4話ー柚姫の本気と……
「お嬢さん、一人で良かったのかい?二人で来てもいいのだよ?」
「余計なお世話よ。あんた程度私一人で十分よ。リクの手を煩わせるまでもないわ」
「ははっ、そうかい」
「そんな事よりあんた喋れるのね」
「当然さ。私くらいになると言語の使用くらい造作もない」
「ふーん、そうなんだ。まあどうでもいいや。どうせあんたはすぐ消えるんだから」
「消えるのはあなたの方ですよ。討伐者。……では尋常に勝負と行きましょうか」
「ええ」
機械兵士と言ってもずいぶん人間らしいのもいるものだ。
私が今までに戦ってきた機械兵士は尋常に勝負などという感じでは無かった。
基本的には数で攻めてきたし、不意打ちなどの卑怯な事をしてくる者もいた。
それと比べると今目の前にいる機械兵士には少しだが好感が持てた。
久しぶりにいい戦いが出来そうだという高揚感もあった。
「……沓流清灑!」
能力を発動して水を精製する。
相手は初めて戦う大尉クラス。今までのどんな相手よりも強い。
でも臆するな私!
勝てない相手じゃない。いや、勝てるに違いない。
勝機は必ず訪れる!
「行くわよ……瀲濤!」
先程の軍曹を一掃した技。この技ならば大尉にもダメージを与えられるはず。
大波が大尉の前後から襲う。
波がぶつかり激しく水しぶきが舞う。
「…どう?」
倒せてないにしても多少のダメージは通ったはず。
今のうちにもう一撃、と思い波が引く瞬間を待つ。
そして私は戦慄した。
「っ! いない!?」
波がぶつかるその時までは確かにいた機械兵士が消えていた。
どこに行った!?
私は焦った。
戦いの途中では絶対に相手の姿を見失ってはいけない。私はそう教わっていた。
焦るな! 落ち着け私!
自分に言い聞かせる事で冷静さを取り戻そうとする。
そのおかげで波が引いたあとの場所に目立たないが穴が空いているのを見つけた。
機械兵士はおそらく地面に潜り瀲濤をやり過ごしたのだろう。
しかし気付いた時には既に機械兵士が背後にいた。
「隙だらけだよだよ、お嬢さん」
「っ! しまった!」
機械兵士がサーベルで斬りつけてくるのをかろうじて氷を精製してガードする。
「くぅっ!」
氷でガードしたおかげで直撃は免れたがサーベルが左腕をかする。
機械兵士はまた地面の中に消える。
「なかなかに厄介ね」
地面から攻撃して来るなら空に逃げればいいかもしれない。
しかしそうしたら近郊状態になってしまい、長期戦は避けられない。
その時に不利になるのは間違いなく私だ。
機械兵士には体力に限りが無いが、私はいつか体力に限界が来てしまう。
そうなれば能力も切れて負ける。
だから空に逃げるのは得策では無い。地面で戦うべきだ。
「さて、どうしよっかなー…」
その時機械兵士が真下から現れた。
「こちらですよ」
今度は右足を狙われたが、これもかろうじて氷で防ぐ。
「ちょっとぉ! 紳士みたいな喋り方する癖にスカート履いてる女子高生の下から急に出てくるのは非常識じゃない!? 紳士どころか変態なの? 」
「それは失礼。しかしここは戦場だよ。そんな事を気にしてる暇があるのかい?」
軽口を叩いてみるも反撃する暇も無く機械兵士はまた地面の中に逃げ込んで行った。
その後の展開は一方的だった。
背後、下、右、左、正面、どこから来るのかわからず、
やられる一方だ。
機械兵士に何度も攻撃され、ガードが間に合わず受けた傷が体中に増えていく。
「んもうっ! 制服もボロボロじゃない! これ高いんだからね!」
「ははっ、そんな事の心配かいお嬢さん? そろそろ本気でいかせてもらうよ」
言うなり機械兵士はまた地面の中に消える。
「さてと……そろそろ反撃させてもらうわよ!」
もう五分近くもいいようにやられていた。
いい加減相手のターンは終わりにしよう。
「くらえ!」
機械兵士が地面から現れ斬り掛かってくる。
