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不死鳥生活、はじめました(仮)  作者: 蒼ととら
〔1〕不死鳥の巣(仮)
12/16

11.作

綿毛色に染まった空が、さらに鮮やかに染まっていき、やがてその鮮やかさを濃い青が埋め尽くし始めてはっとした。うっかり見とれて、もう薄暗い。



くぅーー



思い出したように主張する腹の虫。


集めるのが楽しくなって、いろんなことに気を取られて、ご飯を食べようと思っていたこと自体ををすっかり忘れていた。


でも、すぐに(うち)に戻る手段を俺は持っているから問題ない。

俺は初めて使うから、しっかり感覚を()()()()て、と。

想像するのは、何もない殺風景で、でも精霊が作った幻想的な湖が素晴らしい、代々引き継いできた、今は俺の(いえ)。そうして、自分の影に魔力を投入する。影は勝手に動いて俺の真下に円形に広がりる。そして、一気に上に向かって、円錐状に闇が広がり、俺は闇に飲み込まれる。でもそれは一瞬。飲み込まれた次の瞬間にはすでに闇は晴れ、その先には先程まで想像していた、俺の(いえ)に変わっていた。


うん、成功。


瞬きするような一瞬で移動できる。これが「地点移転」というスキルだ。ゲームなんかでポータルみたいな感じで気軽に使えるスキルみたい。どこまで出かけても、迷子になっても、これを使えば戻ってこれるからすごく安心できる。


ついでに見惚れてしまったさっきの花畑は、まだ何か利用できそうだから、「地点移転」の地点2個目に登録してみた。あの花畑でそよ風にあたりながら、ぼーっとするのもなかなかいいと思う。今度、ぜひしよう。



くぅーー



腹の虫は待ちきれないようだ。


でも、ご飯の前に台所というか、料理するための簡易のかまどとか作ってしまいたい。

とはいっても、物は既に準備してあるから、置くだけでほぼ完成する。


日が暮れて、巣も暗くなってしまって見づらいので、光魔法で球体を作って天井に浮かべる。

そして、かまど的な何かを影収納から取り出す。鑑定を使って、火にかけても割れにくく、熱が伝わりにくい石を探し出し、水魔法で、手前が半円に、上部は大きく空いた風呂椅子のような形に加工済みだ。


設置位置は、やっぱり水の側がいい。かまどを風の手で持って移動する。

巣の奥の洞窟湖との境目、ここなら天井の穴からも近いし、水も近い。

火を使うから念の為、湖と壁の作る角に、底に同じ石を平たく加工したものを敷いて、その上にかまどを乗せる。

そして上の口の部分、本当は金網を乗せたいけどないので、かまどと同じ石を切り出して作った歯車の歯の部分を立てたような足をもつ大きめの皿を乗せると、かまどの縁にぴったり皿の足が乗っかる。上をお皿の形にしたのは、網の形にすると強度が低すぎてすぐ割れてしまったからだ。でもこの形なら、油が滴ってかまどの中や巣を汚さないし、他にも便利な点があるから、これはこれでいいと思う。お皿の変わった足は、空気の通り道をふさがない為だ。


うんうん。我ながらいいアイデアだし、結構うまくできた。

燃料は俺の魔力で十分だし。かまど完成。


次はお皿だ。

実はすごくいい物を思い出した。

前世の小学生向けのテレビ番組で見た、水筒やお皿にしたり、鍋や飯盒にしたりと、いろいろ応用が利く竹。これに似たものがあれば、同じように便利に使えるはず、と。

そして見つけたのは、ものすごく太い竹、名前は「(ベア)(バンブー)」。大きいものだと、俺が横に4人、いや4匹は並んで入れるくらいの太くて立派な竹だ。色は、乾燥した竹のような落ち着いた薄いクリーム色で、毒もないから安心して使える。いろんない大きさを採取してきておいた。


俺の2倍の直径のと、俺より少し小さい直径の2種類の竹を影収納から出す。2種類の大きさ共に節のすぐ下をカットして、大きい方は俺の脚の半分くらい、小さい方は俺の脚と同じくらいの高さにさらにカット。縁の角ばっている所を落として丸く加工。予備用にもう1セット程作っておこう。


