13.家
何やら慌ただしい気配で目が覚めた。
寝ぼけ眼であたりを見回すと、暗かったはずの外は、すっかり明るくなっており、朝になってしまったようだ。
昨日は作ったばかりのふかふかマットの魔力に負け、そのまま寝てしまっていたようだ。
俺雛だし、結構疲れてたのかも。きっと電池が切れたように寝ちゃったんだろうな。
目が覚めた原因の気配は、神殿から感じる。
慌ただしく動き回る複数の気配。何かあったのかな?
でも、危険な気配は無いから、魔物が入ってきたなんてことはなさそうだ。
神殿の方はとりあえずスルーしよう。
あ、そういえば、寝落ちしたから、焼き皿と、俺が食べた皿を洗ってなかったので洗っておかないと。
...あれ?
熊竹レジャーシートの上にあったお皿がなくなってる。
キョロキョロして、食器を置いている熊竹の葉の上に置かれているのを見つけた。
ここに置いた覚えないんだけどな。
汚れたまま置いてたら汚いと思って、風の手で持ち上げると、お皿はどれもきれいになっていた。
今度は焼き皿を確認する。焦げ目は残っているが、油や焦げ付きはきれいになっていた。
あ、これってもしかして...
『洗ってくれた...?』
--// 洗っておいたよー //
--// 真似してみたの //
--// 乾かすのは任せて! //
やっぱり精霊たちが先回りしてやってくれたみたいだ。
『ありがとう。助かるよ』
雛だからか、突然電池が切れたように寝てしまったが、それっていつでもどこでも起こりうるから、気を付けないといけないな。
精霊たちは、「気にしなくていいよ」「任せて!」と言っていたが、精霊に世話を焼いて貰う不死鳥なんて、恥ずかしいし、カッコ悪い。便利過ぎてだらけないように気を付けよう。
気を取り直して、朝食にする。
朝食として、昨日肉に添えていた、ピッコリとトアロの実、あと食べ残しの棘兎肉の半分を蒸し焼きにして食べる。
今度はちゃんと後片づけも自分でする。精霊たちはやりたそうにしていたが、自分の事は自分でしないとな。
昨日エトの長さを測らせてもらったので、それを使ってにいろいろ作ろうと思う。
中指の爪の横幅、母さんのを見た時1cmくらいだったなと思ったので、エトの中指爪の幅を1cmとして、2mの竹さしを作成。これを使って、俺の大きさを測ってみると、俺の全長は大体10cmといったところ。俺、やっぱりかなり小さいな。
エトの大きさと比較するに、完全に手乗りで、マスコットに最適なサイズだ。これで、体羽が黄色ならひよこだな。
そりゃ、見上げるのも大変だし、人間が化物級の巨人に見えるはずだ。
不死鳥とは言っても、まだ生後2日だからこんなもんなんだろう。
今日は、この殺風景な巣にD.I.Yで家具を作ろう。昨日の採取や狩りの時に考えていたあれこれを作っていく。
エトのサイズ基準で2m竹さしを併用して、まずは来客用の椅子を作る。
豪華な椅子とかの方がいいんだろうか?
