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殺界

(※ここから三人称視点です)


 スヴェンは警戒と共に後悔していた。

 部隊を見事に三つに分けられたことを。そして本来なら監視すべき対象すら、この機に乗じて別れさせてしまったことを。

 うっそうと生い茂った森に五人の小隊を率いて、スヴェンは思うようには動けずにいた。

 ここで他の隊の帰りを待つべきが、独自に調査を進めるべきか。方法は二つに一つ。


「くっ……面倒なことになる……っ! 誰だそこにいるのは!」


 リーダーの声に応じるように、小隊ソードリンクスのメンバーが持つ剣の先が一斉に一方向へと向けられる。


「……貴様、刀王だな」


 黒のコートが蒼で縁取られている。そして腰元に挿げてあるものが刀である人物といえば一人しかいない。


「…………」

「答えろ!」

『……貴様を殺すのに、名前を名乗る必要などない』


 フードを被った侍は静かに腰元の刀を抜き、そしてその深紅の切っ先をスヴェンの方へと真っ直ぐに向ける。

 妖刀・《籠釣瓶カゴツルベ》――それが侍の持つ刀の名前である。


『……だが一つだけ、名乗る名があるとすればこうだろう』


 侍は自分の左手の甲に刀を突き刺し、滴る血を全て妖刀に吸わせながらもこう名乗った。


『――我等は《無礼奴ブレイド》。剣王に仇名す敵を、撃ち滅ぼすもの也』

「クク……クハハハハッ! 今や剣王に仇名しているのは貴様の方ではないか!!」

『……虫けらが』

「っ!?」


 スヴェンはその一喝によってそれまでの高笑いを止め、改めて敵対する者の強大さを、畏れを知る事になる。


『……《血の盟約ブラッドアサイン深度弐デプスセカンド》』


 小隊の一人が敵のLPを確認し、既に体力は半分になっているとたかをくくっていたが――


「――っ!? が――」

『抜刀法・死式――絶釼たちはがね


 侍が刀を抜いた時には既に、一人の首が刎ね飛ばされていた。


「ッ!? 馬鹿な!?」

『無価値』


 首の無い体に刀を突き刺し、その血を抜き取って斬り捨てる。

 侍のとった行動は、その場にいる者に恐怖心を植え付けるには十二分だった。


『血が足りぬ……クヒハハ』


 フードの奥で、侍は笑う。

 もっと、もっと血が欲しいと笑っている。


『抜刀法・死式――釼獄舞闘練劇けんごくぶとうれんげき


 侍は更に禍々しいオーラを見に纏い、血がついた朱刀を構える。


『……全員殺す。剣王に、ベヨシュタットに仇名す者は皆殺しだ』


 人斬りと化した侍は瞬時に四人の身体をバラバラに引き裂いた後、残ったスヴェンに向けて改めて切っ先を向け直す。


『……貴様は苦しんで死ね』

「くっ……おのれぇぇえええええ!!」


 ピアッシング・ラトゥラーダ――細剣レイピアの中でも最上級に位置する技を、スヴェンは繰り出す。

 高速十連突き。一撃一撃は神速に達し、防御不能の絶対的な技の筈であったが――


『抜刀法・死式――』


 ――残戒ざんかい


 神速に達する攻撃故に、仕掛けた側も容易に攻撃を解除することはできない。

 それを知ってか知らずか、侍は空間に残しておいた斬撃に敢えてスヴェンを突っ込ませていった。

 結果――


『ククク……無様だな!』


 自ら豆腐の様にバラバラと崩れ去り、スヴェンは肉塊となって侍の足元へと崩れ落ちていく。


『この程度で剣王になろうなどと……笑わせるな!!』


 侍は肉塊の一つを踏み砕くと、相手へと敬意など一切なく嘲り笑い続けた。


『さて、納刀を……グッ!?』


 妖刀を鞘に収めようとした瞬間、侍の視界が揺らめき始める。


『ぐっ、俺は……ッ! 斬り足りない! まだだ、まだ殺したりねぇ「!!』


 違う。それは自分の意思では無い。

 侍は額を手で押さえ、頭痛を押さえつけようとしていた。

 だが――


『ッ!! …………』

「主様、敵を全て殲滅し――ッ!? 主様!?」


 侍のTMであったラストは、帰ってくるなり主の容態がおかしい事に気がつく。


「主様……主様!」

「……うぜぇ羽虫だ」


 もはやそこに、ラストの知る主の姿など無かった。

 そこに立っているのは、一人の人斬りのみとなっていた。



          ◆◆◆



(※ここから一人称視点になります)


「――ここは、どこだ?」


 俺はさっきまで、スヴェンと戦っていたはずだ。それが刀を抜いたところから、記憶がなくなっている。

 今俺が立っているのは、このゲームを始めてから最初に降り立った草原と酷似している。


「……俺は、負けてしまったのか?」


 それにしては記憶が残っている時点でおかしいとは思うが。

 

「……俺は今、一人か」


 周りを見渡しても、俺のTMはどこにも見当たらない。改めて自分を見直すと、タイラントコートは身に着けているが、肝心の刀を装備していない。


「……一体どういう事だ」

「ククク、まだ気がつかないか」


 俺は声のする方を素早く振り向いた。そこには俺と全く同じ服装で、まったく同じ体格の男が立っている。


「お前、いい加減気づけよ」


 その声は俺の元々発する声と等しく、フードの奥で笑う口元もよく似ている。

 キーボードが無いことに気づいた俺は、仕方なく何とか地声で話しかける。


「お、お前は誰だ……」

「俺か? 俺はな――」


 男がフードを取った、その姿は――


「俺はお前だ、ジョージ。人斬りの本能こそ、俺自身でありお前自身だ」



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