闇夜に生きる者
作戦を決め終えた俺達は、夜の闇と雲に紛れてイェーガー砦の上空を旋回していた。
「陽動はボクとイスカさんのワイバーン部隊で行います。キリエさんとグスタフさんはラースが撃墜されない様に護衛をお願いします」
「承知した」
「そしてその間に、ベスさんとジョージさんで内部を崩してきてください。当たり前ですが、バレないよう気をつけて」
『俺は分かっているが、ベスは――』
「あらぁ? 私だってそれくらいできるわよぉ」
プレイヤーの悲鳴を聞くのが好きな人間が何を言う。
っと、そろそろラストが刀の召喚を終えている頃か。
『……例の物は』
「こちらに」
ラストがうやうやしく掲げているのは、群青色の刀身を持つ刀。
「――暗夜刀です」
『ああ、ありがとう』
暗夜刀――レアリティレベルは少々下がって73レベルとなるが、これは夜間に装備していると太刀音を消してくれるというユニークな機能がついた刀だ。これと黒刀・《無間》とを二刀流すればまさしく闇夜に紛れることになり、暗殺はたやすいものとなる。
『そういえばラストはどうするつもりだ?』
「我が身は主と共にあります。依然と同様【幻体変化】でサポートを」
『ああ、そういえばそれがあったな』
不可視の辻斬りか……うわ、相手からすれば想像するだけで面倒だな。
『……そろそろ予定の時刻だ』
俺はそう言ってシロの方を向くと、シロはニコリと笑って号令をかける。
「……では、殲滅戦を始めましょう――」
◆ ◆ ◆
「――敵襲! 敵襲!! 種別はドラゴン! コルタ砂漠からの追撃と思われる! 至急応戦せよ!!」
「イェーガー砦を落とさせるな! ここが正念場だ!」
「たかがドラゴン一匹!! 我々で防ぐぞ!!」
「…………」
……敵地内に侵入できたはいいが、シロさん俺達もいるって分かっているんだよね?
『ブレスの爆撃が容赦ないんだが……』
俺が手を下すまでもなく、目の前で敵が焼けていくさまは何とも言い難い。
「念の為【超弩級炎耐性】はかけさせていただきましたが、主様のDEF(防御力)で耐えられるかどうか……やはりあそこでペアリングを買っておくべきだったのでは――」
『過ぎたことを悔やむな。敵の伝令を聞く限り幸い砦の外殻だけで内部には被害が及んでいないようだ』
それはそうと、ちょうど砦の反対側に侵入をしているベスは大丈夫なのだろうか。
『……一応連絡を取ってみるか』
連絡用の音響石を手に取り、小さく声をかけてみる。
『そっちはどうだ?』
「“あははは! どんどん苦しんじゃってぇ!”」
『オイ! 隠密はどうした!?』
「“あらぁ? ジョージじゃないの。大丈夫よぉ、声を出さずに殺しているからぁ”」
当の本人がハイになっていちゃ世話ないんだけど。
『……まあいい。外からのブレスにも気を付けておけ』
「“その辺は既に内部に侵入しているし――ごめんなさぁい、後でまたねぇ”」
『どうしたんだ? まさか例の奴等か?』
ベスは問いに答えることはなく、連絡はそこで途絶えてしまった。
「…………」
「……あの女に何かあったのですか?」
ラストは少し声色よさそうに言うが、俺の厳しい横顔を見るなり黙りこくった。
『……東の方角、ベスの方に向かうぞ』
「……承知しました」
あのベスが優先するほどの敵、ならば早く駆けつけなければ。
『――っと、その前に』
先ほどから物陰からの熱い視線が気になっているところ。
『来るならさっさと来ないと、こちらから向かうぞ』
「……流石は、刀王といったところか」
影から現れた男は俺を知っているのであろうか《刀王》という異名を出してきた。
それにしても【幻体変化】を見破るとは、侮れない相手だ。
「…………」
「こうしてお目にかかるのは初めてだな。俺の名はシャドウ、闇に生きるものだ」
機敏な動きが可能なボディスーツに浮かび上がるは無駄のない筋肉。そして歴戦を潜り抜けて来たかのような顔つきに、額に大きな傷を抱えている。
『……遊撃部隊か』
「おしいな……俺は常に孤独故ゲリラに見えるが特殊部隊だ。そして――」
シャドウと名乗る男は、静かに腰元のナイフを引き抜いて構える。
「接近戦が得意という、奇特な人間だ――」




