決戦 ―ドラムマグルナ最終防衛ライン―
『さて、そろそろか……』
傍目に見れば俺は正常な判断をできてないのかもしれない。だがこの戦いだけは、この世界で姉にだけは負けたくない。
恐らく姉が俺のこんな考えまで見据えたうえで、挑発だけであの場を去ったことも分かっている。だが今回は姉の思うままにはいかない。
『この刀と、あの技を開放すれば――』
「主様、敵の挑発にムキになられてはなりません。主様の身に何かあったら……私は、私は……」
ラストの言う事も最もだが、俺はその位の警告で留まる事ができるほど利口じゃない。
『安心しろ。お前がフォローしてくれるなら俺は負けない』
「……ですが…………分かりました」
『すまない』
俺はラストの頭に手を置き、そしてシロの方を向く。
『敵地は見えましたか?』
「そろそろですね……ッ!」
シロは何かを察したのか、ラースの身体を急旋回させその何かを回避する。
「うおっ!?」
俺はとっさにラストを抱き寄せ、ラースの体表にしがみつく。俺は回避する前の位置を確認すべくその方を向くと、銃弾らしきものがすぐ近くを通過するのが見える。
「遠距離対空砲といったところでしょうか!」
『ならばどうする!?』
「決まっています! まずは回避行動をとり、次弾が装填される前に接近して対空砲を破壊します!」
ラースは今までの飛行速度から更に加速すると共に、雲の中へと入りこむ。
「まずは敵の視界から外れ、飛んできた方角へと向かいましょう」
シロはそう言って雲の中を突き進ながら、敵の長距離射撃についての考察を始める。
「まだ敵本拠地まで軽く100キロメートルあるにも関わらず、狙撃をしてきた」
『ということは――』
このたった一つの決定的な証拠が、ある一人の人物へと突き当たる。
『――銃王か』
「――銃王ですね」
夜の雲の中をひたすら突っ切りながら、俺とシロはほぼ同時に答えをはじき出す。
100キロメートル先の狙撃が可能という規格外の狙撃手。そんな事ができるのは銃王ただ一人。
『……だが逆にいえば王が直々に戦いに出ているほど、キャストラインは追い詰められているといえる』
「ならば、お望みどおり潰すとしますか」
俺とシロはとっさにある作戦を考え付く。
『今の所狙撃はされていない。ということは雲の中はひとまず安全ということか』
「命中率でも下がるのでしょうね。ということは雲があるうちに攻撃&離脱で敵本拠地に設置された各種砲台を破壊して、敵が白兵戦をせざるを得なくなった状況で地上戦を仕掛けましょうか」
『そうだな……ラスト!』
「はい、何でしょう」
『ラースが雲から身を出した時を図って、敵地に備えつけられている砲台や各種兵器を魔法で破壊してくれ。俺とシロさんは遠距離戦ができないワケじゃないが、シロさんはラースの操縦に、俺は敵の迎撃に専念する』
「承知しました」
下が騒がしくなってきた。敵地はすぐそこに違いない。
まずは一回目、敵地全体を視認する。
「これは――」
巨大な軍事基地――都市一つ全体に、そういったイメージを持つことができた。
明かりは点々と付けられ、サーチライトが空を照らしている。そしていくつもある半球状の建物の一つ一つに、砲塔が備え付けられている。
『……ここが、《最終防衛ライン》か』
――オレがそう呟いた瞬間、サーチライトの一つがこちらの姿を捉える。
「“放てぇ!!”」
「――ッ!?」
一斉に地上の砲口がこちらへと向き、パチパチとした一瞬の光と共に、砲弾が放たれる。
『ッ、ラスト!!』
「――【空間歪曲】!!」
巨大な球体にラースは包み込まれ、飛んでくる砲弾はその表面に沿って逸れていく。
【空間歪曲】――いかなる物理的攻撃も逸らすという、いわゆる物理攻撃に対する絶対的な防御壁。そのためTPの消費もバカにならず、並大抵の人間ならこれ一回でTPがゼロになる。
「クッ……!」
『大丈夫か!?』
「も、申し訳ありません、これほど巨大な【空間歪曲】となると、維持するのに集中しなれければなりませんので……」
『……仕方がない』
ラストが防御にまわっている間、俺が代わりに攻撃するしかない。
俺は腰元の刀二振り――黒刀・《無間》と暗夜刀にそれぞれ手をかける。
そして――
『抜刀法・参式――』
――断切鋏!!
二刀流限定で自分が視認できる空間を直接斬る事ができるこの技を使い、視界に入る砲塔をまとめて一閃。巨大な鋏で切られた基地の一部が瓦解を始める。
『……敵は予想外の攻撃に焦っているようだな』
「流石は刀王、斬撃を飛ばすのはお手のものですか」
『やだなぁ、シロさんだって飛ばせるでしょ』
「フフ、それは地上戦に入ってからお見せしましょうか」
《封龍滅獄斬》を超える技を出す気か……巻き込まれないように注意しておこう。
「ッ、ハァッ、ハァッ……」
ラストの集中が切れたのか、ラースを包んでいた空間歪曲の球体が消える。
「一旦雲に避難を!」
『そうだな――ッ、チッ!』
俺はほぼ反射的に、ラストへと飛んできた二つの銃弾を目の前で斬り伏せる。
撤退する際にあえてTMを狙撃するという嫌味な戦法をする人物を、俺は一人しか知らない。
『……姉さんか』
証拠はなかったが、確信できる。姉のやる事はいつも、俺が最も嫌がる事だ。
それにしてもラストに危害を加えるとは……いいだろう。あんたそうしたように、俺もこの世界におけるあんたの全てを、奪ってやる。




