8話ー機械兵士の逆襲
ゆずが刺されてその場に倒れた。その光景を見て俺の中で理性の糸が切れた。
自分で言うのも変な話だが俺は基本的には全力で怒ったりはしない性格だと思っている。生まれてから今日まで生きてきて、本気で怒った事など一度しか無かった。
‥‥‥‥だが、今は俺は本気で怒っている。いや、怒っているというよりは目の前の機械兵士を倒すこと以外を考えることが出来なくなっていた。
もういい。全 て 終 わ ら せ よ う。
「‥‥‥‥絶対反射、放出」
先程ゆずをレーザーから守った時に吸収したエネルギーを一気に機械兵士目掛けて放つ。
オバサン機械兵士はそれを大きくジャンプして避ける。
チャラ男機械兵士はゆずに刺していた槍を引き抜いて、思い切り横に跳ぶことで避ける。
ゆずがその場に力無く倒れる。
まずはチャラ男機械兵士だ。あいつがゆずを‥‥‥‥
「万物行使‥‥‥‥空間転移」
空間転移でチャラ男機械兵士の跳んだ場所へと先回りする。チャラ男機械兵士がこちら目掛けて突っ込んでくる。俺がいることに気付いた機械兵士は、槍を向けたまま突進することにしたようだ。
「武具換装」
武具換装は万物行使の能力の一つでどこからでも武器を取り出すことが出来るというものだ。
この能力で刀を取り出し、迫ってくるチャラ男機械兵士の槍に対抗する。
「死んじゃエ!」
チャラ男機械兵士が槍を直線軌道で突き刺してくる。
「舐めんな!」
俺はそれを刀の腹の部分に滑らせて受け流す。そして隙だらけの背中を叩き切る。綺麗に真っ二つとは行かないが、背中に大きな傷を与える。これはそれなりのダメージなはずだ。
「ぐやっ!」
チャラ男機械兵士が短く声を上げ、その場にうつ伏せに倒れる。
今がチャンス。これでトドメだ。
「‥‥‥‥天地開闢」
チャラ男機械兵士目掛けて種を指で弾く。その種は天地開闢で作り出したもの。天地開闢は木や土などの自然のものを自在に作り、操ることが出来るという能力だ。
だからこの種が機械兵士の体に触れると同時に一気に成長させる。
「えっ?‥‥‥‥なんだこれっ!あ、おい。ちょっと‥‥‥‥俺っちを早く助け‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
チャラ男機械兵士の言葉が最後まで紡がれることはなかった。体に触れた種は急激に成長し、根はチャラ男機械兵士の体に巻き付きながら地面にしっかりと固定されていき、その上に幹が形成されていく。
十秒にも満たないうちにチャラ男機械兵士は大木の中へと消えた。
「あと一体」
そう低く俺が呟いた時、俺の左腕に激痛が走った。矢が貫通していた。
「がっ!」
俺は呻き声を上げた。突然の衝撃に視界が歪む。歪んだ視界の先には神機の弓矢を放った姿勢のままのオバサン機械兵士がいた。
「‥‥‥‥あらあら、どういうことでしょうか?あなたには絶対反射があるから攻撃しても効かないと思っていたのですが。‥‥‥‥もしやあなた、」
チッ! 失敗した!俺の能力の性質に気付かれたか。これは明らかにまずい。
「‥‥‥‥あなた、能力を二つ同時には使えないのではないですか?」
「っ!」
「ふふっ。その顔は図星のようですね。‥‥‥‥なるほど、そんな弱点が。そうと分かれば対策のしようはいくらでもありますよ」
「‥‥‥‥はっ。お前一人で何が出来る? 対策なんか出来ねえよ。お前一体程度なら絶対反射だけで充分だからな」
とは言ったものの、貫かれた左腕は正直動かすことが出来ないし、結構な量の血も出ている。状況はあまり良くない。これ以上攻撃を食らうわけにはいかないので、万物行使を使って、絶対反射が発動せずにダメージを受けるのは避けたい。
(まぁ、左腕が使えないくらいならなんとかなるか)
いくら大尉クラスの機械兵士でも一体だけなら絶対反射だけでも問題ないはずだ。
「‥‥‥‥では行きますよ。ふっ!」
オバサン機械兵士が神機の弓矢を俺に向かって放って来る。その矢は実体がなく、まるで光のようだ。俺はそれを右手で受け止める。
「絶対反射、吸収」
「まだまだ行きますわよ」
さらに連続で矢が放たれてくるがその全てを受け止める。
「何度やっても無駄だ。‥‥‥‥吸収」
オバサン機械兵士の矢、約三十本分のエネルギーを吸収することが出来た。
これを放出してこの戦いを終わらせてしまおう。
しかしその俺の行動よりも早く敵は動き出していた。
「ここからが本番ですわよ。‥‥‥‥無限追尾!」
「っ!」
オバサン機械兵士は神機によって得た能力を発動させ、四方八方に無数の光の矢を放つ。
その全ての矢は俺に吸い込まれるように向かってきた。
(これが無限追尾か。少し驚いたが、何本来たって同じこと。全部を絶対反射で吸収して‥‥‥‥いや、これはだめだ!)
危機を察知し、空間転移を使って矢から逃れる。
今の攻撃を受けてはだめだ。
矢を躱した事に安堵する暇もなく背後に殺気があった。
俺は咄嗟に横に跳んだ。
頬に刃物がかすり、少しだが傷ができる。
「‥‥‥‥あっちゃー、躱されちったヨ。ごめんごめん」
「ちゃんと仕留めてくださいよ。せっかくワタクシがチャンスを作ったというのに」
俺を強襲してきたのは木の中に埋もれたはずのチャラ男機械兵士だった。
「あれっ、おかしいな。お前は倒したはずなんだが」
「俺っちがあのくらいでくたばるわけないっしょ」
「そうかい」
倒しきれていなかったのか。まぁ、いいだろう。
きっとなんとかなる。
「さて、これがあなたの二つ目の弱点ですね。あなたの絶対反射は吸収できるエネルギーに限界があるのですね。だから今のワタクシの攻撃を躱すしか無かった」
「‥‥‥‥大正解だよ。確かにそれが俺の絶対反射の唯一の弱点だよ。だがそれでも、お前らは俺には勝てない」
「強がりですね。この絶望的な状況でもまだ諦めていないんですか?」
「諦める? そんな事するわけないじゃねえか。俺が勝つんだから」
そう。まだだ。確かに状況は絶望的だが、まだ俺にはとっておきの万物行使で使える能力がある。
万物行使は一度でも見た能力を模倣する能力。
一度だけ見たあの人の最強の能力を使う!
‥‥‥‥教官、少しだけ力を借ります。