今私が立っている場所の二メートル右。
「甘いわ!」
私は機械兵士の攻撃の斬撃をあっさり氷を盾にして防ぐ。
「はぁっ!」
「何!?」
自分の位置が気付かれるだけでなく、私がサーベルを完璧にガードし、さらに反撃までして来たことで機械兵士は驚愕したようだ。
「……私がどこから現れるのかわかっていたのか?」
「もうあんたの行動パターンは全て見切ったわ。私分析力と記憶力が自慢なの。五分もやられ続けてたらあんたの動きくらい簡単に読めるわ」
「……そ、そんなことがあるはずはない!」
激高して機械兵士はまた地面に消えた。
そして背後四メートルの場所に現れる。
これも予想通り。
次は目視すること無くサーベルを躱し、がら空きの背中に攻撃を叩き込む。
「王水!」
全てを溶かす超強酸。
機械兵士の背中に触れてすぐに機械兵士の体を僅かに溶かす。
「ぐあぁっ!」
機械の体にも酸はしっかりきくようだ。
「ふふっ。これでわかったでしょう。もうあんたが地面に潜っても無駄よ。」
「…はぁはぁ……確かにそうみたいですね」
機械兵士は先程の一撃でずいぶんと疲弊しているようだ。
攻めるなら今か?
そう思うが相手は大尉クラスだ。慎重にもなってしまう。
迷っていたら機械兵士が先に動いた。
「姿を隠しても意味が無いのなら、真っ向から勝負と行きましょう!」
そして機械兵士は右腕を前に掲げる。レーザーを放つのだろう。
「くらいなさい!」
レーザーが放たれてすぐに私は防御する。
「海神壁!」
先程の軍曹のレーザーは海神壁一枚で防ぐ事が出来た。
だが今の相手は大尉だ。
念には念を入れて壁を三重に張る。
「大尉と言っても所詮は機械兵士ね。バカの一つ覚えみたいにまたレーザー?」
レーザーは一直線に水の壁に向かってくる。
しかしレーザーは壁に当たる直前に曲がり、壁を避けて私に向かってきた。
「くっ!」
目の前に迫っていたレーザーを体を捻ってぎりぎりで躱す。
「ほう。なかなかの身体能力だね。私のレーザーを躱されたのは初めてだよ」
「そ。ありがと」
機械兵士は先程まで激高していたのが嘘のように冷静だった。
一難去ってまた一難。
地面に潜って不意をつく、という戦法を何とか攻略したかと思えば、次は曲がるレーザーと来た。
さてどうしたものか。
これでは海神壁による防御も出来ない。
躱し続けるのも無理だろう。
「どんどん行きますよ……はっ!」
再びレーザーが放たれる。
私はこれを水をドーム状にして周りを覆う、という方法で防御しようとした。
「これなら曲がろうが関係ないわ!」
急いで考えた割にはいいかもしれない。
この防御方法なら曲がるレーザーでも確実に防ぐ事が出来る。
しかしこの考えは甘かった。
レーザーは地面から現れた。
気付いた時にはもう遅く、レーザーが直撃したことによる衝撃が体中を走った。
「んっっ!」
思わず膝を付き、防御のために作ってあった水のドームも消滅した。
そしてその正面には機械兵士が勝利を確信した目でこちらを見ている。
「私の勝ちだね。お嬢さん」
「……はぁ、はぁ……まだ、まだ私は戦える!」
「そうかい……ならば死にたまえ、討伐者!」
そしてとどめのレーザーが放たれる。
「逃げて、ゆずーーー!!」
声が聞こえた。私の大好きな声だ。
助けに来てくれたのかな。
でもここで助けられるわけには行かない。
「私は大丈夫だよ」
レーザーは私の体の正面で巨大な水の塊によって阻まれた。
「なんだと!?」
機械兵士が驚きの声を上げる。
そして巨大な水の塊は意思を持っているかのようにどんどん形を変えていく。
最終的に人間の上半身のような形になった。
これが私のとっておき。
「海を統べる海神の力の前にひれ伏しなさい! 海神召喚!」
この技は巨大な海神を作り出す、私が使える最大の攻撃力だ。
この技で勝負を決める!
