0.火
迫り来るは、真っ赤な炎。
体育で使うカラーコーンを片付けるだけの簡単な当番制のお仕事のはずが、逃げ場のない火災現場になるとは誰も思わないだろう。
誰だよ。カラーコーンを一番奥に片付けるように整理したの。授業に使うのだって赤1色使うだけで十分だろうに赤、青、黄色、緑、白なんて無駄にバリエーション豊富に揃えあって、それを嬉しげに使っちゃうのは。体育教師の沢木だよ。
無駄に爽やかで女子にチヤホヤされて。イケメン滅べ。そして、ここで助かったとしても恨んでやるっ。
誰だよ。体育倉庫裏でしょっちゅう隠れてタバコ吸ってるヤツ。火元は絶対それだろ。
乾燥して、数多の手油を吸った長縄なんて導火線として優秀すぎるんじゃないだろうか。しかし、火の回りが早すぎる。ライン引きの粉が大量に下に撒き散らされて流はずなのに。仕事しろ、石灰。
確かにカラーコーン以外に、バトンも各種カラーコーンと同じ最奥の棚の箱にしまっていたが、臭いも熱も感じる間もなくこんなに早く火がまわるものだろうか。
...え?
誰かに殺されようとしてる?
まさか、そんな、特に恨みを買った覚えはないし。
...な、無いよね?恨みなんか、買ってないよね?
平凡で彼女いない歴=年齢で、いじめだってしてないし、クラスでもいじめなんてない。いじめられてもない。
俺か気づいてないだけで、影でスクールカーストが盛んで、俺は底辺になってる。なんてのもクラスの雰囲気からしてもない。俺、そんな鈍くないはず。...たぶん。
そんなことはどうでもいい。
パニックになってどうでもいいことばっかり考えてしまった。
とりあえず、火急的速やかにここから脱出しなければならないが、先ほどからお約束のように古い体育倉庫の建てつけの悪くなった扉が開かない。
どんだけ力を入れても、両開きの引き戸のどちらもピクリとも動かない。
...やばい
やばいやばいやばいやばい
あ、そ、そうだ。こんな時は大声で助けを呼ぶべきだ。
「おー「キーンコーンカーンコーン」
なんでタイミングよくチャイムがなるっ。
声が誰にも届かないじゃん。
--バキバキっ
え?えぇっ?
な。なに?なに?
明らかにヤバそうな音が聞こえたんですが。
「誰かっ!閉じ込められた!火事!たすけてっ!」
扉をバンバン叩きながら大声を出すものの、チャイムの音が大き過ぎてたぶん誰にも気づいて貰えていない。
その時だった。
--バキバキバキッ
音のした方に反射的に顔をむけた。
燃え広がっていた倉庫の天井から、梁のような部分が屋根もろともおちてこようとしている。
--バキッ
一際大きな音とともに、古い体育倉庫の屋根はあっさりニュートンの法則に従い、自由落下を始めた。
俺の上に。
あぁ。
高校1年生。もうすぐきっと可愛い彼女ができる、ワクドキッな高校せいかつが始まるはずだったのに。
これはもう。
終わったわ。すべてが。人生が。
初めてのサイト利用なので、テストなんかもしつつ更新していく予定です。
人物名なんかは変わる可能性があります。
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