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「次、立て!」

「わ、わたしか……!?」

「さっさと立て!!」


 とうとう俺を除く全ての商品が売りさばかれる。目の前の少女は助けを求める視線を俺に送るが、今は何もできない。


「た、助けてくれないのか……」

『……今はまだ時ではない』


 とは口で言っても、何も思い浮かばない。何もできない。


「……チクショウ」


 余裕を持った態度とは裏腹に、俺の口から出た言葉は悔やむ言葉だけだった。

 そしてついに、怯える少女に値段がつけられ始める。


「さてさて、この幼気な少女は五十万ゲルトからスタートさせてもらうよー!」

「あ、あわわ……」


 騒がしかった会場は一瞬静まり返り、そして会場の視線が一人の少女へと集められる。


「――六十万!」

「六十万ゲルトが出ました!」

「七十五万出すわ!」

「七十五万! そちらのご婦人から七十五万ゲルトの入札が入ったぞー!」

「百万だ!!」

「百万!! 百万ゲルトの大台だー!! 他にはいないのか――」


 壇上で司会が声色よく入札価格を叫ぶ中、俺はその様子に何もできずにいることに、自分自身にいらだちを募らせていた。


「…………」


 殺さなければ。この下等で下賤な人間共を、一人残らず斬り捨てなければ。


『……刀さえあれば……!』

「――さあさあ、このままだと百二十万ゲルトの入札をしたあの御仁が少女を落札だぁ〜!!」


 司会が指さす方を見ると、でっぷりと太ったいかにもな成金の男が金歯を見せて笑顔を作り出している。

 

『……マジでああいう奴っているんだな』


 ベヨシュタット領内ではああいった輩を見たことが無い。というより、ああいった輩にはふさわしくない場所だからか。


「ぐっふっふ、待っててねぇ可愛がってあげるからぁ」

「……うわぁ」


 ゲームだからって流石の俺でも引くわ。

 ふと少女の方を見ると、目の端に涙が溜まっている。泣くほど嫌だというのは痛いほどわかるぞ。

 

「では、百二十万でこの少女は落札となります!!」


 下卑た歓声が聞こえる中、俺はついに自分の番だと悟る。


「立て」

「…………」


 処刑台に上らされる気分というのはこういうものなのか。足取りが重く、前に進みたくないという考えだけが頭を支配する。


『……お前達は必ず殺す』

「へっ、鎖につながれた獣がほざく」


 俺は腹をくくり、そして壇上へと一歩一歩踏み出す。

 会場の方からは俺が姿を現すと共に、ざわめきが広がりだす。


「もしかしてあれって……」

「まさか、これが今回の――」

「お待たせいたしました!! 今回のメインである《刀王》の登場でーす!!」


 やはり、といった雰囲気と共に、あの《刀王》が本当に捕まっているのだと驚嘆の声が挙がる。


「素晴らしい! まさか王がこの場にいるとは!!」

「奴隷となった王……響きが良すぎる」


 俺はまるで死刑執行を待つ罪人のように、視界の隣に正座のような形で座らせられる。


「本家本元、あのベヨシュタットの《剣王》が認めたといわれる《刀王》、そして我らが憎き《虐殺公》でもあるこの男、値段なんと一千万ゲルトからスタートです!!」


 更に《虐殺公》の汚名を着せられ、俺への競売は更に熱を帯びていく。


「あの虐殺公がアイツだったのか!?」

「本当だというのであれば、徹底的な拷問にかけねばならん!!」

「競売で落として、我が国で処刑しよう!!」

『ッ!? ま、待て! 俺は虐殺公じゃないぞ!?』

「嘘はよくないですよ? グランデカジノから生きて帰ったのは、貴方だけだという話ですからねぇ。必然的に《虐殺公》だと考えざるを得ません」


 サラスタシア卿ではごまかし切れなかったということか……。


「…………」

 誰でもいい。誰でもいいからチャンスを、この場を逆転できる瞬間を――ッ!!


「……沈黙は肯定と認めます。では、一千万からスター――」


 スタートの合図が始まるほんの数瞬――会場に地響きが広がる。


「っ!? どうなっている!?」


 地響きはまるでこちらに近づいているかのように、ずしりずしりと腹に響くような音を大きくしていく。

 そして――


「ッ、キャアアアアアーー!?」


 一人の大男が会場の入り口を突き破って飛んでくる。大男は二転三転と会場の階段をころがり、そして壇上手前で停止した。


「……まさか、こいつは入り口を警備していたはず……!」


 司会の震える声が漏れる中、入り口の煙が晴れて一つの人影が現れる。


「お、お前は――」


 細身の人影は右手に大きな剣を肩に担ぎ、そして左手をだらりと下に下げている。

 上半身も同様にして力が抜けたかのようにだらりとうつむいているが、それは見る者にある種の畏怖の心を植え付ける。

 顔には仮面がつけられ、正体は不明。長い髪を地面にたらし、仮面からは吐息が漏れる。


「…………」


 俺は一目でそいつが何なのかを理解した。そして司会もまた、この場に乱入してきた者の名を叫ぶ。


「ぎゃ、虐殺公だぁああああ――!!」



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