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立ちふさがる現実

『先を急ぐぞ』

「はい!」


 ラストに改めて【幻体変化トランスミッション】をかけてもらい、俺は連絡が途切れたベスの元へと急ぐ。


『間に合うといいが……』


 途中で連絡を切るほどの相手、ならば一人で立ち向かうより援軍がいた方がいい。

 まあ、そもそもベスが片づけられる相手ならば杞憂きゆうで済むのであるが。


「…………」


 嫌な予感がする。それは誰に向けられたものでもない、俺自身に対してだ。助けに向かっている対象ベスではなく、俺自身が何かを感じ取っている。


『……ゲームで悪寒、か』


 いやいや、ありえないか。



     ◆ ◆ ◆



(※ ここから三人称視点です)


「くんくん、やっぱり匂うなぁ」

「……あ、は…………何が……かしらぁ?」


 戦場となっていた会議室は、もはや蜂の巣と化していた。

 いたるところに銃撃のあとが残り、テーブルは割れ、ソファに詰まっていた綿は派手にはじけ飛んでいる。

 そんな中でボロボロになったベスの元に、一人の女性が顔を近づけて臭いを確認する。


「……うん、やっぱり匂う」


 女性の年齢は二十前半だろうか、大学生と推測されるくらいの若い女性だった。挑発的な瞳はベスを捉えており、してその容姿はというと完璧で美麗だった。がしかし、逆にそれが機械的で不気味にも思える。

 深緑の迷彩服に身を包む女性は、ベスから匂う微かな匂いを確認して笑っていた。しかし両手に携えていた二挺にちょうのガトリングを持つ手は、そのうちに潜む感情を表すかのように静かに細かく震えていた。


「……なぁんで君からあの子の臭いがするのかなぁ……あんな無害な可愛い子にこんな危険なが近づいていいわけないのにサァ……」


 女性の目からは生気が消え、目の前の害悪を抹消するべくガトリングが再び回転を始める。

 キィィィンという独特の回転音が部屋を支配し始め、そして銃口はベスへと向けられる。


「――死んでくれるかな。永遠に」


 女性がガトリングのトリガーを引こうとした瞬間――


『ベス!』


 女性との間に、一人の青年が割って入る。


『大丈夫か!?』


 青年はベスを抱えて女性から距離を取り、その容態を確かめる。


『……LPがかなり削れている……危ないところだったな』

「あ、あらぁ……私ったら幻覚でも見ているのかしらぁ?」


 ベスは口に溜まった血を吐きつつ冗談交じりにそういったが、青年の方はその言葉を聞くなりフードの奥で笑った。


『ジョークが言えるならまだ大丈夫か……ラスト、ベスの回復を』

「承知しました」


 土壇場でベス側に援軍が到着。しかもその援軍の正体とは、かの《刀王》と呼ばれているジョージである。


「ありが、とう……」

『礼はいい。休め』


 ラストに負傷した同僚を任せ、ジョージは改めてベスをここまで追い込んだ者の方へと向きなおす。

 女性はというとその間じっとフードの奥に潜む顔を見つめ、そしてフードの奥に潜む青年の顔を見るなり顔を笑みに変えていく。

 ジョージは後ろ背に敵を警戒しつつも、ラストとベスを安全な場所へと追いやった。


『ふむ……それにしても、あんたは中々強いようだな。だがベスをここまで追い込んだ借りは返し――――ッ!?』


 抜刀しようと柄に伸びていた右手が留まる。ジョージはその相手を見るなり、明らかな動揺を見せた。

 その相手とは、決してにいないはずの存在。現実ゲームにはあり得ない存在だった。


「……なんで……何であんたがここにいるんだよ……ッ!?」


 ジョージは初めて、キーボード抜きでその言葉を放った。明らかな動揺でもって目の前の女性から後ずさりをしてしまった。

 それに対し目の前の女性は両手のガトリングガンをポイと手放し、にっこりと満面の笑みを浮かべ、両手を広げてこういった。


「――会いたかったよぉ愛しの弟ちゃぁん!! アハハハハハハッ!!」


 ジョージはたった今、最凶最悪の敵とエンカウントしてしまった。



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