...普通の椅子でいいか。
影収納から材料にする木や熊竹を出して、全て水魔法で水分を奪って乾燥させておく。
釘とかボンドとかないので、父さんも母さんもよく見ていた、アイドルが村や無人島を開拓しているテレビ番組でやっていた組み木を真似して、まず、40cmの正方形で5cmの厚みの板を作る。
正方形の面からみて角から上下3cmの場所に、に昨日できていた灰で3cmの正方形の印をつける。
4つの角全てに印ができたら、その印通りに穴を開ける。
5cm角の四角柱をエトの膝の長さで6本作って、四角柱の片側の端をどの面からみても凸型になるよう、四角柱の上に2cm角の正立方体がくっついたような形にカットする。6本とも同じようにカットを入れれたら、2本の四角柱には凸加工してない側の上から5cmの所に2cm×20cmの穴を開ける。
40cm×25cmで厚み4cmで板を作って、長い方の端から両サイド5cmをさっき加工した四角柱にはめられるように穴の下に合わせて加工する。そうすると余る上5cmぐらいの部分はゆるくカーブを描くようにカット。
作ったものを組み立ててみる。
穴のない四角柱4本は、角に4つ穴の開いた板の穴に1個づつ差し込む。はまりにくい場合は、風魔法で木自体をちょっと圧縮してぎちぎちになるようにはめていく。逆にスカスカの場合は、地魔法でちょっと木を太くなるように成長させて埋める。
ゆるいカーブにカットしていた板の両端に、残っている四角柱の長細い穴にはめて、同じように調整する。
コの字型に組めたら、これをさっき4本の四角柱を刺した穴に反対側から凸を刺して、真横から見ると角ばった小文字の「h」か漢字の「月」のような形に見えるように組んだら、もう立派に椅子だ。穴になっている部分には合わせるように板をカットしてはめて埋める。背もたれ部分は厚く作ったから、背に合わせるように、ちょっと斜めにカーブにへこんだようにカットを加えたら、完成。これをあと4つ作る。
脚を鍛えるため、部屋の中を歩きつつ転けつつ、魔法で作業していく。
5個の椅子は案外あっさり作ることができた。思った通りにカットも調整もできて、魔法様様だ。
これに合わせて、今度は机を作る。
机は、椅子と同じように4つ穴を開けた板に四角柱4つをはめて。
他にもいろいろと作っていく。
かまどの目隠しになるようにカウンター的な物を設置。
カウンターには、洗い物の為の流し台を設置。排水はもちろん外に。カウンターの端には食器を置けるように、小物も設置。
今度は、お風呂を作る。
所々灰色と茶色の細い線が走る、真っ白な石で、箱型の中に小さく長細い箱が片側によって入っている形に切り出す。中の小さい箱がバスタブだ。箱型なのはお湯が周りにこぼれない為。別々にせず切り出したのは、その方が掃除が楽そうだから。排水は流しと同じ場所から外に排出。もちろん大人になった場合・人型になった場合も想定して、エトが入っても広いくらいの大きさにしてある。
木製品は、ニスとかないからトゲが刺さったりするかもしれない。ニスの代わりになりそうな物が欲しいところだ。
忘れちゃいけない、重要な物も作る。
神殿側の入口に、入口から、エトの肩幅の3倍の距離を置き、入口と平行に壁を作る。何で作ろう?
選択肢としては、石、木、竹、昨日の獲物の銀猪の骨、あとは影収納になぜか仕舞われている、歴代の各不死鳥すべての風切羽。魔法で土壁を作るのもできるな。
不死鳥の風切羽は使ったらきれいだろうけど、何ていうか、もったいない気がするので除外。
銀猪の骨は、処理がわからない。まぁ、水分抜いておけば大丈夫な気がするが、入口に獣の骨が大量にある光景は結構怖いので、これも却下。土壁は崩れる可能性を考えて却下。
石、木、竹...正直どれでもいいな。
あ、飲食店で、細い竹?竹の枝?を地面から沢山生えたようにしてパーティションにしていたのを見たことがあったな。竹の枝、一杯余ってるし。夜の、光の精霊石によるライトアップにもきっと合う。これにしよう。
そういえば、俺自身はまだ夜のライトアップを見たことがないな。...電池が持てば近いうち見てみよう。
熊竹の枝の細くて、小さい葉がついている部分を切った物を沢山用意する。水魔法で水分を奪って乾燥させて、さっき図った、エトの肩幅3倍分の場所の床に、洞窟入口に対して平行に穴を開ける。入口の大きさより長めに溝を掘ったら、カラフルな精霊石が見えてきたが、お願いして避けてもらう。
そこに、目隠しになるように密に熊竹を立てる。風の手なら、いくらでも出せるから、手伝いを呼ぶ必要もなく、1人で十分支えて配置できる。
ちょっと離れて、どんな感じか見てみる。
うん。しっかり目隠しになっているし、この位置なら、入室の許可を出す前に中を見られることもなさそうだ。
--// 埋めるんでしょ? //
--// 硬い方がいいのかな? //
--// 簡単だ!任せて! //
固定しようと思った矢先、先回りが得意な精霊達のうち、地の精霊が竹の下の穴の部分を黒っぽいまだらな石に取り込むように固定して、その外側を赤っぽい石で覆った。よく見ると赤っぽい石はレンガを積んだような模様になっていて、なかなかおしゃれだ。黒っぽいまだらな石も、一見すると土っぽく見えて、レンガの花壇に竹が植えてあるような見栄えだ。
...俺がやるよりおしゃれでいいかもしれない。
ただ埋めるだけのつもりでいたため、精霊がやった方がおしゃれになってちょっと悔しい気もしなくもないが、玄関って感じがしていい。
精霊達にお礼を言って、神殿の方にもう一度意識を向けてみる。
あれこれやっている間に結構時間が経ったと思うけど、神殿の方は相変わらず慌ただしい気配が続いているようだ。
でも、こっちに誰か来る気配もないし、問題ない、かな?