切り屑がたくさんついてるから水魔法で洗って、お皿も完成。ゴミ入り水は外にポイ。


風魔法でカットするのって、ノコギリで切るのと違って、こう、面白いほどスパと切れて気持ちいいな。


コップも作ろう。さっき使った小さい方の径の竹と、さらにそれより一回り小さい径の竹を出して、さっきと同じように節のすぐ下をカット。今度はコップだから深めに、大きい方は俺の身長位、小さい方は俺が頭を下げて飲みやすい高さ、脚の3分の1くらいの長さがいいかな?にカット。大きい方は来客用(多分主に使うのは神殿の人だろうな)に5個ほど。小さい方は予備含めて2個作っておけばいいかな?これらも水魔法で洗って、水は外にポイ。


できたお皿とコップは、適当な熊竹の葉を床に敷いて、その上に並べて伏せておく。


うん。お皿もできたし、ご飯を作ろう。

水魔法で脚を洗って、準備OKだ。


ちょっとご機嫌で、3分調理のテーマを口ずさみながら取り掛かる。


ピピピピピチュピ ピピピピピチュピ

ピピピチュピチュピチュピチュ ピーュッピ


今日獲ったばかりの猪、どこが何の部位なのか、どこが美味しい部分か知らない。歴代不死鳥はそんなの気にしないし、知らない。俺も、前世でそんなの気にしたことないから知らない。

なので、適当に俺と同じくらいの大きさに切り出した肉を、啄む練習のためにそのままの大きさで使う。塩コショウふりたいところだが無いので我慢して、今日ゲットしたバジルっぽい味の野草、「シュナート」を風魔法でみじん切りにして、肉にまぶす。


かまどの中に浮かぶ火の玉を想像して火をつける。強さとかよくわかんないから、適当な大きさでキープ。


猪肉から取った油の塊を風の手で持って、かまどに設置した石のお皿に塗る。

塗れたら、肉を投入。


うーん。いい匂いだ。


おっと、ヨダレが垂れてた。危ない危ない。風の手で拭ってヨダレは外にポイ。


いい焦げ色だ。


ここで、水を少し投入。かまどと同じ素材で作った蓋を皿に被せて、蒸し焼きに。火は、焦げないように少し弱くして。


母さんの見よう見まねでやってみたが、蓋してどれくらい待ったらいいんだ?


料理なんか、学校の調理実習とか、時々家で作るくらいしかしたことないから、こんなデカイ肉焼くとかしたことない。


わからん。ま、まぁ、歴代不死鳥は生で食べてたんだし、最悪生でも問題ないだろ。


蓋を開けて、風の手で肉を取り出し、火は消しておく。


作っておいた大皿に置いて、生で食べれる「ピッコリ」という黄緑の細い茎と葉に薄黄色の小花が咲いているかすみ草のような野草を適量、「トアロの実」というオレンジ色の桜桃のような形の果実を2つ洗って添える。


どっちも既に味見済みだけど、ピッコリはパセリのような食感でレタス、トアロの実はちょっと固めの食感でトマトみたいな味がしたので、この配置にしてみた。


ずっと、エンドレスでピヨピヨ歌っていた3分調理の歌も締めくくる。


ご飯完成だ。


ふと、巣の天井ではない方の入り口に、気配があることに気づいて視線を向ける。

こちらを、キラキラした目で凝視しているエトが、そこにいた。


...料理に夢中で全く気付いてなかった。


これは、早急に、扉かパーティションが必要だ。

主に、俺の羞恥心が火を吹くのを防ぐ為に。プライバシー大事。


今すぐ作るわけにいかないので、取り敢えずエトを招き入れる。

ご飯に後ろ髪引かれるが、影収納にしまっておけば、できたてのままだ。

巣の真ん中あたりに、熊竹の葉をレジャーシート代わりに数枚敷いて、そこにエトを座らせ、さっき作ったばかりのコップに洞窟湖の水を入れて風の手でエトの前に出し、おれはエトの前の熊竹の葉に着地した。俺も喉乾いているから、俺用のコップに水を入れて俺の横に置く。


「ご飯中に失礼いたしました。あ、あの、お水、ありがとうございます」


エトは受け取った竹製コップを不思議そうに見たあと、水に口をつけた。


「! 美味しい」


それは良かった。精霊の生み出す水だから、味もいいとかかな?水の違いなんて俺はわからんけど。


『気に入って貰えたなら良かったです。もう夜になりますが、何かありましたか?』


俺は、こてんと首を傾げてみせる。

昼くらいに会ったばかりなのに、こんな時間に来るなんて、急ぎの用かな?


