表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/112

番外編 ―ネトゲでクリスマスだと!?― 中編

『――あっ、こっちです!』

「いやいや、まさか貴方の方から声がかかるとは思いもしませんでした」


 俺は首都近くの関所にて、同じギルドのメンバーであるシロさんと待ち合わせをした。

 首都から外れてシュタイス山を越え、そしてカナイ村を中継点にしたその先の地、《ブリザードハイランド》が今回の目的地だ。


『防寒装備はいつも以上に整えておいて……』

「おや? いつも連れているTMの方はどうしました?」

『えっ? あぁー、あいつは今回家に置いて行っているんですよ。何でもクリスマスだから――』

「クリスマス、ねぇ……」


 うん? シロさんからどす黒いオーラがにじみ出ているような気がするんだが。


「どうしてネットゲームに入り込んでまでそんなリア充の式典に振り回されなくちゃいけないんですかねぇ? まずはこのゲームをクリアして抜け出ることが先決のはず、それをゲーム内イベントなどと都合のいいことを言って、おかしいと思いませんか?」

『え、あ、まあそうとも言えますね――』

「絶対にそうです」


 いつも以上に語気が強いシロに気圧されて、俺は思わず後ずさりをした。

 それを見たシロは少し語気を弱めた上で、改めて俺に今回のクエストの確認を行う。


「しかしそれとこれは別。限定クエストをクリアするのも、《殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション》としての任を果たすいい機会です。では、行きましょうか」

『そ、そうですね……』


 俺は苦笑いをしながらも、ケットシーであるミャリオの手によって生成された魔法陣の上に乗り、目的地の近くのカナイ村まで【転送トランジ】してもらった。



     ◆◆◆



『――この村に来るのも久しいな』


 まず村に入る前に見張りの氷塊ゴーレムが俺達を見つけ、敵かどうか判断を下す。


『とはいっても、俺達が派遣したゴーレムだから大丈夫だろ』


 俺は軽く村長とその娘であるリンと挨拶を交わした後、カナイ村から更に北へと向かって行き、例の暴食家がいるとされる《ブリザードハイランド》へと向かって行った。

 向かって行く途中、同じベヨシュタット国のギルドの連中や、ブラックアートやマシンバラから派遣された小隊パーティとも出くわした。

 他国と出くわしたからといって、今回即座に戦闘に入るワケではない。何せ最終的な目的は同じの上、このクエストに参加した者同士では袖の色が白色、つまり国を問わないという状態ステータスに一時的になっているからだ。


「なんだ、お前達も例のモンスターが目的か?」

『……ああ。マシンバラは随分とご大層なものを準備しているようだな』

「あったりまえだろ! こんなお祭りクエストに派手なモン持ち込まないでどうするよ!」


 額にゴーグルをつけた少年が、大きさ五メートルほどの人型のロボットに乗り込んで雪原を爆走している。

 右手にガトリング、左手には規格外の大きさのカノン砲が積載されており、普通の人間と相対するには少々オーバースペックだ。

 まあ、俺とシロさんの前では紙くず同然だが。


『そうか……』


 周りを見る限りそれぞれが自慢の装備を誇示するかのように身に着けており、目的地へと走りながらであるが、ちょっとしたファッションショーになっている。


「流石に、他国でもユニーク武器はそろい始めているようですね」

『そりゃ一年半以上たてば、そうもなるでしょ』

「だからこそ、我々はこの中で見事に討伐しきいきのこる必要がありますね」


 確かに、言えているな。


『……前方に何か見えるぞ』

「あれは……」

「ん!? ケーキだけがあるぞ?」


 俺やシロさん、そしてロボットに搭乗しているマシンバラの少年など、一部の者には既に目的のものが見えていた。

 木も無く真っ白な大地が広がる雪原に、ポツンと置かれた巨大なイチゴのホールケーキ。遠目に見れば砦のように見えなくもない。


「よっしゃ! 一番乗りは俺達だー!!」


 マシンバラの少年はロボットをフル回転させてそのケーキへと突っ込んでいったが――


「――グオオアオアオアオオアガオオアオオオゴアオアァアァァアアァッァアア!!」

「ッ!?」

『……来たか』


 巨大な触手のようなものが幾つも雪原から飛び出し、ケーキを守るかのように絡み付く。

 そして地鳴りとともに、触手の持ち主が雪をかき分けてその姿を現す。


「……あれは――」


 ――口元からはいくつもの触手を生やし、イカのような頭部にぎょろりとした目玉。胴体に手足がありながらトカゲの様に這う姿はまさしく異形。

 ただ、頭部にサンタ帽がかぶせてあるせいか、イマイチ恐怖感が薄れている。


『……システマ』


 俺はステータスボードのヘルプからこのゲーム世界の管理人を呼び出し、目の前の存在がバグではないかと問いかける。


『……あれは設定ミスか?』

「へっ? 違うけど! 失敬な! あれこそ特別仕様の《七つの大罪セブンス・シン》、その名も《暴食グラトニーサンタ》さ!」

『……マジかよ』

「ちなみにこれだけの人数のレイドになるから、通常のグラトニーよりも巨大な上に少し調整が入っているよ! 攻撃力とかは変わらないけど雪原なだけに行動パターンは全然違うから――ってこれ攻略情報になっちゃうじゃないか!」


 システマがプンプンと怒ってヘルプから消えると、俺は改めて目の前の巨大な化け物の方を向いて、こう呟いた。


『……俺、この戦いが終わったら皆でクリスマスパーティをやるんだ……』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