鳥の涙 / 新生の儀(使用不可)
/ 不死鳥の祝福
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えっ...知力って頭の回転じゃなくて持っている知識量なのか、ゼロがいっぱいで桁がぶっ飛んでる。これまで存在した不死鳥すべての記憶だからしょうがないといえばしょうがない。のか?いろんな魔法やスキルを使う感覚も記憶として受け継いだから、使えるスキルが増えてる。
感覚は分かっても、身体が幼いから使えないスキルもあるようで、それはおいおい使えるようになるだろう。
でも、この記憶の使い勝手はあまりよくない。よく使われていた記憶や、印象深い記憶ならすぐに取り出したり出来るが、そうでないならそういった記憶はあるが、詳細を思い出すにはかなり時間がかったりするみたいだ。まぁ、普通の記憶とそう変わらないが、全く思い出せなくなるってことはないところがすごいところだ。人間の脳だったら、きっと記憶の膨大さに耐えられない。不死鳥のだからこそできる事だろう。
例えるなら大きな倉庫だ。手前は新しいものが積まれている。そして、奥に行くほど過去のものが積まれていて、各個体の所持品別に分けられていて通路は確保されている。手前にあるものはもちろん目視でも大体何があるのか分かる。よく使うものや、印象深いものはそれぞれの上の方にあるから、それもすぐにわかる。でも、一番奥の一番下になっている物が何なのか見えないし、取り出すのにも苦労する。そんな感じなのだ。膨大であるが故の弊害といったところかな。
まぁ、膨大な記憶を得ても、所詮俺は俺。不死鳥のワイルドな記憶ばかりから役立つものを効率よく使うとか、難しい。この量の記憶をうまく使いこなす自信が全くない。
冷静を気取ってみたつもりだが、俺は今、すこぶるご機嫌でテンションが高い。
そらもう、雛の覚束無い足取りのまま小躍りしているほどだ。母不死鳥が居たならほっこりと眺めていただろう。
ノリとしては、羽がもともと体にいっぱいついているのでサンバなイメージで、脳内でエンドレスする”サンバ・デ・ジャネイロ”に合わせて、ボックスステップする。翼はどうしようもないので横でリズムを取ってパタパタさせる。全くサンバじゃなくても関係ない。当然転けるが、気にしない。前世の人の姿で踊ってるところを想像したら、どう考えても”ひげダンス”な情景だが、実際にやっているのは白くて小さい雛だから、可愛いだけでなんの問題もない。はず。
なんでそんなに浮かれているかというと、別に記憶の波に揉まれ過ぎて壊れたわけじゃない。
なんと。なんとなんと。
日本に行くことが、いずれ出来るようになることがわかったからだ。
そりゃ、小躍りせずにはいられないさ。
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■異世界移転
”連なる世界”である異世界に移転することができる。
日本は”連なる世界”のうちの1つであるので行くことが可能。
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歴代不死鳥の記憶から、これを知ったときの喜びと言ったら。今の俺は個体としてのレベルが低いから使えないが、歴代すべての不死鳥が使えたようだから、俺もいずれ使えるようになるはずだ。
日本での事は心残りがあったが、どうしようもない事だと諦めようとしてきた。でも、行けるようになるなら話は別だ。前世での家族や親友のことを何とかできる可能があるんだ。
希望があるって素晴らしい。
俄然、こっちでしっかり生きていかなければ。
どうせなら、エンジョイして、日本に里帰りするときは、こっちの特産なんかをおみやげに準備して行こう。
「はうっ...」
気付いたら、3人の気配が、今や俺が受け継いだこの洞窟の入口まで来ていて、3人とも立ち止まってこちらを見ていた。エトさんはこちらを凝視して、プルプルと悶えながらこちらを見て、「はうっ」と口から奇声を漏らしている。
み、見られた...恥ずかしい。恥ずかしすぎる。
よく見たら、他2人もプルプルしている。
こ、これは俺の魅了が発揮されているのか?もしくはエトさん他2人もかわいい物好きか?
ならばダメ押しで可愛さアピールで恥ずかしいのをごまかす。
『どうしたの?』と言いたげに、小首をかしげて相手を見上げる。サービスに両翼もちょっとパタパタしてあげる。
「「「はぅっ...」」」
悩殺され、プルプル悶える3人。
どやぁ。俺可愛いだろう。
とまぁ、ここに来た人たちで遊んでいる場合じゃないな。
『何か御用ですか?』
覚えたての念話だが、うまく使えているかな?
