我が敵は我らが敵
『――さて、どうしたものか』
グスタフさんを国に帰して以降、ベヨシュタットからの追手は今のところ止まっている。
しかし肝心のシロさんとの連絡はいまだ取れず、俺達はここ数日間ずっと森の番をしているばかり。
苛立ちが募り始める中、ここは忍耐だと自分に言い聞かせ、俺とラストの二人でいつも通り禁じられた森の見回りの見回りをしていた。
ペルーダは今回リーニャとともに反対方向を見回るようで、俺達はちょうど反対側の警備に取り掛かっている。
姉さんとサラスタシア卿は各自で好きに見回らせている。その方が姉さん達の頭脳も生かせるだろう。
「……主様」
いつも通りに歩いて見回っているはずだが、ラストの方はというと、どうやらいつもとは違う雰囲気だ。
『……どうした』
「このまま国に帰れないと、どうなるのでしょう」
俺は一瞬回答に困ったが、何とかその場は安心できる回答を返したつもりだった。
『……帰るさ、必ず。どんな形であれ』
「……主様ッ!」
ラストが突然後ろから抱きつくなんてよくあることだが、この日はいつもと違って腕に余計な力が込められている。
まるで抱きしめている相手と離れたくないかのように。
「……私は、その気であるのなら主様とともにどこまでもついて行くつもりです。ですからここで、無意味に死ぬ必要はない筈です……!」
『……俺は死ぬとは言っていない。ただこの疑いを晴らし、堂々と帰るつもりだ』
「ですが相手は正体不明の身。それに貴族であるあの女ですら事態を収拾できなかったほどの実力の持ち主。主様、どうか――」
「おやおや、都合が悪い時間に訪れてしまいましたか」
俺が声のする方を向くと、そこには純白の装備に身を包まれた一人の勇者が立っていた。
『……シロさん、来てくれたんですね』
ベヨシュタットで最強の勇者、#FFFFF。通称シロ。《無礼奴》時代からの戦友だ。
「ええ。ボクもこの件については少々キナ臭いものを感じていますし、それに大体の敵の目星をつけてあります。しかしそれを証明するには少々物的証拠が足りませんからね……貴方の方でも何か見つけられましたか?」
『こっちは見つけた。だが突きつけようにも疑いの身のままではいまいち説得力がないと勘ぐってしまうワケだが』
「それは隠しておいて正解かと。向こうも今度はボクを陥れようとしているほか、まだあなたのことを気にかけているようですし」
チッ、やはり《殲滅し引き裂く剱》の解体が目的か。
『……敵の目的は何だ? 俺達のギルドの排除が目的か? 剣王直下の座を狙っているのか?』
「いえいえ、そんな謙虚な事をせずにもっと図に乗った行動をしでかそうとしていますよ」
そうして俺は、シロから今国で起きている顛末について事細かに聞くことができた。
『――現剣王政権の転覆が目的だと?』
「ええ、恐らく。後任はかの《ソードリンクス》の頭領を務めているスヴェンとかいう細剣使いかと」
『そうか……』
俺達が一から築き上げてきた国を、横からかっさらおうっていうのか。
『随分と図に乗ったマネをしやがる……』
「これに関してはボクも同意見です。これだけでも《無礼奴》の敵として十二分の理由になると思います」
『結局、バラバラに引き裂いてさらし首にしなければ理解ができないということか』
「恐らくそうかと。まあ、こんな話をしている時点でボク達もベスさんを笑えませんね」
『クククッ、そうだな』
ラストは俺達の話を聞いている限りで業を煮やしているようで、今すぐにでも首都を陥落せしめんという態度を露わにしている。
「主様を追いやっておいて……このラストが首都を死の街へと変えてきます――」
『待て! 落ち着け』
「これが落ち着いていられるでしょうか! 主様を裏切るなど、増してやこんなひどいことを――」
『そこまで怒ってくれるのはありがたいが、今は着実に敵のみを潰すことを考えろ。蟻の大軍ではなく、刃向かう蟻一匹だけを潰すんだ』
「……では、いかようにして潰しましょうか」
既にラストはボスモードの時の態度と口調へと変貌しており、こちらの指示を待機する忠実な僕と化している。
「……ボクも、ラースがこれくらい素直なら良かったんですけど」
『今のラストを茶化すのは止めておいた方が、いくらシロさんでもまずいと思いますよ』
「それは怖い。ではまず最初に一つ、崩しておくべきところから崩しましょうか」
『……そうですね。ボスと敵対するなら、まず攻撃力のある敵の矛から破壊するのが常套手段でしたっけ』
「その通り。今回の矛は――」
――《ソードリンクス》。これをこの森にて完全に壊滅させましょうか。




