3話ー柚姫の力
機械兵士が現れたという場所に到着するとかなりの数の機械兵士が立っていた。
まずはビルの影に隠れて相手の数を確認した。
「一、二、三……一等兵が十三体、軍曹が四体か。ゆず行ける?」
「余裕よ!この程度なら五分もかからないわよ!」
想定してたより数が多く、心配になりゆずに確認したが、ゆずはまたもや自信満々に答えた。
「じゃあ行ってくるから。リクはここで見つからないように見ててね!」
「うん。気を付けてね!何かあったらすぐ助けに行くから」
「おっけー!頼りにしてるから!」
僕との会話を終えると、ゆずはビルの影から飛び出して機械兵士に向かって高々と叫んだ。
「あんたらの相手は私よ!さあかかってきなさい!」
その言葉を聞いて言葉を理解した軍曹は獲物を見つけた獣の如き目をゆずに向けた。
そしてゆずの体をオーラが覆う。能力を発動したのだろう。ゆずの能力は知らないが、オーラからしてかなり強力そうだ。
「沓流清灑!」
ゆずが能力を発動すると何も無かったところから水が溢れ出した。その水は地面に落ちることなく空中を漂っている。
「水を操る力?」
おそらくそうだ。ゆずの能力は水を作り出し、操るというものだ。
「はあぁっっ!」
ゆずが声を上げ、右手を横に振ると水流が機械兵士を襲う。軍曹はさすがと言うべきか凄まじい勢いの水流を受けても、その場に立ち続けていた。一方、一等兵は水流に完全に体を持っていかれていた。
流された一等兵達は丸い水に閉じ込められて身動きが取れなくなっていた。
「どうよ私の水牢は!動けないでしょ」
なるほど、確かにあれは水牢と呼ぶのに相応しい。水に閉じ込めるというのは身動きを封じるというだけでなく、人間相手なら呼吸すら封じてしまう。
もしゆずの攻撃が自分に向けられたと思うとゾッとした。
「さあ、これで終わりよ」
球体の水に包まれた一等兵達が一斉に動かされた。
空中で一等兵達の体がぶつかり合う。ゆずが水牢を操作しているのだ。
何度も体をぶつけ合いバラバラになったところで機械兵士だったものが地面に落ちた。
一等兵十三体は全滅していた。
しかし水牢を操っている間、隙だらけだったゆずを軍曹が見過ごすはずが無かった。
ゆずが一等兵を倒した頃には四体の軍曹はゆずを取り囲んでいた。
一等兵を倒した直後に四方から軍曹のレーザーが放たれた。
真っ直ぐ向かってくるレーザーをゆずはほとんど見ていなかった。
「危ないゆず!!」
「大丈夫だよリク。……海神璧!」
軍曹が放ったレーザーはゆずが作り出した水の壁に阻まれ、一瞬で散った。
「ねっ!大丈夫だったでしょ」
「う、うん」
「だから安心して見てて。すぐ終わらせるから」
軍曹のレーザーをあんなにも簡単に防いだのは正直驚いた。少なくとも僕はランク四であんなふうに軍曹のレーザーを防げる人を見たことが無い。
僕はゆずの力を舐めていたのかもしれない。
あれだけの力があれば軍曹程度なら余裕だろう。
ここはゆずの言葉通り安心して見ていることにしよう。
「よしっ、一気に行くわよ!……瀲濤!」
ゆずの言葉の直後、先程よりも大きな波が軍曹を襲った。そして一等兵と同じように水牢に閉じ込められ、空中に運ばれたが、さすがと言うべきかレーザーで脱出した。
軍曹達の前には氷の上に立って空中にいるゆずがいた。水を凍らせて使う事も出来るらしい。
ゆずの背後には津波の如き大波があった。
それは容赦無く軍曹達を襲う。
しかしそれで終わりでは無かった。
なんと軍曹達の背後からも津波が迫っていたのだ。
「津波の水圧で潰れなさい!」
ゆずが掲げていた右手を下ろすと津波が更に勢いを増して軍曹達に迫る。
軍曹達がレーザーを放ち必死に抵抗するが、津波の前では無力だった。
「すごいな…」
