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番外編 ―ネトゲでクリスマスだと!?― 後編

すいません遅れてしまいました。

『――行きますか』

「ですね」


 周りがその異形の姿に一歩引いているところを、俺とシロは先へ突出して突き進む。

 そしてその行動は、相手が最初に狙いを定めるにぴったりの行動でもあった。


『――ッ! 下から来るッ!』

「折り込み済みです!」


 雪に足を取られないように素早く接敵を試みつつ、接近中に目の前や足元から突如現れる敵の触手を全て斬り落としていく。

 シロもまた、持ち前の剣と盾を使って攻撃を防いでは斬り、防いでは斬りと着実に進軍を進めていく。


『抜刀法・参式――啼時雨なきしぐれッ!』


 目の前に立ちはだかるグラトニーの触手を斬り落とせば、残るは近距離からの抜刀法による攻撃のみ。


『抜刀法――まずいッ!』


 とっさに一歩引いたのが、俺にとっては命拾いだった。

 納刀して発動しておいた四鬼噛流・空ろの構えによって、俺は風がわずかにグラトニー側へと拭いているのを感じた。


『シロさん! 一旦引きましょう!』

「分かりました!」


 次の瞬間、暴食家はその触手の奥に潜む口を大きく開け、そこらじゅう一帯を吸い込み始めた。


「うおおッ!?」


 思わず地声で驚く声を漏らしてしまった。

 恐らく吸い込まれた瞬間即、死。

 そんな恐怖が頭をよぎる。

 だがそれで怯んで攻撃ができなくなるほどに、俺はこの世界ゲームで温く生きてきたつもりはない。


『……遠距離は触手、近距離は恐らく即死の吸い込み。だとしたらどう動くか……』


 既に周りの者達も戦いに参加しているが、雪原から突如現れる触手に苦戦し、そもそも接近すらできていない様子だ。

 中には【転送トランジ】を使って接近した魔導師もいるようだが、俺達と同様吸い込みを受けてすぐに離脱を繰り返している。


『……魔導師の遠距離攻撃も、触手を盾にして防がれている……』

「かといって、遠距離から詠唱すれば触手に邪魔をされ、仮に詠唱できたとしてもターゲットは触手へと移る。困りましたねぇ」


 何だなんだ? まさか吸い込みに特攻しろってか?


『……面倒だな。ケーキは無傷で取りたいところだが……ん?』


 まだ誰もケーキの方には攻撃を仕掛けてはいないよな?


『……だったらやってみるしかないか』


 抜刀法・弐式――


双絶空そうぜっくう!!』


 俺は二つの斬撃波を、あえてケーキの方へと飛ばしてみた。

 すると――


「ッ!? ゴガァオッ!」

『……なるほど、ケーキだけは必死で守るってか』


 本体に攻撃を仕掛けたときよりも、ケーキを守ろうとする触手の数が圧倒的に多い。これは――


『皆聞いてくれ! 攻撃をケーキに集中させるんだ!』

「どうしてだよ!?」

『奴はケーキを守るときの方が触手を余計に使う! ケーキを守っている隙に、本体に遠距離からATK(攻撃力)が高い者がスキルを叩き込めば、あるいは――』

「ケーキに気を取られている内に、突撃して攻撃を叩き込めばダメージは出るはずです」


 俺とシロさんの提案に同意した者は一斉に攻撃をやめ、タイミングを合わせようとこちらを見計らっている。


「では、行きますか!」


 シロは剣を両手に構え、あの巨大なケーキを破壊できるだけの広範囲技スキルを発動させる。


「――《封龍滅獄斬バハムート・アポカリプス》!!」


 剣を振り下ろした瞬間、巨大な翼竜を模した斬撃波が、一直線に敵の方へと突き進む。

 そしてそれに合わせて一斉に各攻撃がケーキへと向かう。


「グギャァアアオォッ!!」


 すると今まで外で暴れまわっていた触手が全て引っ込み、ケーキを守ろうと触手が集結する。


『今だッ――』


 俺はその隙に腰元の黒刀・《無間ムゲン》に右手を添え、縮地しゅくちで一気に距離を詰める。


『――《辻斬り化》、抜刀法・死式――釼獄舞闘練劇けんごくぶとうれんげき……!』


 辻斬り化によって敵を一撃で倒せるようにした上で、更に自身を強化する。


『抜刀法・死式――』


 ――絶釼たちはがねッ!!


