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点と点

『……弱い』


 王を名乗る者が、この程度とは。恐らくハンゾウの方が、本当に暗王として強かったのかもしれない。


『この程度の王なら、シロガネの方がまだ強そうにも思える』

「く、かはぁ……」


 自ら流す血の湖に沈んでもなお、暗王は俺を睨みつける。


『……無価値』


 もはや勝敗はついている。これ以上は何も――


「主様ぁー!」

「ジョージくん!」


 あー……そういえばそうだった。


『……そういえば、どうしてここにいる』

「それは私と主様の愛のパワーが――って、アラアラァ」


 ラストは地に伏せる暗王を前に、まるで見知った顔と再会するような嘲る態度を取っている。

 もしや――


「エンヴィーじゃない。無様に倒れる姿が似合っているのが証拠だわぁ」

「ぐっ……その声は、ラストか……」


 やっぱり。ここ最近で一気に四つの七つの大罪セブンス・シンとの遭遇だぞ。

 それにしてもやはりというべきか、大罪同士はあまり仲がよさそうな様子では無いようで、ラストが正にここぞとばかりに目の前の天狗エンヴィーを煽っている。


「クスクス、七つの大罪セブンス・シンでも口先だけで生きてきた貴方風情が、私の最強の主様に勝てるワケないじゃない」

「黙れ! 貴様の手ほどきさえなければ、わらわはこの男を――」


 暗王もといエンヴィーが最後まで言葉を言いきる前に、ラストはとっさに召喚しておいた毒の槍をエンヴィーに突き刺す。


「黙れ羽虫が……もし貴様の様なアバズレ風情が主様に手をかけてみろ。この場で死よりも狂おしき苦痛をくれてやるわ」


 突然のボスモードの口調のラストを前にして、エンヴィーは瀕死の身体に突き刺さる毒の槍に苦しみ顔を歪める。


「がっ! ……く、いっそ殺すがいい……だが貴様さえ、貴様さえいなければ……!」

『ラスト、よせ。ここでこいつを殺すと俺の計画が狂う』

「計画? ですか」


 ラストはエンヴィーから毒の槍を引き抜くときょとんとした表情を俺に向け、いつもの口調で俺に問いかける。


『ああ、そうだ』


 この女が俺を利用しようとしているというなら、俺が逆に利用しよう。


『エンヴィー。貴様には――』

「そこまでにするでござる! 暗王殿には指一本触れさせ――」

『シロガネ、来るのが遅いぞ。それに――』


 一人でこのメンツに勝てるのか?


「……せ、拙者は何も見なかった――」

『おいコラ義賊。逃げるな』

「ぐっ……」


 丁度いい。シロガネも計画の駒に組み込もう。


「あら? 主様、この小娘は――」

『そいつは俺の知人だ。槍を向けるな』

「くっ……分かりました」

「知人ねぇー……ホントかなぁー?」


 姉さんナチュラルにシロガネの顔を覗き込んで脅さないでください。俺も怖いから。


『とにかく、俺が考案する計画はこうだ』


 このエンヴィーを俺のTMという形でシステムに登録し、その上でここの暗王として置いたままにする。つまり――


「――つまり、ワノクニをジョージくんの傀儡政権にする、と?」

『ああ。あえてベヨシュタットの属国にはせずにな』

「主様、それはつまりこの国を主様が間接的に治める国にするということですか?」

『そういうことだ』


 姉とラストの疑問に応えつつ、俺はエンヴィーの方を向く。


『……ここまでの話で大体は分かるな?』

「くっ、しかしわらわとてそうやすやすと受け入れるか――」

『そこでシロガネだ』

「何でござるか?」


 俺はシロガネに対し、これまで暗王が行ってきた悪事の全てを離した。


「――そ……それは許せぬ……許せぬでござる!!」

『そうだ。だからこそ――』

「我の師匠であったハンゾウ殿を殺すなど、許せぬ!!」


 シロガネは勢いに任せて忍者刀を突き出すが、そこを俺が何とか刀で受け止めてシロガネに冷静になるように言う。


『だからこそ、お前が見張りだ。お前がこいつの行動を見張る事で、これ以上悪事や企みをできないようにするんだ』

「……しかしこやつがのうのうと生きていること自体が、我は許せぬ!!」


 ハンゾウという男はよほどの仁徳を持っていたのだろう、シロガネがここまで激昂するとは。


『……分かった、ならばこうしよう。これから先少しでも怪しい行動をしたと思ったならば、問答無用にこいつを斬れ』

「……しかし――」

『このまま暗王がした悪事を広めてみろ。仮にもハンゾウが作り上げたワノクニが混乱に陥って、国自体がなくなるぞ』

「ぐっ……」

『お前が憎むのは分かる。だからこそ、俺とともにこの国を変えていくんだ』

「なっ、あ、主様!?」


「それはプロポーズでは!?」というラストの声が聞こえるが、俺はそういうつもりで言ったつもりはない。


『……今の言葉に他意はない。言葉通り、ハンゾウが目指していた国へと変えるだけだ』

「……分かったでござる」


 シロガネもそこまで言うと納得したのか、静かに忍者刀を納める。


『……さて、改めて聞こうか。どうして姉さん達がここにいるのか』

「それがねー、えーとぉ……」


 姉はまるで告白でもするかのように、照れくさそうにもじもじとしながら答える。


「……脱獄しちゃったっ!」

『……ウソでしょ!?』

「ホントだって! だってあのままだと私達処刑されそうだったんだもん! きみの友人のシロくんだっけ? その人が脱獄を手伝ってくれたんだ!」


 どういうことだ? シロさん達がいる限り、ラストや姉さんには手が出せないはず……。


『……エンヴィーよ』

「……何じゃ」

『最初の命令だ』


 ――俺達をここに誘拐するよう指示した貴族を教えろ。



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