4.親
ちょっと怖い美少女が退出した後、ふと、今更周りが気になり、きょろきょろする。
親鳥が言っていたように、腹が満たされたことで落ち着いて余裕が出てきたので一気に開けた周囲をきょろきょろと観察する。俺って実に現金な奴だ。
炎の壁が消え去った先を見ると、ゴツゴツとした岩肌が見える。あっちを見ても、こっちを見ても岩肌だ。丸い小部屋のような洞窟かな?そして、エトさんが退出した穴がある。外に通じているんだろう。
その穴を正面に、右手側は水溜り?小さな湖かな?がある。気になったので近づいてみる。
...うん。今度は2回しか転けなかったぞ。
小さな湖は、上から差しこむ光を反射し、透きとおったアイスグリーン色に輝いている。そんなに深くなさそうで、底から水が湧き出ているのが見えるほど透明度が高い。この湖の水は右奥の壁を突き抜けてどこか外に流れているようだ。
回れ右して後ろを向く。俺が孵化したり、兎食べたりしてた場所だ。そういえば、俺が孵化した卵の殻がいつの間にかなくなっている。きょろきょろしている俺をほっこりとした顔をして座って見ている親鳥もそこに居る。炎の壁があった場所の床が円形に黒くなっている。
上を見上げると、湖の上のあたりだけぽっかりと穴が開いていて、青空と雲が見える。ここが空いているから、洞窟内でもすごく明るい。
下を見る。地面だ。土じゃなく岩のようで、バラエティ番組の特集で見たことあるような洞窟の家の床に似ている。床はタイル貼ったりはしてないけど、きれいに平らだ。床には数か所シミがある。...何のシミ、いや、俺は何も見なかった。
この洞窟、今の俺からすると、体育館くらいの広さだが、エトさんの大きさを考えると、平らな場所は8畳、小さい湖は2畳ほどの大きさかな?
もう一度回れ右して、落ちないように注意して洞窟湖の水面をのぞき込む。
水面には、白くてふわっふわな幼羽に金の瞳、鳥の子色の嘴と足の可愛らしい雛鳥がこちらを見ている。両手?両翼?を右をパタパタ、左をパタパタしてみる。ペンギンみたいな翼を一生懸命パタパタしている雛鳥がいる。何度見直しても、手や足を動かしてみても俺の思うとおりに動いている。
ふぅ
いつまでもこうしてても、何も変わらない。どうしようもない。
チートな鳥として生きていくしかない。
そう。結構好待遇な転生だ。なんせ伝説の鳥|不死鳥≪フェニックス≫なんだ。勘違いではなく、俺TUEEEEな厨二キャラだ。隠しキャラと言ってもいいかもしれない。
『うむうむ。好奇心旺盛でちょこまかしおって、実に愛いのぉ』
親鳥、いや、今更だがお母様か、お父様たる存在だ。どっちだろ?
雛な本能に従い、母か父の元まで歩いて(もちろん転けつつ)その上腹羽に突撃。うわー羽毛フワフワで温かくて安心する。
180度回転して、親鳥の体羽から顔だけ外に出して、あざとく小首を傾げつつ顔を見上げる。
『甘えおってからに。愛い!実に愛いのじゃ!』
蕩けた顔で、俺の顔に自らの顔を寄せてきた。そしてすぐに悲しげな顔になる。
雛らしく甘えた方がいいかなと思ったんだけど、ダメだったか?
『未練少なく消える事が出来ると思ぉておったのに、我は我で、かくも愛い我が子と長く過ごせぬとは、未練、いや、不満じゃ』
ションボリした顔になって、不満を見えない誰かにぶつける様に虚空を見上げた。
それよりも、気になる事が。
消える?えっと、お母様?お父様?は、不死じゃないんですか?
「ピピユ?ピッピ、ピピィチユ?ピチィチユ?ピ、ピチピピピイピユピ?」
『我が子よりそう呼ばれるのは、いい事じゃ。嬉しいのぉ。父でも母でも、間違いない。じゃが我は母と呼ばれたいのぉ』
ふわっと笑顔になるが、またすぐに悲しい顔に戻ってしまう。
『消えるというのはの、不死鳥は本来”連なる世界”に1羽のみの存在であるのだ。誰かに定められておるのかは分からぬが、そういう存在なのだ。しかし、雛を持つ場合のみ、その雛に知性や理性が育つまでは例外的に2羽存在できるのだ』
悲しげな瞳をこちらに向け、申し訳なさそうに、俺の柔らかな幼綿羽を嘴で優しく撫でる。
『此度の不死鳥はすでに知性も理性も持っておる。ゆえに、我にはお前と過ごす時間が、もはや幾許もないのだ。』
そんな...いくらチートでも、この世界の世間なんて一切わからない状態で1人、あ、1羽で放り出されることになるってこと?
チートでも、心細すぎる。
『そんなに不安そうな顔をするでない。我もできることなら、儀式を止めて、お前の世話をし愛でていたいのだが、新生の儀を1度行えば途中で止めることは叶わぬのだ。なに、新生の儀の最終段階が終われば、我が記憶はお前の物だ。そして歴代より受け継ぐ全ての記憶もまた、お前の物だ。ゆえに我ら不死鳥は色や大きさが違えど、いつの時代も人間やエルフなどからは同じ1個体であると思われておるのだ。』
母不死鳥は立ち上がると数歩後ずさり、俺から距離をとった。体からキラキラとした金色の粉があたりに飛び散り始めていた。
『うぬ、そろそろ時間であるようだ。ほかに思い残すことはないが、我が子と別れる事のなんと名残惜しい事か』
光は母不死鳥の体全体に広がり、最初に見た炎をバックに金色に輝く姿と重なる。すごく神秘的でキラキラと綺麗だ。外からの光ではなく、母不死鳥の内部が光っていいるようだ。
あぁ、母不死鳥と別れないといけないんだな。
心細くはあるが、不思議と、怖いとか、寂しいとは思わなかった。やっぱりなんとなくだが、母不死鳥に頼る事が出来ないのがわかっていたから。これも不死鳥の本能か?
『さぁ、受け取るがよいぞ。そして思うまま、自由に生きるがよい』
母不死鳥の体は、まばゆいばかりの光そのものになり、そして弾けた。
弾けた光は、無数の金色の光の玉になり、イルミネーションのようにキラキラと舞い上がった。
しばらく漂った後、それが俺の方に1つずつ飛んできて、体に吸い込まれていく。
途端に、沢山の記憶が情報として入ってきて、両手で頭を掴まれて激しく揺さぶられたような衝撃に襲われる。
ぐわんぐわんと記憶の波に揺さぶられて、視界がチカチカしてくる。
気持ち悪い。吐きそう。最悪だ。
吐き気に耐えられなくなって、俺の意識は闇の中に落ちていった。
週1upできる様になりたいです。
これまでup済みの文のルビの書き方が間違っている事に気付き、直しました。
あいぽんさん使いにくいと言い訳しておきます。