「とてもお可愛らしい...あ。あ、いえ、えっと、本日お預かりした美味芋虫などの売却が叶いましたので、お金をお持ちしました」


思ってたより早い。ありがたい。塩がすごくほしいと思ってたんだ。

エトが懐から布の袋を取り出した。なかなかに大きい袋だし、かなり膨らんでいて重そうだ。

あの芋虫、高級食材だけに結構いい値になったっぽいな。

あれ?量がかなりあるけど、半分取ってねって言ったのにまだ取ってない状態なのかな?


『ありがとうございます。じゃ、半分を神官長に渡してもらえますか?』


「既に半分神殿にいただいております。こちらは残りの半分です」


え?半分取ってこの量なの?芋虫恐るべし。どんだけ高く売れたんだ?ま、まぁ、多いに越したことはない。


『じゃ、このお金を使って塩とかコショウとかって買ってきて貰えませんか?』


「任せてください!...えと、塩は分かるのですが、”こしょう”とはどういったものでしょうか?」


自信満々に言い切ったエトは、すぐに困った顔になった。

あー。異世界だからトマトとかレタスとか名前も姿も違ったもんなぁ。コショウも名前と形が全然違うんだろう。そもそもコショウってどんな植物だったか自体知らないんだが。


『コショウは一旦忘れてもらって、えっと、何て言ったらいいんだろう?...あ、肉や魚にかけたり、スープに入れたりする、ピリッと辛い香辛料とかないですかね?』


この言い方だと、うっかり唐辛子とか、マスタードとかに当たりそうだけど、まぁそれはそれでいいかも。マスタードだったら、シュナートと混ぜてバジルマスタードもどきとか作れておしゃれだ。


「それでしたら、少々値が張りますが手に入れられると思います。量はどれくらいがいいでしょうか?」


この世界の単位とかわかんないし、どうしよう。

あ、竹だ、竹。


『ちょっと待ってくださいね』


エトの邪魔にならないように、後ろを向いて、影収納から、風の手で熊竹を取りだす。俺の2倍くらいの径の根本付近で節の間隔が狭くなっている部分、一番下は俺3匹分くらいの長さだ。この部分を下は節のすぐ下、上は節のすぐ上をカット。

新たに同じくらいの大きさの新しい熊竹を出して、それも一番下の部分を同じようにカット。

今回は角は取らない。上から見て節の部分を端寄りで俺の頭が嵌るくらいの大きさで丸い穴を開ける。もう1個も同じように開ける。

影収納から、今度は、ちょっと柔らかい毒性とかないのを確認済みの木片を出す。

これを、さっき開けた穴より少し大きめの円柱に切り出して、円柱上部が細くなるように斜めに加工。これで、熊竹に開けた穴に栓をする。

うん。いい感じだ。栓を一旦外して、中を念入りに、栓もついでに水魔法でしっかり洗って、水魔法で余分な水分を抽出。さらに風魔法と火魔法で乾燥させて栓を閉め直して。熊竹水筒の完成!

栓ができるし、入れるのに最適だろうとこれを作ってみた。


エトに渡そうと向き直ると、ぽかんとした顔でこちらを見ていた。

文字通り、目を真ん丸にしてすごく驚いているみたいだ。

でも美人だから、驚いた顔も可愛いな。

不審な言動と行動がなければなぁ。残念な美少女だ。


『じゃ、塩と香辛料はこれに一杯に買ってもらえますか?』


エトに出来上がったばかりの竹水筒2つを渡す。


「す、すごいです。熊竹ってこんな使い方もできるんですね。そういえば、この水が入っている入れ物も、もしかして熊竹で作られた物なのでしょうか...?」

『あ、それも俺がさっき作ったものです』

「これは便利ですね。この栓で蓋ができるし。熊竹ってこんな使い方もできるんですね」


俺の答えに「ほぇー」と驚きながら、熊竹水筒を手に取ってしげしげと眺めた。


「あ、塩と香辛料をこれに一杯でしたね。お任せください。すぐに手に入ると思いますので、明日には持っても参ります」


それは助かる。多分塩がないと味気ないごはんになるだろうから。

今日作ったのも、多分物足りない感じなんだろうな。


『お願いします』


そして、ふと考えていたことを思い出した。


『1つ、エトにお願いがあるんですが...』

「なんでしょう?なんなりとっ!」


俺に顔を寄せてきて食い気味に返事してくれるのはいいんだが。近い。近いって。



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