檻
「っふぁあ、よく寝た……ん?」
あれ? 俺は確かあの後、姉さんを城に引き渡してそのまま家に帰った筈だが――
「……どういうことだ」
両手足に拘束具を付けられ、ご丁寧にも武器は全て剥奪されている。
寝間着一つで牢屋で磔をくらうとは、我ながら何ともマヌケな姿だ。
「ここはどこだ……ラストは……っく……」
いつもの調子で動き出そうにも、手足を拘束されては動くことができない。STR(筋力)任せに外そうにも俺のステータスでは無理なようだ。
「一体どういう事だ……俺は確かに家で――」
「やーっと目が覚めた?」
「…………」
「あら? 声を聞くなりだんまりとは、あまり賢明とは思えないけどー?」
檻の向こう側にいたのは、忍者の姿をした少女――否、くノ一とでもいうべきか。服装が少々破廉恥すぎる。
まあラストのせいで感覚がマヒしている俺には、そういったお色気の類は一切効かないワケだが。
そもそもそんな貧相な体で誰かを誘惑できるとでも思って――
「あぁー!? いま凄く失礼なこと考えていたでしょ!」
ゴホン。
『……誰だ貴様は』
壁に呼び出したキーボードを叩き、俺は威圧するかのように問いかける。
だがいくら危ないオーラを出していようが、しょせんは檻の中の猛獣。相手には滑稽に見えたらしく、笑い声を漏らすだけで恐れおののく様子など無かった。
『ここはどこだ。答えろ』
「《ワノクニ》……といえば分かるでしょ?」
ワノクニ……なるほど、最近ベヨシュタットに暗躍していたのはこの国だったか。
『なぜ俺を捕らえた』
「なんでって……依頼に決まってんじゃん」
そう言って少女は壁にもたれかかり、まるで相手をするのが退屈だといった様子で足を前後に揺らしている。
まるで猫のようだと、俺は少女に対するイメージをそんなふうに捉えた。
『……これからどうなる』
「さぁねー。貴族の輩の競売にかけられた後のことなんて、うちのしったことじゃないし」
『貴族の競売だと……』
ふざけたことをぬかしやがって。端的に言えば単なる人身売買だろうが。
『思い通りにはさせない……』
「うちらだって、刀王の思い通りに動いてもらっちゃ困るんだよねー」
瞬間移動をしたかと思えば、少女は檻を開けずに俺の目の前に現れる。
「うちの名前は苦無。皆からはにがむーって呼ばれている超絶美少女さ! 二日間だけどよろしく頼むぜ!」
『……二日で済むと良いな』




