9話ー願い
大丈夫。俺は勝てる。信じろ、信じればそれが力になる。
俺は強い、たかが大尉二体程度に負ける俺じゃない。
思い込め、自信を持て、うぬぼれろ。その意志がある限り今の俺は決して負けない。
機械兵士共よ思い知れ。今の俺は、
…………無敵だ!
「さあ、戯れ言ばかりの弱き討伐者さん。そろそろこの戦いを終わりにしましょう。……今、楽にしてあげますよ」
オバサン機械兵士が言いながらこちらに向かって弓を引く。
「そもそもたった一人の人間の分際でワタクシ達に刃向かうのが間違っていたんですよ。この世にはどうすることも出来ない力の差というものがあるんですよ。それが分かったらおとなしくあの世に行き
「黙れ」
「っ!」
オバサン機械兵士は不自然なまでに勢いよく口を閉じた。顔には困惑の表情が浮かんでいる。
……なるほど。これが教官の能力の力か。
でもこれくらいなら言語暴力と変わらない。俺はまだまだこの能力を使いこなせてはいない。
もっと思い込め。イメージしろ、機械兵士を倒すことを。
「おいお前、 今何したんだヨ! なんで急にあいつが喋れなくなったんダ!」
「うるさいんだよ。さっさとかかって来い」
「‥‥‥‥言われなくても行ってやるヨ!」
チャラ男機械兵士の方も神機の槍を俺に向ける。槍を構えたまま突進して来る。
そして槍が届く位置まで接近すると連続で突いてきた。
しかしその攻撃は俺は動いていないのにかすりもしない。
「なんでだ、なんで当たらないんだヨ!」
「お前の攻撃はもう俺には当たらない」
なぜなら俺がそう願ったから。俺がそう思い込んだから。
以後チャラ男機械兵士の攻撃は決して俺を捉えることは無い。
「‥‥‥‥まだまだですよ! 喰らいなさい、分裂する矢!」
オバサン機械兵士が空に向かって一本の矢を放つ。その矢は徐々に分裂して増えていき、最終的には五百本以上となる。その全てが無限追尾の力により俺に向かってくる。
‥‥‥‥だが、それでも、
「お前の攻撃も俺には当たらない」
全ての矢は俺の体スレスレを通り過ぎていく。俺にダメージを与えることは無い。
「っ!‥‥‥‥あなた何をしたのですか! なぜ急にワタクシ達の攻撃が当たらなくなったんですの!?」
「これが教官の能力だからさ。‥‥‥‥さて、そろそろこっちから行くぜ!」
願え、思え、想像しろ。機械兵士の体が崩れることを。
それだけで目の前の機械兵士は滅びる。
「‥‥‥‥がっ、ぐわぁぁ! なんだよ急に‥‥‥‥俺っちの体が壊れていく。‥‥‥‥お前何したんだヨ!」
チャラ男機械兵士の体が末端から少しずつ消えていく。指先から、足元からどんどん消えていく。
「何をしたか、か。俺はただ願っただけさ。お前が消えることを」
「願っただって。それだけで俺っちが消えるはずがないに決まっている! ‥‥‥‥こうなったら俺っちのとっておきで死ね、人間! 超速投擲!」
チャラ男機械兵士の能力、超速投擲。今の俺にはその能力がどんなものなのかも願うだけでわかる。
超速投擲。どんなものでも自分が持つことが出来れば音速で投げることが出来るという能力、ということらしい。
超速投擲で投擲された神機の槍。確かに凄いエネルギーを持っているようだが‥‥‥‥
「言ったろ。お前の攻撃は俺には当たらないって」
当たらなければ意味がない。
槍は俺の横を素通りしていった。
「ちくしょお! 俺っちがこんな‥‥‥‥とこ‥‥‥‥ろ‥‥‥‥で‥‥‥‥」
チャラ男機械兵士は静かに消えて行った。
二体同時に倒すはずだったがオバサン機械兵士の方はなんとも無いようだ。
くそっ。この能力を使うのは本当に難しい。俺の中で機械兵士倒す、とイメージするとどうしてもゆずを刺したチャラ男機械兵士の事ばかりになってしまったようだ。
だがこれであとはたったの一体だ。今の俺が負けるはずはない。
「‥‥‥‥一体あなたは何者なんですの? それにその能力はどんなものなのですか?!」
「何者か、俺は如月陸哉。そうとしか言えない。‥‥‥‥んでこの能力が何なのか、それくらいなら冥土の土産に教えてやるよ。しっかり聞いとけよ」
この能力は全ての願いを叶える。
俺の尊敬する教官の能力!
「願いは全て現実に、思いは全て結果へと、想像を全て創造する。
‥‥‥‥これが我が師の力。願望創造!」
願望創造。
端的に言ってしまうと、全ての願いを叶える力である。
この能力を使う俺の教官は全世界の討伐者の中でも指折りの実力者となっている。
そんな最強の能力だから俺が万物行使で模倣しても教官が使う願望創造の力を十分の一も発揮できていない。
それでもなお、この能力は最強だ。
「願望創造‥‥‥‥まだそんな力を隠し持っていたのですか。あなたは本当に恐ろしい人ですね」
「そんなこと無ぇよ。この力は所詮他人のものだから俺の強さとは関係ないさ。」
「それでも今のあなたに勝てる気は全くしませんわ」
「ああ、俺も負ける気はしねぇ。だから大人しく消えろ。‥‥‥‥願望創造」
消えろ、忌まわしき機械兵士よ。
そう願った瞬間にオバサン機械兵士は声を上げることすらなく、その存在を霧散させた。
この戦いの終わりはあまりにも静かで、あまりにもあっさりしていた。
◆◆◆◆◆
「‥‥‥‥‥‥‥‥ゆず」
そう。機械兵士を倒してもゆずが刺されたことには変わりない。俺は急いで倒れているゆずの元へと向かう。
「‥‥‥‥」
ゆずはまるで死体のようにその場に寝転がっていた。
胸に耳を当ててみると心臓の音がまったく聞こえない。
呼吸音も聞こえない。
手首を持って脈を確認するが、動きが感じられない。
それは本当に死体のようで‥‥‥‥
「‥‥‥‥ゆず、ねぇゆず。起きてよ。頼むから起きてよ」
ゆずは一切返事をしない。
何でだよ。まだ願望創造は使ったままだ。なら俺の願いは叶うはずだ。
「起きろ、起きろ、起きろよ! ゆず! ‥‥‥‥なんで願望創造を使ってるのに駄目なんだよ。俺じゃあゆずを助けられないのかよ!」
ゆずは動かない。返事をしない。体は冷たいままだ。
現実を受け入れたくなかった。信じたくなかった。
それでも否が応でも理解してしまう。
‥‥‥‥‥‥‥‥目の前のゆずが生きていないということを。
「‥‥‥‥くそぉ! ゆず‥‥‥‥俺の‥‥‥‥僕のパートナーになるって言ったじゃないか!」
涙ながらに叫んでも既に起こってしまったことを覆すことは出来ない。
僕は‥‥‥‥無力だ。
◆◆◆◆◆
(あれ、どうしよう? 完全に出ていくタイミング失った)
リクが戦ってる間は隠れていようと思ってたから、そろそろ出て行こうとしたのに。
完全に私、死んだと思われてるよ。本当にどうしよう?
誰か助けて。