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不死鳥生活、はじめました(仮)  作者: 蒼ととら
〔1〕不死鳥の巣(仮)
15/16

14.緑

遅くなりました。

冒険者らしき集団が見えてきた。

そっと傍の木の枝に着地する。


あわわっ...ふぅ


枝に止まってるの意外と難しい。

しょうがないので風の手で支えて、冒険者の動向を見る。

特に何の気配か気にせず来てみたけど、獲物になりそうな物じゃないな。

冒険者は全部で4人。長剣を持っている者、短剣を両手で逆手に持っている者、2本の木がねじれて1本になった物の上部に青の丸い球が埋まった杖を持つ者、灰色の狼を右側に従える者の4人組。全員男で残念だ。


その冒険者が向いている先には、中学生の時の修学旅行で見たことのある雄の鹿が居た。ただその鹿の体毛は、日本では茶色の部分が青竹色で、角は透き通った翡翠色の水晶のような形。もしかして...?


----------

【種族】翡翠鹿(グリーンディア) (ボス)

【年齢】40歳  【性別】雄

【名前】---

【レベル】38

  体力 23/231  魔力 10/165

  筋力 181  知力 30

  敏捷 165  幸運 40

  器用 20  精神力 50

【状態】流血、衰弱

【スキル】 身体強化(中) / 魔法(中)[地] / (ボス)の威厳 / 統率 / 突進

----------


確かに、密漁されるだけあってすごくきれいな角だ。

体中傷だらけで、さらに左の後ろ足の先を切りとばされていて、ふらふらとしている。鹿が通ってきただろう場所には、血の跡が線になっている。見てるだけで痛そうで、悪寒が背筋を上がってくる。出血量がすごい。


冒険者らしき者達が、翡翠鹿を襲っている。仕事斡旋所(ぼうけんしゃギルド)でも狩らないようにと通達が出てるって言ってたし、これは密漁だよな。


「おい。せっかく追い込んだんだ。商品(つの)を傷つけるんじゃねぇぞ」

「任せとけって。ガイジェ、奴の後ろに回って逃がすな」


狼を右に従えていた者が狼に支持を出す。狼は素早く鹿の背後に回り込み、体勢を低く構え、威嚇に唸り声をあげる。


あ、ヤバい。このままだと翡翠鹿(ほごたいしょう)が死んでしまう。冒険者たちが翡翠鹿に襲い掛かる前に、俺自身に張っているシールドと同じものを翡翠鹿にかける。

翡翠鹿は、最後の抵抗とばかりに、前足に体重をかけ、角を冒険者に向ける。


一瞬の後、冒険者が翡翠鹿に襲い掛かった。


「うらぁっ」

「ガウッ」


--ガィーン

--ドッ


「いっ!」

「ギャンッ」


長剣の冒険者が翡翠鹿に向け勢いよく振った剣は、見えない壁に弾かれて鈍い音を立てる。同時に翡翠鹿に飛び掛かった狼は、見えない壁に思い切りぶつかり、地面に落ちた。


「なっ!...いったい何が...?」

「くそっ。手が痺れた。こんな技使うなんて知らねえぞ」


冒険者たちが警戒して、翡翠鹿から距離をとる。


俺は枝から飛び立ち、翡翠鹿の角にとまる。

あ、シールドは、2つのシャボン玉が1つにくっつくイメージで合体させたから弾かれることはない。

翡翠鹿は冒険者の警戒と足の痛みで、角にとまった俺には気付いていないようだ。


杖を持った冒険者が怪訝そうな顔で俺をにらみつける。でも、取るに足らないと判断したのかすぐに視線を翡翠鹿に戻した。

まぁ、それはさらっと無視して光魔法と、あと風魔法で目をちょっと乾燥させて俺の涙。このコンボを翡翠鹿の左後ろ脚にかける。

無くなった足先に淡く白い光がともる。ついでに、翡翠鹿の全身を覆うように薄く光魔法を発動させて。あ、こっちはすぐ直ったな。


「何!?翡翠鹿は治癒魔法は使えないはずだぞ!」

「見えない壁みたいなのといい、どうなってやがるんだ」

「くそっ、回復なんかさせたらせっかく追い込んだのが水の泡だ。全員叩き込めっ!」


苛立った長剣の冒険者の言葉を合図に、一斉にこちらに剣やら魔法やらで攻撃を仕掛けてくる。全部シールドが防いでるから、俺も翡翠鹿もなんともないけど。

魔法で火が飛んでくると大丈夫だと分かっていてもさすがにトラウマでビクッとしてしまうが、俺が嫌がっているのを察してシールドに届くよりも前に、精霊達が消してくれる。さすが精霊達(さきまわりのプロ)

翡翠鹿は、攻撃されるたびにビクビクしていたが、しばらくそうしていて痛みも衝撃も全く来なくなったことに気付いたようで、不思議そうにしている。

失っていた左後ろ脚の先が、完全に治って、足先に灯っていた光が消える。切りとばされていたところだけ白っぽくなっているけど、光魔法と俺の涙で新たに生えたからかな?

