断罪
――彼等は、全てを失った。
地位を。資産を。領地を。彼らはありとあらゆる手で掲げてきた薄汚い栄光に自ら呑まれ、全てを手放す羽目となった。
首都をその身一つで出ていく時も、周りの蔑む視線と罵声に追われながら出ていく羽目になった。国を出ていく道中、彼等は彼ら自身が育み上げてきた憎しみによって引き裂かれることもあった。
ある者は獣人の鋭利な爪の餌食となり、ある者は強靭なゴブリン族の手により捻り潰された。
国の中が地獄と化してしまった今、彼等は一目散に国を出て行こうと昼夜を問わず必死で走り抜いてきた。だが今まで味わったことのない餓えや乾きにより一人、また一人と、どこかも見知らぬ土地で野垂れ死んでゆく。
運よく国境まで来ることができたのは全体においてたった一握りだけ。
そしてその先、国境には――
「――な、なんで刀王がここにいるのよ……!?」
「…………」
ああ、何と哀れな豚であろうか。ここまでくるより前に野垂れ死ねばどれだけ楽だったのだろうか。
マダム・グロリア。もはや落ちぶれた貴族という言葉すらもったいない程に汚れきった豚が、俺の足元に跪いている。
「わ、私は言われた通りに国を出て行っている最中よ!? あんたには何も関係ないじゃないの!」
喚くな、豚が。俺はあくまで俺のルールでここに立っているだけだ。
『……《無礼奴》としての判断その一。貴様は確かにココを出て行かなければならない』
「あ、当たり前でしょうが!! あんた嫌味を言いに来た訳!?」
黙れ。ここから先が本題だ。
『《無礼奴》としての判断その二。貴様をここで他国に逃がせば、国の中枢にあたる情報を横流しにする可能性があると判断。よってここで足止めをする』
「なっ!? どういう事よ!? 今更国に帰れるとでも思っているの!?」
そうだ、帰れない。だから、帰れないようにしてやる。
『――《無礼奴》としての判断その三。よってその矛盾を解消する術を今から執行する』
俺は腰元に挿げてある黒刀・《無間》を引き抜いた。漆黒の刀身は夕日を静かに反射し、切っ先に込められた殺気が豚の喉元を突き刺す。
「……ま、待って!? どういうこと!?」
『……刑を執行する』
俺は静かに刀を振り上げ、眼前に跪く豚を断罪する体勢へとはいる。
「え――あっ!? お願い! やめて頂戴! 死にたくない! 死にたく――」
抜刀法・終式――
『――断罪』
俺は刀を一直線に振りおろし、全ての罪を裁いた。
◆◆◆
『……ラスト』
「御用でしょうか? 主様」
国境間際で真っ二つになった死体を後にして、俺は自分のTMの名を呼ぶ。俺はラストの方を向かず、静かに問いを投げかける。
『……俺は、正しかったのか?』
「……正しかったかどうかは、主様が決めることで、私では決められません。しかし私は常に、主様と共にある存在ですから」
『……余計な事を言わせてしまったな』
「滅相も御座いません」
振り向けば全てを魅了する魅惑の象徴が、俺に向かって優しく微笑んでいる。
『……帰るか。我が家へ』
「はい。主様」
俺は復讐を果たし、国を救った。後は、帰るだけだ。
我が国、ベヨシュタットへと。