そういえば最初、俺はこっちの言葉を知らなかったが、母不死鳥と会話できたり、エトさんの言葉を理解出来たのは、母不死鳥が使っていた念話のおかげだったと、記憶を受け継いで知った。念話なら言葉でなく思いを伝える手段みたいだから、言語に関係なく会話(というか、意思疎通が)できる。
こっちは、やっぱり日本とは違う言語みたいだ。まぁ、こっちの言語も、すでに記憶のおかげで習得済みだから、普通に話す機会ができても問題ない。文字は使うことがなかったからか、記憶にないので要勉強だ。
「はっ。こ、これは失礼しました。新たなる不死鳥様にご挨拶したく参りました。お邪魔してもよろしいでしょうか?」
惚けた顔をしていた、エトさんの服装に似た神官服に金糸を多少あしらった帽子(?)を頭に乗せた、ホーリーグリーンでウェーブのある髪に、リーフグリーンの瞳のおっさんが慌てて俺に頭を下げる。すげぇ。どうなってるのか帽子が落ちない。
この、おっさん、日本人ぽい顔立ちで、過去はぶいぶい言わせていただろうナイスミドルだ。
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【名前】フェイルランドロット
【種族】人族
【役職】不死鳥神殿 第一階位神官
不死鳥の行いのおかげで、豊かな土地で生活していける事に感謝の念を強く持って暮らしている。
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それに合わせて、おっさんの後ろにいるエトさんともう1人の男の神官が頭を下げる。この人イケメンだな。グレーの瞳に紫黒の髪のウルフカット(かな?)で長い部分は後ろで黒い紐で縛っている。異世界に来てもやっぱりいるかイケメン。人気の日本人歌手グループの1人に似ていて、目つきがちょっと悪い。イケメン爆発しろ。爆発しろー。
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【名前】カゴロフ(影の50番)
【種族】人族
【役職】不死鳥神殿 第二階位神官(バゼネスタ帝国諜報部 幹部)
バゼネスタ帝国の軍諜報部隊に所属する。国からの指令により、不死鳥の監視と利用価値の模索を命ぜられている。仕事一途で帝国に忠誠を誓っている。
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バゼネスタ帝国がどこかわからないけど、この人アウトです。完全に厄介なことする、歴代みんな大嫌いな人間の典型だ。警戒しておこう。
『はい。大丈夫です』
俺の返事を聞いて、3人とも俺の手間1mくらいまで近づいてきた。俺は下から見上げるけど、皆でっかくて首痛いわー。
見上げると、バランスが悪くて尻餅ををつく。何度やってもつく。顔見れないー。
尻餅10回目で諦めた。3人にじーっと見られつつ、うずうずされていたたまれない。
『ちょっとここで待っていてください』
くるっと後ろを向き、とてとて歩いて洞窟の端近くまで移動する。もちろん転けつつ。そして、再びくるっと3人の方に向き直る。うん。この距離なら首が痛くなるほど見上げなくていい。
『やっと見える。あ、見難いのでこっちに近づかないでくださいね。続きをどうぞ』
俺に見惚れていたおっさんが、俺の念話でなんとか戻ってきてくれた。
「...あ、はい。新生の儀が完了した際の光の柱を見た町の者たちが神殿に詰めかけまして、なかなかこちらにお伺いする事が叶いませんでしたが、昼になりようやくこちらにご挨拶に伺うことができました」
おっさんが、一歩だけ前へ出る。
あや?今は昼なのか。生まれたてなせいか、外があまり見えないせいか時間の感覚がよくわからない。
「私は、不死鳥神殿 第一階位神官、神官長とも呼ばれております。フェイルランドロットと申します。日頃より不死鳥様にはとても感謝しております。些細なことでも我々にできることがありましたら、ぜひお声掛けください』
深々と頭を下げるおっさん。フェイルさんと呼ぼう。
『あぁ。どうも不死鳥です』
なんと言っていいかわからず、とりあえず返事をしてみたが、間抜けな返事になってしまった。
フェイルさんが一歩下がると、今度はイケメンが一歩出る。
「神官長補佐を務めます、不死鳥神殿 第二階位神官 カゴロフと申します」
あっさりした挨拶の後、頭を下げるイケメン、カゴロフさん。
ステータス見たときに思ってたが、他の二人に比べて諜報部隊だからかどうか分からないが、名前が短い。第二階位神官とか、なんとなく位が高そうだから、短いのが珍しいとか、怪しいとかはないのかもしれない。
「不死鳥様の側仕えの任を拝する、不死鳥神殿 第三階位神官 エトロワートティエスと申します。まだまだ若輩者で、至らない点が多々あるかと思いますが、よろしくお願い致します」
カゴロフさんが下がると、次はエトさんが一歩前に出て頭を下げる。
『えぇっと、エトさん、今朝?はありがとうございました。皆さん、歴代の不死鳥とは違って変わり者だと思いますがよろしくお願いします』
俺も挨拶の為に頭を下げる。バランスを崩して、その勢いのままでんぐり返りした。
うーん。歩いたり、お辞儀したりの練習をするべきかもしれない。
「エトさんと読んでくださるとは。私とても感激です」
そういって、いやんいやんともだえるエトさん。相変わらず怖いです。
首を少し傾けたまま、3人の方に視線を戻す。
また、プルプル悶える3人は見ないふりしてと。
『早速ですが、お願いがあるんです』
何でも言ってと言って貰えたから、色々頼んでみよう。
ニホンゴムズカシネー
■修正
フェイルランドロット、カゴロフの容姿を追加