2話ー討伐者
《討伐者》。
機械兵士を討伐する為に組織に入っている人の事。組織の全容を知る者はほとんどおらず、謎に包まれている。討伐者の才能があると組織に判断されるとなぜか携帯に組織から連絡があり、討伐者ランクを与えられる。
討伐者にはランクが一から二十まであるが、ランクが二桁の人はほとんどいない。ランク二桁はまず例外無く化け物じみた能力を所有している。
ランクを上げるには基本的には機械兵士を多く倒す事だが、僕が先日倒したような討伐レベル三以下の一等兵クラスの機械兵士を何体討伐してもランクは三以上にはならない。
ランクを四以上に上げるには討伐レベル四以上の軍曹を規定数倒さなければならない。
かくいう僕もランク六の討伐者である。
僕がランク六になったのは中学三年の時で、偶然遭遇した大尉クラスの機械兵士を倒したためである。
こんな普段から戦いに明け暮れる僕だが、普段は普通に高校生をやっている。
確かに討伐者として戦うために組織と他の討伐者より深く関わっているがまだ十六歳の僕は学生が本職だ。
僕が通う黄緑高校は高台にあるので見晴らしが良く、景色が綺麗なことで有名だ。さらに名前の通り木々が生い茂っていて、自然豊かな学校である。
偏差値や部活などの成績もそこそこで毎年多くの生徒が入学する。
この学校は登校するのに必ず長い坂道を登らなければいけない、という事を除けばかなりいい高校だと思う。
うん。坂道さえ無ければ。
「はぁはぁ。 疲れた。何で僕は毎日こんな坂道を登らなければいけないんだ」
長い坂道を自転車を押して歩く僕はまだ入学して二ヶ月しか経っていないというのにこの坂道にうんざりし始めていた。
まだ六月だというのに自転車を押して歩く生徒達は僕も含め皆額に汗を浮かべ疲れた表情をしている。
僕が必死に坂道を登っていると後ろから聞き覚えのある声が掛けられた。
「おっはよー!リク!」
声を掛けてきた相手は僕の肩を叩きながら挨拶してきた。
綺麗な栗色の長い髪はポニーテールになっている。顔立ちもとても整っていて、唇にあるほくろが色っぽさを醸し出している。さらに同姓からは羨望の、異性からは熱烈な視線が向けられるスタイルなのだ。バストは制服でも膨らみがわかるくらいに自己主張しているし、ウエストは引き締まっているし、スカートから伸びる足はスラリと長く、細く引き締まっている。
まあとにかく彼女はすごく美人で魅力的なのだ。加えて明るい性格で話しかけやすいということで、とにかくもてるのだ。入学二ヶ月ちょっとで男子生徒に告白された回数が両手の指では足りないくらいに。
彼女は僕の中学からの友人の宇佐美柚姫で、僕が討伐者である事を知っている数少ない内の一人だ。
「おはよー、宇佐美。朝から元気だね」
「リクは疲れ過ぎよ。というかそんな事より宇佐美って呼ぶのいい加減やめてよね。中学の時みたいにゆずって呼んでよ」
「いや流石に高校生にもなって付き合ってもいない男女が名前で呼び合うのはどうかと」
などという言い訳をしようとするとゆずに、
「ゆずはあだ名でしょ?リクも」
反論の余地なし、という程ピシャリと言われてしまった。
さらに「ならいっそ付き合っちゃう?ふふっ」などと言われて僕は黙り込んだ。こいつがたまにこういう冗談を言う事は知っているが、やはりこんな美人に言われると精神的には普通の高校生である僕には黙る以外にどうすればいいのかわからなかった。
「はい、というわけでこれからも私はリクって呼ぶし、リクも私の事をゆずって呼ぶ事!わかった?わかったね。てかわかって」
今だとばかりにゆずが疑問、確認、命令の順でまくし立てるので、僕は諦めた。こうなった時のゆずは頑固だ。
「はいはい、わかったよゆず」
と僕が言うと、
「最初からそう言えばいいのよ」
