邂逅
今の俺にとっては鋼鉄で固められた要塞ですら、豆腐のように押し崩すことができた。
『ウオオォァーッ!!』
最上階から一気に押し通り、そのまま要塞の地下まで到達する。
「――ゴホッ、ゴホッ!」
土煙が肺に入るのを拒絶するように、俺は大きく咳き込む。して、《天墜》によって築き上げた成果はというと――
『――体力全回復、か』
LPゼロの状態からの復活。つまりこの籠釣瓶はあの一撃で多くの敵を殲滅することができたということだ。
『上の処理はシロさん達に任せるとして……さて、どうしたものか』
上は半壊どころかほぼ壊滅状態と言っても過言ではないだろう。高高度からの天墜は今まで試した事は無かったが、あそこまで大規模な攻撃範囲を引き出せるとは俺自身も思わなかった。
……まあ、バフがかかる薬を馬鹿みたいに飲んだのもあるのだろうが。
しかしそれほどの技を繰り出したにもかかわらず、地下はそこまで被害をこうむってはなさそうに思える。
『流石にここまで衝撃波は到達しなかったか』
まあ、それもいいが。まさかさっきの一撃で基地もろとも姉を抹消してしまったなどとあっては肩透かしにもほどがある。
それにしても随分と薄気味悪い場所だ。照明がちかちかと光る中、いたるところに試作品と思わしき武器がちらほらと見える。
そしてそれと同時に、既に赤黒くなり固形化した血の痕が部屋の隅の方にてちらほらと見える。
「…………」
大方予想はついている。恐らく試し打ちでもしてそこら中で人を殺しているのだろう。
『……殺されているのは捕虜か、もしくは――』
「反逆者か、って所だよねー」
背後からかけられる声。俺は振り向かなくてもその声の主を知っていた。
『……姉さん、どうせなら不意打ちで一発撃っておくべきじゃないのか?』
「あーりゃりゃ、弟くんなんて正面から戦っても勝てるっていう意味で声をかけたんだけど」
『……随分と舐められたものだ』
血の盟約はいまだ継続中。しかしこれも血を供給できている間だけの話だ。
『……一つだけ聞いておきたいことがある』
「何かなー?」
『姉さんは、このゲームを何故始めた?』
「えぇー? それ聞いちゃう?」
俺は返ってくる言葉の内容、答えを分かっていながらもあえて聞いた。
どうして湊川椎奈という女が、普段ネットゲームをしない女がこの世界にいるのかということを。
「何って、もちろんジョージくんの居場所を潰すためだけど?」
「…………」
ああ、やっぱりそうだったか。
「だってさ、ジョージくんが活躍できる場所なんてこれまでなかったじゃん? ジョージくんという存在にとって、それが普通なのに。それがさ、この世界で一定の地位を得て、こんなに強くなって、誰からでも頼られる存在になる……おかしいと思わない?」
『おかしいのは姉さんの頭だろうが』
「アハハハッ! 弟くんに言われちゃったよー!」
そうだ。この人はそうやって毎度毎度俺の邪魔をし、上回り、見下し嘲り笑う。
俺は断言できる。湊川椎奈という女が嫌いだ。
『……もういい。それだけだ』
「あれれー? もしかして戦うつもり?」
『戦うつもりなど毛頭ない』
戦いは、実力が拮抗していなければ成り立たないもの。ならば今から起きるのは何か。
『――一方的に蹂躙するつもりだ』
《大殺界》発動まで三秒前――




