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窮地で旧知

 とはいってもタダで帰るワケにはいかない。この誘拐を指示した貴族と、その証拠をつかむまではおずおずと帰ることはできない。


『一番簡単なのは、俺達を捕まえた奴を引きずりだして問いただすことだが……』


 ここでふと冷静になって表通りの様子をうかがうと、虐殺公が現れた事でパニックを起こして逃げ出る貴族と、逃がした俺達どれいを捕まえようとそこら辺を探し回る紫色の袖の集団が見える。


『……こうも厳重だと、こんな集団を引き連れての隠密は不可能に近いな』

「どうするの? 現実問題として私達はこれだけの人数で固まっているから……」

「…………」


 一番簡単なのが誰かが囮になればいいだけの話だが――


『……仕方ない』


 俺は覚悟を決めると、皆の方を振り向いてとある作戦を伝える。


『俺が囮になって騒ぎを起こす。その間に出口を知っているであろうキャリカ卿――もとい、虐殺公が皆を連れて逃げる』

「でもそれだと、貴方がここに残りっぱなしじゃない」

『俺はついでにこの場所に俺達を売りとばしたゴミ野郎の証拠を掴みたい。それに、俺には一応武器がある。一人でもなんとかなるさ』


 タイラントコートが無いのが痛いが、今は贅沢ぜいたくを言っている場合ではない。


『……よし、行くぞ』

「ちょっと待てよ!」


 何なんだ一体。

 折角表へと向かおうとしていたのにと、俺がため息をつきながら後ろを振り向くと、そこにはトカゲ男が何か決意を固めた様な顔つきでこちらを向いている。


「俺もやるぜ!」

『……止めておけ。丸腰のお前に何が――』

「大丈夫だ! 俺は闘士ファイターだからな!」


 そう言ってトカゲ男は自らの右手で拳を作り上げ、そして二の腕に力こぶを作る。


「俺だって戦える! あんたには世話になってばかりだからよ、少しでも借りを返してえ!」


 確かに闘士ならば丸腰でもその身一つで戦えるという職業柄、こういう所で役に立つかもしれないな。


『……言っておくが、お前のフォローまではできないかもしれないぞ』

「構わねえよ、自分のケツは自分で拭くさ」

『……いいだろう』


 俺はトカゲ男に左手を差し伸べ、今回限りの異色パーティを組むことを歓迎する。


『よろしく……』

「俺の名はジョニーだ」

『ああ、ジョニー』


 トカゲなのにジョニーとは……まあいいだろう。この際ツッコミは無しだ。


『では、キャリカ卿――』


 俺は今回の亜人の件について、一応分かっていると思うが耳打ちしてある事を確認する。


『――例のエルフの村についても、被害が及んでいないかの確認を』

「ええ。あそこなら私達もしばらく身を隠せるわ」

『では、俺達も事が済み次第向かうとする』

「気をつけて。私も侵入するときには随分と苦労したから」


 言われなくとも、そのつもりだ――



     ◆ ◆ ◆



『――ついて来ているか?』

「あ、ああ……何とかな」


 こいつのステータスは恐らくあまりPRO(器用さ、俊敏さ)に振られていないな。先ほどからついて来るのに精いっぱいなのが伺える。

 それにしても街の中心に行けばいくほど、まるで日本の江戸時代であるかのような街並みが広がっている。

 だが少し違うのは、店の装飾としてネオンサインが使われていたり「黒蜥蜴クロトカゲの串焼き」といった怪しげな看板が立ち並んでいたりといったところがパッと見で見受けられる。

 街の建物も平屋建てばかりという訳ではなく、三階建ての建物なども所々に見ることが出来た。そしてそのおかげで屋根の上の見張りから隠れることが出来る場所もあり、俺とジョニーは屋根伝いに移動を繰り返し、屋根にいる見張りを闇討ちしつつ何とか街の中央に見られる巨大な城のような建物へと向かっている途中であった。

 

『……少し待とう』

「どうしたんだ?」

『黙っていろ……』


 ここまで屋根伝いに来たのはいいが、この先平屋ばかりで隠れられる場所がない。

 そして何よりも面倒なのが――


「えぇーっ!? うちがこの辺を見回りですかー!?」

「つべこべ言わずにやれ。それとも我の言うことが聞けぬというでござるか」

「ち、違いますよー!」


 俺の視線の先には、屋上にてしぶしぶ見回りの仕事を受ける苦無くないの姿と、もう一人の少女は俺のよく知るゲーム仲間だった。

 苦無よりも更に小さい身長、そしてその胡散臭いござる言葉。そして決まり手はその右手で軽々と扱っているのはクナイ。

 とことん忍者にこだわる少女の正体を、俺は知っている。


『……シロガネか』

「…………そこの者、影に隠れていないで出てこい」

「…………」


 やはり、ばれるか。


『……まさかお前とこのような形で三度相対するとはな』

「っ……やはりお主であったか……」


 俺はこのゲームに入りこむ前のライバルを前に昂揚感を何とか抑えつつ、刀を構える。

 そして目の前の少女もまた、腰元の忍者刀を構えて俺と向き合う。


「今回の競売の脱走犯、《刀王》だとは聞いていたが……」

『そういう事だ……』


 それにしてもこいつが競売側にいることが少々胸糞悪い。

 まあそれも仕方ない。こいつは《ワノクニ》の人間だ。


「俺も加勢を――」

『お前は後ろの奴を相手にしろ! 俺はこいつと戦う……!』


 装飾過多の刀を片手に、俺は完全にシロガネと敵対する。

 それにしてもこの頼りない装備でこいつにあたるとは、本気で死を覚悟しなければならないかもしれないな。

 そう思っていると、シロガネは相手と戦いを始める際によく言い放つ決め台詞を吐く。


「我らにとってはまるで現実のようだが、あくまでこれはゲーム…………案ずること無かれ。死の苦しみは一瞬なり」

『……さっさと前に出ろ。叩き斬ってやる』


 この瞬間、本気の戦いの火ぶたが切って落とされた――



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