表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/112

弟子

「では、各自出征の準備に取り掛かる様に!」

「ハッ!!」


 剣王が円卓の間を去るのを見届け終えると、早速軍団の中で作られ始める。もちろん仕切るのは、あの勇士パラディンの男だ。


「じ、じゃあ六人一組単位で小隊を――」

「まて、これほど大規模な軍勢となると、逆に六つの隊に分けた方が早い」


 上位組がイライラしながら団長の指示を指摘している。俺はというと、我関せずといった様子で椅子に腰かけ、刀の斬れ味を確認している。


「そ、そうですか! では上位職の方々を各小隊の隊長にして、そこに我々中堅組がしたがうという形で宜しいですか!?」

『それでいいんじゃない? ねぇ魔法剣士マジックナイトさん』


 さっきからつっかかっている相手の名前は知っている。だがその名前を俺は呼びたくない。


「貴様! 我には《暗黒騎士ゴウ》という名が――」


 ほらね。言いたくないでしょ?


『てことで、チームを六つ作ってー』


 「ハイ二人組を作ってー」に近いトラウマセリフを、まさか自分が言うようになるとは。いやはや感慨深い。

 上位職組は俺を除いて全部で十五人。対する中堅組は六十二人。足して七十七割って一つ当たりの隊に大体十二、三人くらいかな。

 もちろん勇士である彼は今回小隊長であり軍団長となる。が――


「…………」

「じ、人望が……」

『……ま、まあ上位職の人が多い隊に入った方が確かに生存率も高いけど』


 やっべ、フォローになってねぇや。


「と、取りあえず余った中堅組集合」


 何とも気まずい組分けであったが、とりあえず分隊はできた。後は現地近くで敵地視察の後、最後の作戦をたてるだけ。


「では今日の夕暮れ時、ベヨシュタット郊外の大橋に集合、明朝までに戦線に到着する!」


 まさかの徹夜に不満の声が漏れるが、勇士の男には一計があるらしく、頭を下げて懇願した。


「頼む! これだけは譲れない! 俺も軍団長を任されたんだ、少しはみんなの役に立ちたい!」


 その言葉を聞いて一同黙ると共に、誰もが静かに提案を受け入れた。



     ◆ ◆ ◆



『っくぅー、つっかれたー』


 結局最後までフードを被ったまま威圧感を醸し出すことで何とか乗り切ったが、それでも毎回毎回の戦前の緊張感は凄まじいものだ。


「お疲れですか? でしたら私が――」

『いらない』

「まだ何も言ってないのに……」


 どうせ「身体で癒してあげますー」なんて言うつもりだったんだろ。俺知ってるからね!


「おーい!」


 俺はこのまま一週間分の買い出しに出かけようとしたが、その前に例の勇士に声をかけられ足止めを食らう。


『ん?』

「ありがとうよ!」

『何が?』

「何って、俺を軍団長に推薦してくれたことだよ!」

『あぁー、あれはあの時あんたに経験積ませた方が適切かと思ってのことだ』


 それにあれだけ上位職組がいるなら一週間かからないだろうし、何より超大規模戦争グラウンド・ウォーに向けて全体を高めとかないと。


『ってことで、俺は準備に取り掛かるから』

「おう、ありがとうな!」


 しかし、どうしよっかなー。一週間分の食料を買ってもいいが、もし短期決着した場合に勿体無いし――


『――っと』


 突然目の前に少女が現れ、俺は不意に足を止めた。随分と走ってきたのか、息は切れ切れ、額からは汗を垂らしている。


「……はぁ……はぁ……やっと見つけた……」


 やっと見つけたということは、用件は俺か。


『何の用かは知らないけど、俺は今から――』

「あのっ! 弟子にしてください!」

「へぇっ!?」


 そのセリフは俺ですよラストさん……ってか今なんて言った? 弟子?


「私を今度の戦地に連れて行って下さい!」


 ポニーテールをぶら下げて、少女は俺に頭を下げる。


「…………」


 ステータス確認。職業:剣士。レベル……15。NPCではないようだが、これは――


『……残念だけど今回は――』

「分かっています! 無謀だと知っています! でも、私は学びたいんです! かの《蒼侍》の元で! 剣術を!」

「身の程を弁えなさい、下郎」

「…………」


 熱心に目を輝かせ、純粋な視線を向けてこられると痛々しい――って、勝手に断るなよ。


『ラスト……俺はまだ何も――』

「私の主人をたぶらかそうとする女狐が、さっさと消え失せよ。さもなくばこの場で殺す」

『女狐って……』


 そこまで言う必要は無いだろ。


「ぐ、ぐぬぬ……しかし……」


 ラストとしてはこの少女が気に入らないらしい。が、俺は単純にレベル不足故にこのお願いを断る。


『せめてレベルを倍にしてからじゃないと、これから行く戦地はとても厳しい――』

「良いではないか?」


 俺が後ろを振り返ると、痛々しい名の魔法騎士がそこにいる。


「これも剣王が治める国全体の底上げのため、だろ?」


 明らかに足引っ張りをつけさせようとしているのが丸わかりで、ラストに至っては涼しい表情の裏に激烈な怒りを隠している。


『では、貴方の部隊で――』

「いやいや、若き少女がわざわざ君の弟子になりたいと言っているのだ。無下には断れまい」


 クックック――って笑うなよ。


「…………」

「っ! お願いします!」


 少女は頭を下げたっきり、「いい」というまで上げるつもりは無いのだろう。


『……抹消デリートされても、責任は負わない』

「分かっています! 精一杯頑張ります!」


 その後も何度も何度もポニーテールをぶんぶんと振り、少女は感謝の言葉を並べ続けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