もう、兎肉はちょびっとと、猪肉しかないから違う肉欲しいし、野草や果物も集めておきたい。できたら香辛料も。
俺、お出かけしちゃうぞ。いいかな?いいよな。
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目の前に現れた、有名な魔物に、俺は今、すごく興奮している。
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【種族】森粘生物
【年齢】1か月
【名前】---
【レベル】3
体力 14/14 魔力 6/6
筋力 -- 知力 2
敏捷 9 幸運 10
器用 5 精神力 10
【状態】正常
【スキル】 分解 / 吸収
【品質】可
【可食】△ / 無毒
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RPG定番モンスターキターーー
水信玄餅の中央に小さなビー玉が埋め込まれているような外見。内臓なんかは全く見当たらない。
前世で話題だったから食べてみたかったけど、水信玄餅っておいしいのかな?あのスライム、同じような味するかな?
地面這ってるし、粘生物って何食べてるかわからないから食べたくないけどね。
ゲームでよく最弱と言われるけど、弱点だろう緑の核が丸見えだ。これじゃ、確かに倒しやすそう。
今、目の前にいるのは、俺の1.5倍くらいの大きさだ。
俺飲み込まれそうだな。シールドあるから、飲み込まれても大丈夫だろうけど。
それに、こいつ1匹だけじゃなく、その向こうに一回り小さい奴がいる。
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【種族】森粘生物(特殊化可能)
【年齢】1か月52日
【名前】---
【レベル】3
体力 12/12 魔力 10/10
筋力 -- 知力 3
敏捷 5 幸運 15
器用 10 精神力 10
【状態】正常
【スキル】 分解 / 吸収 / 消臭
【品質】可
【可食】△ / 無毒
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小さい方は、核が黄緑色で、鑑定を見るに特殊個体になりかけって事かな?
スキルを見て、俺はいい事を思いついた。
この小さい粘性物は闇魔法で束縛して、生きたまま影収納へ。
大きい方は、風魔法で捕まえて観察する。
スライムって、読む本やゲームによって、水っぽかったり、ジェルっぽかったりするけど、この世界の粘性物はジェルっぽい方だ。
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【名称】森粘生物
別名「森の掃除屋」とも呼ばれる、森の分解者。森の生態系な最底辺に位置する。死ぬ際、地面に触れていた場合、粘液は土と反応し肥料として地面に浸透する。
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土に触れずに死ぬと、このジェルはどうなるんだろう?
興味本位で、風の手を使って核を引き抜いてみた。
すると、盛り上がっていた中央部分が力をなくしたように沈んでゆき、透明な動かないジェルになった。
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【名称】スライム液
不死鳥の攻撃により粘液のみになった物。
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取り敢えず、作っておいた竹水筒に大半を入れて、外に「スライム液」とメモを刻んで、風の手に残っている方に視線を戻す。
少し片方の風の手で掬って、試しに水魔法て水分を奪ってみると、キュッと縮んで固まった。
うん。スライムって地面に浸透できずに固まるとこうなるのか。
試しに、近くに落ちていた枯れ枝に絡ませて、水分を奪ってみると、枝と枝がくっついた。
それぞれの枝をつかんで引っ張ってみる。
バキッ
あ、枝の端だけ折れた。くっついてた場所はそのまましっかり残っている。
ボンドとして使えそうだ。
これでさらにいろんな物が作れそう。
あと、捕まえた粘性物で、欲しかった物を早急に作らねば。
スライム液の入った竹水筒を影収納にしまう。
--グガガガ
--ギガゥオオー
--ギャゥッ
何かの鳴き声が聞こえてきた。気配からすると5匹いるみたいだ。それにここから近そう。
美味しい肉だといいなー。グロは、我慢できる。はず。
俺は、美味しい肉を求めて、鳴き声のした方に向かっていった。