闇夜に紛れよ
「これで全員抹消し終えましたか」
『ひとまず、奴等の矛は壊すことに成功したみたいですね』
「……村でお姉ちゃんが待ち受けていたのは無意味だったってこと?」
『姉さんにはまだ仕事があるから、機嫌を直して』
「ぷぅー……」
ひとまず《ソードリンクス》の主力部隊の壊滅に成功した俺達は、村にシロさんを迎え入れた上でここから更にどうするかを綿密にシロさんと話し合う事にした。
村では皆が状況を理解した上で考得てくれているものの、中々考えがまとまる気配がない。
「一番簡単なのはボクがジョージさんを連行するという形が一番簡単ですけど……」
『それだと《ソードリンクス》が壊滅したことに怪しむ輩も現れるだろう、と』
「いっそジョージさんだけで行くというのは――」
『それは今までの作戦全てを覆してしまって本も子も無くなるんだが……』
シロさんたまに全てひっくり返すようなことを言っちゃうから困るんだよなぁ。
「うーん、難しいよねー。相手は最初っからこっちを信用する気が無い所を、信じさせなきゃいけないところもあるし」
姉さんも必死で考えてくれているものの、その頭脳でも満たすにはなかなか厳しい条件のようだ。
「主様、やはり一旦他国に身をひそめては――」
『それこそ敵に大義名分を与えるだけだ、ラスト。あいつ等に邪魔されずに、剣王に直談判できれば理想だが……』
「……でしたら、やはり夜間に侵入するしかないでしょうね」
シロさんはあまり気乗りしないように言っているが、そういう道しか残っていないのだろうか。
『……ボスの矛を破壊し終えたならば、次に剥がすべきは――』
「ボスの盾。つまり、剣王というむりやりに立てられた盾をこちらへと引き込めばいいのです」
俺とシロさんの意見は一致し、早速今夜にも侵入する計画を立てることに。
「しかし侵入するにしてもどういった方法で中へと侵入します? 外周部分は、今はそれなりの警備がなされていますから」
『……一つだけ、心当たりがある』
俺はついこの前にTMに引き入れたある王のことを思い出す。
『……暗王なら、少しは隠密に長けているだろうな』
◆◆◆
「――それで、わらわに手を貸せと」
『ああ。命令だ』
俺とシロさんはラストに【転送】を使ってもらい、ワノクニへと飛んできた。そして今、シロガネが仲介として間に入った状態で俺のTMとなった女天狗のエンヴィーに隠密の依頼をしているところだ。
「ふむ。別に構わぬがそちはわらわにベヨシュタットの地理を伝えてしまってよいのか? わらわが裏切った場合、ますますそちの立場が不利になるだけであるが」
エンヴィーが言うのももっともで、仮に暗王が首都で暴れまわったとあれば、それこそ俺が手引きしたということになってしまう。
だが俺はそれでも、エンヴィーに依頼をするのを止めなかった。
『本当にそうするつもりならば、事前に言うことなく実行しているはずだ。それにお前を一度は斬り伏せた身だ、早々にやらせはせん。何よりTMになったお前を信用しているからこそ、主人である俺の状況を伝え、手伝いを求めている』
俺は素直にそう伝えると、エンヴィーは少し渋る様子を見せたが協力してくれる気になってくれた。
「……ふんっ、よかろう」
「しかし本当に良いのでござろうか。我がついて行かずに、お主だけで行かせてしまって」
『大丈夫だ。それに、いざという時は斬る覚悟もできている』
俺は腰元の籠釣瓶に目を向けながら、シロガネにそういった。
「さて、ではボクはどうしましょうか……一緒に侵入しますか」
シロさんはそう言うが、もし失敗した場合のリスクが大きすぎる。
『もし失敗した場合、それこそシロさんにまで確実な疑いがかかってしまう。だからここは――』
「だったらなおさらのこと、同じギルドのメンバーとしてリスクを背負います」
『ッ……分かった』
シロさんはこの時初めて、効率を選択しなかった。そして俺はこの人を、改めて見直した。
「では、参りますか」
『ああ。まずは【転送】を使って首都近郊まで移る。そこからは、お前の仕事だ』
「よかろう。天狗の秘術を、少しだけ見せてやるわ」