誰にいうわけでもなく声が自然と口から漏れた。
津波に呑み込まれた軍曹達はその勢いと圧力であっさりとバラバラになった。
まさか軍曹四体を含む機械兵士十七体を五分どころか三分足らずで倒してしまうとは…
満面の笑みを浮かべながらゆずが僕の方に走って来る。
「どう? すごいでしょ? ほめてくれる? ほめてくれるわよね。てかほめなさい!」
ゆずが元気な声で言った。
何て声を掛けようか考えている時にゆずの背後に人影が見えた。
思考をゆずへの言葉を考える事からゆずの背後の人影へとシフトした。
これはかなりおかしい。
ここは確かに街のど真ん中だが、僕ら二人以外がいるはずはない。
なぜなら機械兵士が現れたらすぐに組織の人間が機械兵士をこの世界の裏側と呼ばれる場所に転送させるのだ。
そして世界の裏側には人も動物もいない。あるのはその場の景色だけ。
つまり今見ている景色はいつもの街の景色だが全く別なのだ。裏側でどれだけ街を壊そうが表側に被害が出ることは無い。
よってここにいるのは僕とゆずと転送された機械兵士だけのはずなのだ。
だから僕ら二人以外がいるというのはかなりイレギュラーな事態だ。
そう思いじっくりと人影を見てみた。
「……っ!!」
そして気付いた。
あの人影は機械兵士だ。それも先程までの一等兵と軍曹よりもランクが上の大尉クラスだ。
一等兵と軍曹にある機械らしさが無いが、むき出しの右腕に路線と呼ばれる階級章が見えた。
「……ゆず、逃げて」
「へ? 何言って……!!」
背後を振り返ってゆずも気付いたようだ。
大尉。
機械兵士のランクは下から一等兵、軍曹、大尉、大佐、大将、元帥と分けられる。
大将と元帥の強さはまるで別次元だ。
今まで発見された大将の数は十二体だが、この内討伐されたのはたったの三体だけである。
元帥に至っては発見された数が三体しかおらず、討伐されたのは一体である。
大将と元帥の討伐任務が出される事はほとんど無いが、大尉や大佐は時折討伐任務が出される事がある。
しかし大尉の討伐任務はランク六以上の討伐者にしか出ることは無い。ランク六以上と言っても特別な場合を除いてほとんどがランク十以上だ。
幸いな事に僕はその特別な場合に当てはまる。
僕一人なら大尉一体くらいなら倒せるはずだ。
けどゆずを守りながら戦うのはきっと無理だ。だからゆずに逃げるように言ったのだ。
けれどもゆずは僕の言葉に反論した。
「私は逃げないよ。 こいつも私が一人で倒す!」
「何言ってるの! ここは僕がやるからゆずは先に帰ってて!」
「やだ。 今日は私に任せてくれる約束だったじゃん!」
「わがまま言わない! 大尉がいるとわかっていればそんな約束はしなかった!」
「こいつを私一人で倒せなきゃリクとパートナーになれないもん! こいつを倒して私はランク六になるの!」
確かに大尉を倒せばゆずのランクは六になるだろう。
いい加減自分に正直になろう僕。
ゆずは強い。僕が守る必要が無いくらいに。
大尉を倒すことが出来るくらいに。
決断しろ僕! 本当に任せて良いのか? 後悔しないか?
「大丈夫。私は負けないから」
この言葉を聞いて謎の安心感を感じた僕は決心した。
「……わかった。 ここはゆずに任せるよ。気を付けてね」
「うん。見ててねリク。私の戦いを」
そしてゆずは再び機械兵士と相対した。
「さあ。行くわよ!」
一等兵と軍曹を倒した直後に大尉の出現。
これは何者かによって仕組まれているのかもしれない。
けれども今の私にとってそんな事はどうでもいい!
私は私の大好きな人に近づくため、大好きな人と一緒にいるために目の前の敵を倒す!
ただそれだけ。
最後まで読んで頂いてありがとうございました。良ければ感想などよろしくお願いします。