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決着、そして微かなヒビ

「――《ガンスタイル=ツヴァイ》」


 マフラーの男は両のリボルバーでもって独特な構えを取る。

 左手を前につきだし、右手はすぐ自分の耳元まで引く。まるで弓矢を構えているかのようだ。


『……で?』


 それでどうするつもりかは知らないが、少なくとも今の俺が警戒するに値するとは思えない。


『さっさとかかってきたらどうだ』


 一切構える事無く応対する俺を前に、マフラーの男のプライドに傷がついたようだ。


「舐められたものだ……ならば死ね――」

『――お前がな』

「ッ!?」


 初撃で左手を斬り落とし、次の一撃で右耳ごと右手を斬り飛ばす。

 そして痛みを感じるまでもなく全身を滅多切りにすれば、肉片と化した何かがそこに転がり落ちる。


「ククッ……バカが」


 無駄なんだよ無駄。ゼロ秒で反応できる相手の時点で勝ち目があるワケ無いだろうが。


「うそ、だよね……? あのマフラー、遊撃部隊ゲリラで最強の人なんだけど」

「だからどうした? 現にミンチとなって転がっているのはその男なのだが」


 身内の最強格がオモチャ扱い。そんな光景を目の前で見てしまった者の精神が正常でいられるであろうか。


「ククククク……ハハハハハハハハッ!! ……どんな気持ちだ? 積み上げてきたものが全部奪われる気分は」


 俺は知った上でそう問いかける。どんな気分だ? 目の前で全てが無に帰った気分は。


「……どんな気分だと聞いている」

「あは、あははは……まさか弟くんがここまで強かったなんて……あれれ、私の予定とは違うんだけど……?」

「…………」


 壊れる、か。当たり前だな。特に今まで完璧に過ごしてきたおかげで、崩されることに対する耐性などあるはずもないか。

 更にその崩した相手が、見下してきた弟ともなると尚更だ。


「……これが俺が味わってきた屈辱だ。しかもこんなもの、ゲームの中だからこそこの程度で済んでいるが、俺は現実世界で何度も味わってきた」


 俺はその場にへたり込んでいる姉の顎に、刀の切っ先をつきつける。


「……いい加減俺に関わるのは止めろ」


 俺はそう言って、その場に背を向け去ってゆく。


「…………」


 これで終わりだ。姉さんがこの世界で築き上げてきたもの全てを、今この場で破壊しつくした。後は彼女がこの勝敗に納得していようがしていまいが、これ以上関わりたくもな――


「……ぐすっ、うえぇぇぇぇーん!!」

「ッ!?」


 えぇ……なんで泣いているの。


「……意味が分からん」

「弟くんに、ジョージくんに嫌われちゃったよぉー! うぇえぇぇん、ひっぐ……」


 だから何故そこで泣く。意味が分からないのだが。


「ひっぐ、弟くんが、お姉ちゃんに構ってくれないのが悪いんだよぉ……」

「構うも何も、あんたが俺を潰しにかかるから――」

「だって、構って欲しかったんだもぉん……」


 うわぁ……随分と歪んだ愛情だな。


「…………」

「ごめんな、さい……もういじわるしないから……お姉ちゃんを見捨てないで……」


 確かに姉の無様な姿を見たかったが、こういうのは何と言えばいいのだろうか。


「……チッ」


 腐っても身内。この場で切り捨てることも、見捨てることもできない。

 それが俺の甘さ、か。

 

「……もう二度と、俺に迷惑をかけるな」


 俺は籠釣瓶カゴツルベを静かに納刀し、そう姉に告げる。それと今気がついたことだが、大殺界が発動すると俺自身が血に飢えずに済んでいるようだ。


 ――しかし十二分に血を吸った妖刀は、前よりも刀身が一層赫く染まっていた。


「分かりました……」


 しょげて素直な姿を信用すべきかは今だ疑問が残るが、既に武器も何もかもを切り伏せている。


「……少しでも変なマネをするなら、姉であろうと斬る」

「はい……」


 俺はラストを【意思憑依テレパス】で呼び出し、地上戦での成果をラストを通してシロに報告してもらうと共に、地上に降りて回収を求めた。


『――復讐は果たした。後は残党狩りといったところか』

「“上空から見る限り、生存者は見受けられません。それと主様、あのシロとかいう男が銃王を仕留めました”」

『本当か!?』

「“はい。地上戦で一騎打ちをし、肉体を例の両刃剣で真っ二つに”」

『……ん? でもお前は今上空から――』

「“シロという男が主様に続いて飛び降りた後に、上空から私とラースで雑魚を蹴散らしておりましたので”」


 そういうことか。ならば納得だ。


『今から地上に上がる。それと、捕虜を一人連れて帰る』

「“……主様、もしや――”」

『……俺の姉だ』


 ラストはそれ以上何も言わずに、俺もまた黙って【意思憑依テレパス】を切った。


『……終わったな』




 ――今回の成果。


 《殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション》から負傷者がでてしまったものの、シロとジョージ両名の大活躍により見事かの忌々しきキャストラインを陥落することに成功した。

 そして今後統治に向けて部隊を編成すると共に、各地域における政治面での関与など支配を盤石に進めていく予定。

 今回はシロとジョージの二名の目を見張るほどの活躍のおかげで敵国を素早く壊滅できた。しかし裏を返せば、この二名の動き次第で我が国にも多大な影響が出るという懸念が出てしまう事も考えられる。味方とはいえ今後の両名の動向には注意を払うべきであろう。


 以上。


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