疑惑
今回短めですが、区切りのいいところで終わっています。
「…………」
「だ、旦那……本当に大丈夫なんで――」
『黙ってついて行くしかないだろう。あの時こいつと話し合いに持ち込めたのは、あくまでタイマン勝負だったからだ』
そう、ここで下手に動いた結果援軍でも呼ばれようなら今度こそおしまいだ。
俺とジョニーはシロガネと苦無に連れられるがまま、屋根伝いに移動を繰り返していた。
方向としては中心部に見える城の方へと向かっているようで、俺達としても願ったりかなったりの方向だった。
『今はシロガネを信じてついて行くしかあるまい』
そしてしばらく移動したのち、シロガネは急に足を止めてこちらの方を振り向く。
「……ここからはしばらく窮屈な目になる」
「どういう――ってはぁ!?」
ジョニーが驚くのも無理はない。何故ならシロガネは有無を言わさず俺達の両腕に枷を付けてきたからだ。
「だ、旦那! やっぱりこいつ等俺達を――」
『落ち着け。今から敵陣に入るってのにフリーなままだと怪しまれるだろうが』
「その通り。ここはあくまで我と苦無の手によって捕縛されたという体をとってもらうでござる」
「にゃっは! そういうことなのよねん!」
苦無はそう言って悪びれる様子もなくいたずらっぽく笑うが、俺としては少しは場を考えて欲しいものだと心の中で思った。
「……少しでも旦那に変なマネをしてみろ。俺の蛇脚はあんた等の喉に届くからな」
現にジョニーは警戒を解かず、いまだに忍の二人を睨み続けている。
『……苦無のことはどうでもいいが、シロガネは俺の古い知人だ。信用するに値する』
「……あんたが言うなら」
「では、これから城下の方へと向かう。二人はあくまで捕虜の身ということを念頭に置いて行動してもらう」
「えっ、ちょっ!? うちへのフォローは!?」
『ない』
「無いでござる」
「胸も……ねぇな」
最後にジョニーに強烈な蹴りが入った気がするが放置しよう。もはやツッコむことすら疲れる。
◆ ◆ ◆
「――皆の者。我ら《は組》が刀王を捕縛した故、捜索は打ち切りでござる」
「しかしまだ逃走中の奴隷の姿が見えず、更に言えば虐殺公も――」
「安心なされよ。我と苦無でもってこの刀王の口から侵入手順、逃走経路、そして目的をキッチリと吐かせるでござる」
そう言ってシロガネは不敵な笑みを浮かべてこちらをちらりと見ているが……一体何をやらされるんですかね……。
「とにかく安心なされよ。この《忍王》である白銀の陰が任を受けるのだからな」
「そうか……それなら安心だな」
白銀の影とは、シロガネの本来のプレイヤーネームだ。そしてゲームに入ってからもまた、この少女は《忍王》の座を取ったらしい。
《忍王》というのはその名の通り、忍者の王である。忍ぶにあたってあらゆる技術を体得し、更には敵を陥れるための房中術まで覚えているとかなんとか。
『……ん?』
待て。待て待てちょっと待て。俺の目の前の少女は良く見て十代前半にしか見えない見た目だぞ……。
『……これはツッコむべきか否か……?』
まあ後で二人になった時にそれとなく聞くとしよう。うん、絶対そのほうがいい。
「…………」
「だ、旦那……本当にこれでうまくいくんですかね……」
『……任せるしかないだろう』
もはや二つの意味でこれ以上踏み入ってはいけないような気がするが、それでも俺達は突き進むしかない。
『……穏便に済むといいが』




