電撃戦
日も見え始め、街がより一層明るく照らされ始めた時のことであった。雲の合間に隠れながら、相変わらず街の様子を見張っていると――
『……ん!?』
突如街の方で、爆発が次々と起こり始め、森は煙にまみれている。俺は急いで地上部隊と連絡を取り、何が起きたのかを問いただす。
『“何をしたんだ!?”』
「“なぁに、簡単な爆薬と煙幕を作って、それをSTR(筋力)が高い奴に森の中から街中へと四方から投げてもらっているのさ”」
もちろん町中は大混乱。そして上にいたスナイパーも城壁が爆破され、かつ敵を狙おうにも森が煙まみれな事に驚いているのか、内部へと避難してゆく。森に立ち込む朝靄も手伝ってか、地上組が潜む森は一気に樹海のように深い森へと変わってゆく。
『なるほど、あの勇士やるな……よし、俺達も続くぞ』
「御意に」
「い、いよいよ戦いが始まるんですね!」
約一名お荷物がいるが、下の調子だと大丈夫そうだ。
『いくぞ!』
俺はワイバーンの手綱を引き、戦火にまみえる街の中へと突き進んでいく。街は既に火が回り始め、一般市民はおろか衛兵でさえ逃げ惑っている。
俺はそんな中、ある人物を探していた。
『――見つけた!』
この街の長であるキャラクター。今回はNPCのようで、右往左往とするだけで到底戦えそうな気配ではない。
『――ベルゴール領主!!』
ワイバーンに乗って急接近すると共に、俺は腰元の刀の柄に手を乗せる。
『その首、貰った――ッ!』
抜刀法・壱式――刎斬。自分よりはるか格下の相手の首を刎ねる、いわゆる一撃必殺技である。そして通り抜けざまに刃につけられた血が、それを物語っている。
『――領主の首は取った。後は残りを殲滅するだけ……』
「私にお任せを」
そういってラストは羽を伸ばし、自ら戦場に降り立とうとしている。
「ジョージ様、後は私が始末いたしますわ」
『……あんまり殺り過ぎないように。一応経験値の無駄になるから』
「フフッ、ならば同士討ち程度にしておきましょうか」
ラストは邪な笑みを浮かべると、戦場の地へと降り立っていった。
「あ、あのっ! 私は――」
『ワイバーンの操作は?』
「や、やった事ないです!」
俺は念の為に少女の騎手登録を済ませる。
『じゃあ体で覚えて!』
俺もラスト同様、戦場へと飛び降りていく――
「えっ!? ちょっと待ってくださーい!」
声がフェードアウトしていく中、俺は戦火の中へと降り立つ。硝煙と鉄の匂いが鼻をくすぐる。
そしてそんな中、俺の姿を捉えた軍の一味が俺に銃を向け歓迎の引き金を引く。
「撃て――ッがは!?」
俺はその歓迎全てを斬り伏せると、納刀とともに名乗りを挙げる。
『――《殲滅し引き裂く剱》の一人……《刀王》ジョージ、いざ参る!』
◆ ◆ ◆
今回の俺の戦いは一方的なものだった。銃弾を斬り伏せ、敵を斬り伏せる。黒刀がどんどん血に染まり、その度に武勲と経験値が溜まってゆく――
『この辺一帯は片付いたか――ッ!?』
辺りを見回す俺の目に映ったのは、ラストの狂喜の姿だった。
「ウフフフフ、アッハハハハッ! 踊りなさい下僕達! 死ぬまで舞踏曲を踊り続けるのよ!」
……俺がラストと一対一で戦った理由その一。それが今俺の目の前で起こっている惨状だ。
「おい! 俺は味方だ!」
「ラスト様の指示に従い、邪魔者を排除する――ッ!」
彼女と戦うにあたって一番厄介なのが、回避不能の魅了魔法だ。魅了することで同士討ちを狙い、それを見て楽しむのが彼女にとって一番の快楽だそうだ。
「それにしても、中々私達の軍が来ないわねぇ……めんどくさくなっちゃった♪」
そして第二の理由が――
「――【恋慕崩壊】♪」
「ラストさ――グハァっ!?」
突如魅了された者が血を吐いて次々と倒れだす。これが魅了した相手限定の即死魔法【恋慕崩壊】。心臓を破壊され一撃死となる。
「ウフフフ……あら、ジョージ様がみてらっしゃるわぁ♪」
遠くからでもロックオンし、俺に向かってウインクを飛ばすその姿には寒気を覚える。
『おーこわ……』
そしてその時の彼女の狂喜する姿こそが、俺の知る幻獄最深層・《ミラージュ》にいる幻界を司る魔性の者、幻魔・《ラスト》だ。