翡翠鹿は、冒険者からの攻撃を受けず、脚の痛みが引いたことで余裕が出てきたのか、そこではじめて体中の怪我や切りとばされた脚が治っていることに気付いて、治ったばかりで少し白い自分の脚を振り返って観察している。

振り返る鹿に振り落とされそうになるが、慌てて風の手で支えて、何とかとまったままいられた。

振り返った時に、角に違和感を感じたのか俺に気付いたようだ。


『他に痛いところはある?』


翡翠鹿にだけ念話を繋いで確認する。血が足りないとかも、俺の涙と光魔法のファンタジーコンボで多分問題ないはずだけど、一応聞いてみる。


『鳥よ、お前が直してくれたのか。何処も痛むところはない。助かった。礼を言う。もしかして、今攻撃を防いでいるのもお前か?』


翡翠鹿が、相変わらず文句を言いながら攻撃している冒険者の方をみる。

そして相変わらずどの攻撃もしっかりシールドに阻まれ届かない。魔力が尽きたのか、魔法を放っていた冒険者は、持っていた杖で殴ろうとしていた。こんな事してるやつらだから馬鹿なんだろうけど、そろそろ無駄だって気付いて欲しい。


『うん。俺のシールドを壁にしてるからここは安全だよ』

『そうか。しかし、お前は見たことのない鳥だな。強い力を持っているようだが、何の魔物だ?』


感心したようにうんうんと頷いて、俺を見てくる。俺、魔物に分類されるのかな?


『俺は、不死鳥(フェニックス)だよ。魔物なのかどうかは知らないけど』

『えっ!...通りで...』


俺が不死鳥だと聞いて、何やらぶつぶつとつぶやいて考え込み始めた翡翠鹿。

あ、そういえば翡翠鹿を保護するって話をしてたな。ついでだし保護しちゃうか。

でも、その前に...


『そこの冒険者達、密漁現行犯で逮捕する!』


まぁ、逮捕じゃなくてただの捕縛だけど。

昨日実験していた闇魔法で闇の手、というか触手を作り、それで4人+1匹を捕獲する。禍々しい方が罰っぽいしね。

もう体力も魔力も底をついてるようだし、捕まえるのは簡単だ。


「だ、誰だ!うわっ!なんだこれ!?」

「ガウゥッガウッ、ギャウッ、クゥーン」

「なんなんだ?この黒のはっ!」

「くそっ!放せ!」

「黒い触手...まさか、魔王の...?」


魔王じゃないよ、不死鳥だよー。

捕まえた4人+1匹は影収納にポイ。一瞬で俺から伸びた影にぬるっと飲み込まれるように消えた。


『さてと、翡翠鹿を保護したほうがいいかもって話を神官の人としたばかりなんだけど、他の翡翠鹿は何処にいるの?ついでだから保護しちゃいたいんだけど。てか、なんでボスなのに1匹でいたんだ?』


ボスなら普通、群れを率いてるもんだよな。1匹ではぐれてるのは、もしかして迷子なの?ボスだけど迷子なの?

声を、いや、念話を掛けた俺にはっとして翡翠鹿ボスが現実に戻ってきた。


『今は子育ての時期。ゆえに群れには沢山の仔がいる。人間どもが襲って来れば仔はひとたまりもない。どのみち我らの角が目当てであろうから、最も大きな角を持つ私が奴らを引き付け、群れから遠ざけたのだ。群れから引き離したのちに撹乱して逃げるつもりであったのだが、思った以上に強くて危ういところであった。もう他に人間の気配もない。ここは安全であろう』


--ヒィーーォゥ


翡翠鹿ボスは上を向いて鳴き声を上げた。

しばらくすると、あっちからもこっちからも翡翠鹿がやってきた。確かに小鹿が結構いる。小鹿含めて50頭くらいの群れだ。

小鹿、可愛いな。


『これが、私の群れだ。保護ということは、我々を貴方の庇護下に置いてもらえるということだろうか?』


『広めに、肉食獣と人間が入れない場所を作って、そこに囲うのを想定してたんだけど、どうかな?なるべく窮屈じゃない広さにするつもりではあるけど。あと、囲われるのが嫌な奴がいるなら、そいつは除外するけど?』


囲われるけど安全を取るか、危険だけど自由を取るか。

選ぶのは個々の自由だ。無理やり囲う気はない。

そう伝えると、数匹のの翡翠鹿がこの場から離れていったが、ほとんどがこの場に留まった。


『私を含む残った者は、貴方の庇護を望む。お願いできるだろうか?』

『わかった。残った奴はついてきてくれ』


開けて翡翠鹿が好む下草がある場所は、既に把握している。

大きな花とピンクの綿毛の花畑が広がる側に、青々とした草の生い茂る平原が広がっているその場所に案内した。


『これは...子育てに適した、素晴らしい場所だ』


翡翠鹿達は、気に入ったのか思い思いに平原に足を踏み入れ、辺りを観察している。


『皆に、”不死鳥の加護”を与えておくよ。これがあれば、火による攻撃は無効になるし、危機が迫れば俺が察知出来るし、すぐに助けることもできるから』


今いる翡翠鹿全てに、魔力を朱肉として脚に纏い、その脚で翡翠鹿の額部分に、ポンとスタンプする。凄く間抜けな感じだが、これが”不死鳥の加護”だ。


『よし。じゃ、あとは保護区にする場所に肉食獣と人間が入れないようにしてくる』


具体的には、今やった”不死鳥の加護”で、指定する範囲を線を描いて囲うだけで、保護区の完成だ。


『ここは素晴らしい。貴方の庇護を受けられて我々は幸運だ。感謝する』

『こんな綺麗な鹿なのに、いなくなるなんて勿体無いからな。気にしなくていいよ。保護区とは言っても、出入りは自由に出来るようにしてある。好きに出歩いて構わないけど、保護区でないと、肉食獣も人間も攻撃出来るから、それだけは注意してね』


神官長が言っていた翡翠鹿密漁問題は、これで絶滅だけは防げるだろう。


翡翠鹿達からお礼を言われ、俺は狩りに出かけた。

森でいろんな物を狩ったり、採取したり拾ったり。

昼は、焼いただけの肉と野菜的な物を食べた。


巣に帰ると、竹で作ったパーティションの向こうに3人の気配がする。知っている気配が2つ、1つは全く知らない気配だ。

嫌な予感がする。

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