「いくわよっ! ……降り注ぐ海神の槍!」
私の作り出した海神が空中に浮かび上がり、そして無数の水の槍が機械兵士の頭上に降り注ぐ。
逃げ場は無い。
「私の勝ちね」
私が勝ち誇った顔で機械兵士に言うと、機械兵士は驚きの表情から憤怒の表情へと変わった。
「…な…舐めるなーー!!」
叫び、頭上に迫る槍に向かって大威力のレーザーを放つ。
しかしレーザーによって防ぐ事が出来る槍はせいぜい十本程度。
降り注ぐ海神の槍の槍は百本を優に超える。
「無駄よ。……まあでも私の降り注ぐ海神の槍を少しでも防ぐなんてなかなかすごいじゃない」
「……くそっ、くそっ」
「でもこれで終わりよ。さよなら。あんたとの戦いは少しだけ楽しかったわよ」
数瞬の後に機械兵士に大量の槍が降り注ぎ、機械兵士は機械の体を爆散させた。
「……ふふっ。勝った、大尉クラスの機械兵士に勝ったー!」
やった。勝てた。
これできっとランク六になれるはず。
リクのパートナーになれる。
これでリクと一緒に戦っていける。
戦いだけじゃない。これからはリクと一緒に過ごす時間が増えるはずだ。
一緒に戦って、一緒に過ごして、一緒に笑う。
そんなすぐそこに迫っている未来を想像したら、とてもワクワクしてきた。
しかしその心の隙を付くかのように目の前に突然拳を構えた人影が現れた。
私は瞬時に理解した。目の前にいるのが機械兵士だという事を。
「っ!」
「いきなりで悪いが……死ねや」
迫り来る拳は水を精製してガードする暇も無かったため何とか自分の顔と相手の拳との間に腕を滑り込ませる。
そして拳は振り切られ、ガードした腕だけでなく、体全体に凄まじい衝撃が走る。
「が……は……っ」
私は吹き飛ばされて近くにあったマンションの壁に背中を打ち付ける。
「……はぁ、一体、何が起きたのよ?」
「殺されかけているのでっすよっと」
先程の機械兵士とは違う容姿。
まだいたのか。
「……はぁ、あんたは…何なの?」
「おれっち?…おれっちは大尉ってとこだな。ああちなみにさっきお前をぶん殴ったのも大尉ね。」
「……っ! そん…な…」
あんなに苦労して倒したのにまだ二体も残っていたのか。
もうさっきの一撃で体はほとんど動かない。
状況は絶望的。
「あら、もう虫の息じゃありませんか」
そんな声が頭上から聞こえてきた。
「……誰?」
「ワタクシもそちらのと同じで大尉でございます」
「……うそ…でしょ…」
「嘘じゃねーよ。現実を見ろ」
さっき私を殴った機械兵士まで戻って来た。
目の前には一体倒すのがやっとの大尉が三体。
「……もう…だめ…なの?」
「ははっ。さすがに諦めた?」
「なんだよこいつ。全然よえーじゃん」
「不意打ちしといて何を言ってるんですか」
目の前で繰り広げられている会話がどこか遠い所とように感じた。
「さてと、任務遂行のためにこいつは消すよ」
「はいよ」
「了解です」
機械兵士が少しだけ遠ざかり、私に右手を向けた。
「ばいばい」
私は死ぬの?
こんなところで。
これからリクと一緒に楽しく過ごすはずだったのに。
やだ。やだ。まだ死にたくない。
私はもっとリクと生きたい!
「………助けて!リクっっっ!!」
絶叫した時にはすでにレーザーが目と鼻の先まで迫っていた。
もうだめだ……っ!
半ば諦めて、固く目を瞑る。
その刹那。
何の前触れも無く目の前にリクが現れた。
そして大尉三体分のレーザーを右手だけで受け止める。
「絶対反射、吸収!」
レーザーはリクにぶつかると同時に霧散した。
そしてリクは私に優しくほほ笑んだ。
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