と満足そうな顔でゆずは頷いた。
その後そのまま二人で学校に向かっているとゆずが僕にだけ聞こえるくらいの、さっきまでとは違う真面目な声で呟いた。
「結局いつになったら私と組んでくれるの?」
彼女も討伐者である。そして討伐者は普通二人一組で戦うことが多い。
その方が圧倒的に生存確率も戦闘効率も上がるからである。
先月僕はゆずにパートナーになってと誘われて、僕はこれを未だに保留にしている。
僕は今まで一人でも何も困る事も、大変な事も無かった。
だがもし今ゆずとパートナーになってしまうとゆずを僕の討伐に付き合わせてしまうかもしれない。ゆずが戦うところを直接見たことは無いが、まだランク四だという事は知っている。なので軍曹クラスならまだしも大尉クラスの機械兵士相手だと命の保証が出来ない。
「僕は今まで一人でも何の問題も無かったから、むやみにゆずを危険にさらしたくないんだ」
「それでも私はリクの隣で一緒に戦いたい!そのくらいの力は持ってるつもりよ。絶対足は引っ張らない。だから、」
「僕が日々やっている任務はランク四に務まるものじゃないよ」
ゆずの言葉を遮るように諭すように僕は言った。
「せめて僕と同じランク六になれるくらいの実力がある人とじゃなきゃ僕は組めない」
少し厳しい言い方だったかもしれないが全て事実なのだ。
僕の任務は先日のような一等兵クラスの討伐などの簡単なものばかりではない。大尉クラスの機械兵士の討伐任務も少ないがある。この時にゆずがいたら僕はゆずを守れる自信が無い。
「そっか。ランク六か。……もし私がランク六になったらその時は私のパートナーになってくれる?」
僕の言葉を黙って聞いていたゆずはおもむろに言った。
いきなりランク四から六になるには大尉クラスの単独討伐や、軍曹クラスを大量に倒さないといけないので、どうせ無理だと思って僕は、
「うん。ゆずがランク六になったらパートナーになるよ」
と言った。
「よしっ!言ったね。その言葉しっかり覚えといてよね!絶対近いうちにランク六になってやるんだから!!」
ゆずは僕の言葉を聞いて、自信満々に宣言した。
いつも通り退屈な授業が終わり、帰ろうと思っていた時に僕とゆずの携帯から同時に着信音が鳴った。
『討伐任務っ!!』
携帯を見て、二人同時に呟いた。
携帯に届いた任務の概要を要約すると、〈街に出現した一等兵と軍曹の機械兵士を討伐せよ〉という事らしい。
「よしっ、急いで向かおう!」
「うん!」
僕はゆずと一緒に機械兵士の元へ向かった。
走っている途中にゆずが話しかけてきた。
「ねぇ、なんで今日の任務は二人に届いたの?」
「さあ?ただ近くにいたからってだけじゃない?」
「でも今までリクの近くにいてもそんなことなかったよ」
「うーん。確かに言われてみると少し変かも」
「でしょ!」
「でもまあいいじゃん。僕もゆずが戦うところ見てみたかったし」
「そうなの!じゃあ今回は私一人で戦ってもいい?私はリクの戦うところ見たことあるし」
この言葉には少し迷った。一等兵だけだったならランク四のゆずならおそらく何の問題もないと思うが、今回は軍曹もいるという話だ。
という僕の考えを察したのかゆずが、
「軍曹なら何度も倒した事あるし、危なくなったらすぐ助けてって言うから。お願いリク!」
と言ってきた。
軍曹を何度も倒した事があるというのには少し驚いた。ランク四だと普通は軍曹相手だとかなり厳しい。なのでゆずはもしかしたらランク以上の力があるのかもしれないと判断し、ゆずの頼みを聞くことにした。
「わかった。じゃあ今回はゆずに任せるよ。ゆずが助けてって言うまでは僕は見てるだけにするよ」
「やった!ありがとーリク!」
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