 俺の斬撃に続いて、魔法、砲撃、打撃――様々な攻撃が一斉に叩き込まれる。


「グッ、ゴアァアアァアアアッガ……」


 ケーキを守護する暴食家は、最後に悲鳴を上げた後にその場に倒れ伏した。


『……勝った、のか』


 クエストクリアの文字が宙に浮かんでいるのだから、そうなのだろう。俺達はようやく極上ショートケーキにありつけるようになったのだ。


「か、勝ったぜぇー!!」

「やったな!」

「死ぬかと思ったぁー!」


 いたるところで歓声が上がると共に、所属を超えて健闘をたたえ合う声が響き渡る。

 俺達もまた健闘をたたえ合うと共に、ふとある事を思ってしまった。

 ――こうして共闘できても、また国に戻れば互いに戦わなければならないのだろう、と。


「…………」

「おや? ジョージさんは何を感傷に浸っているのですか?」

『いえ、別に……』

「……これはあくまでゲーム。今日の友は明日の敵。でもそれでいいんだとボクは思います。現にここで出会っていない方々に対して、我々は容赦なく斬撃を加えられるじゃないですか。ただ一刻の感情を引きずるのは愚策かと」

『……俺もシロさんくらいに割り切れればいいんですけどね』

「……貴方もこれがVROヴァーチャルリアリティオンラインだと割り切れる様にならなければ、この先はもっと厳しいと思いますよ」


 うちの参謀は結構残酷だが、的を射ている。


『……まあ、今くらいは喜んでもいいんじゃないですか』

「それもそうですね」


 それにしても、ホールケーキを切り出した一切れが極上ショートケーキとは……大きさが凄いんだけど。


『まあ、皆で食えばいいか』

「それでは、ボクはこれで――」

『待ってくださいよ。どうせなら――』


 ――みんなで食べましょうよ。



     ◆◆◆



「――そ、それがし達もいいのか!?」

「ええもちろん。五切れも持って帰るとなると、食べる人が多い方がいいですから」


 結局俺達以外にもベヨシュタットで出撃していた者同士でケーキを持ち寄り合い、市場全体をクリスマスパーティ会場にしてしまった。


「主様の思慮深さにこのラスト、改めて惚れてしまいましたわ」

『まあ、ボッチで食うよりはいいだろ』

「フフ、私が主様を置いていくわけがありませんわ」


 でも七つの大罪セブンス・シン関連だからって言って勝手に出て行ったじゃないか。


「…………」

「はい、主様、あーん」

『……は?』

「ですから、主様をねぎらうために――」

『……あーむ……美味い』

「よかった……私の愛情が込められていますもの」


 いや美味いのは極上ショートケーキの元からの味だからね。

 それにしても美味い。チョコは好きだがこってりとしたクリーム系は苦手な俺が、こんなにすんなり食えている。


『……特にイチゴが美味い』


 キリエやイスカ、それに姉さんが作ってくれた料理もつまみながら、俺は市場全体での立食パーティに舌鼓をうたざるを得なかった。

 その後もまさかの剣王のかくし芸やあの暗黒騎士ゴウのカラオケ大会など、半ば宴会となりながらも、俺達は最後までクリスマスを楽しむことができた。



          ◆◆◆



『うーん、久々に羽を伸ばすことができた』


 日々のギリギリの戦闘につかれていた俺は、こうした祭りごとを久々に楽しむことができた。

 後は大人しく眠るだけ――


「主様」

『えっ……?』


 寝間着に着替え、布団に飛び込もうとしたところで突如後ろから声をかけられる。


「主様……」


 背中にぴったりと引っ付かれれば、あの柔らかい感覚が背中から伝わってくるのが判る。


『……どうしたん、だ?』

「主様ぁ!!」


 またこの展開かよ!? 俺をナチュラルに押し倒すな!


「ホワイトクリスマスってご存知ですか主様ぁ!」

『雪が降ってるからホワイトなんだろ!?』

「違います! ※※ゲーム内倫理協定により表示不可※※を※※ゲーム内倫理協定により表示不可※※にブチ込むことにより、クリームパイを作るからホワイトクリスマスに――」


 お前史上最低な発言で締めやがったな!? 



次回からはいつも通り、刀王ジョージとしての戦いが始まります。

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