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敵地への遊覧飛行

 逃走する敵への追撃のため、俺達六人は更に敵地キャストラインへと戦線を押しこむべく前進を始めている。


『それにしても、こいつに乗るのは二回目か……』

「私は初めてです……」


 竜騎士ライダーであるイスカとしては、これほどに貴重な経験はないだろう。なにせ今は七つの大罪セブンス・シンのラースの背中に乗っているというのだから。


「無駄話もいいですが落ちないで下さいよ。流石にこの高さから落ちたら抹消確定ですからね」


 周りに注意をしながらも、シロは自分も注意深くラースの手綱を持って座っている。このラース、今はシロのTMとなってはいるがそれはあくまでシロに従うという形ではなく、好敵手として認めているだけであり、その気になればラースはいつでも反逆する気があるようだ。

 だがシロの方もそれを黙って見過ごすという訳ではない。故に常にラースを運用する際はラースを討伐できる装備を隠し持っている。


「……トコロデ、ドコマデ飛ブノダ?」


 ラースの言う通り既に日は沈み始め、雲の上を跳ぶ俺達の横に綺麗な夕日が沈んでいく。


「そうですね……ここから撤退に適した拠点となりますと、イェーガー砦まで下がることになるでしょうね。そこで伝令を発足し王に現状を伝える、と……まあ、ボロ負けの状況を伝えてどうするんだって話ですよね」

「……後半ノキサマノ言ウコトハヨク解ランガ、承知シタ」


 笑いながらシロはそういうが、敵からすれば冗談ではない。

 なぜなら半日もたずに十万の(しかもエリートぞろいの)軍を壊滅させられたというのだから。ベヨシュタットで例えるのなら魔剣同盟や鋼鉄の騎士団、そしてソードリンクスなど名だたるギルドが壊滅に追いやられたという状況。体制を立て直すにも高レベル帯がごっそり抹消されているという絶望的な状況だ。

 ここまでくれば普通に敵国を畳めると思うだろうが、相手に俺達のような更に上の集団がいた場合、少し面倒なことになる。


『敵の調査は済んでいるんですよね?』

「はい。以前に《猟犬ハウンドドッグ》さんに情報を聞き出す際、噂話うわさばなし程度に話しをしてくれましたから。まあ今回前線に出ていないようで、恐らく奥に潜んでいるかと」

『それはさっきの軍隊よりもさらにレベルが高い、と?』

「というよりも、ボク達のようにステータスやスキル構成をしっかりと割り振っているグループと推測できます」

『……面倒だな』


 この前捕縛した《猟犬ハウンドドッグ》も厄介で、異名を持つほどに悪名が広がっていた。そして今回それを上回る集団を相手にする可能性があるということだ。


『……狙撃部隊スナイパーに注意すべきか』

「DUR(耐久力)が乏しいジョージさんなら、下手すると一発抹消デリートの可能性がありますからね」


 冗談じゃないんだが……まあPRO(器用さ)でフォローするしかないか。


「後は爆撃部隊レイダー特殊部隊フォース、そして何より遊撃部隊ゲリラに注意ですね」

「ゲリラですか……」

「はい。あの猟犬ハウンドドッグの師である人が一人いるそうで」

『……それはそれは』


 そんな奴等と戦える期待が無いわけではないが、それを上回るかのように危機感を覚える。


「手ぇ抜いて勝てる相手ではないってワケね」


 キリエはそう言って眠そうにしながらも、何とか落ちまいと上手くバランスを取って座っている。


『……眠いのか?』

「昨日徹夜で敵に侵入された時のための配置を考えていたのに、結局あんたとシロさんで片しちゃうんだから意味ないわよねー」


 皮肉そうに言いながらも、キリエのまぶたは半分閉じかけている。


『お前徹夜していたのか』

「まあ、いつも通りといえば……ふぁ……」


 大きなあくびを手で隠しながらも必死に眠気と戦うキリエを見て、俺はある事を思いつく。


『……ラスト』

「はい……?」

『キリエを寝かせてやれ』

「なっ――ッ! あの羽虫が――」

『あいつは俺達の為に寝ずに策を考えてきてくれたんだ。少しはねぎらってやれ』

「……承知、しました」


 ラストは思いっきり不満そうな顔でキリエの方へと向かうと、眠そうなキリエの頭をしぶしぶ自分の膝へと押しつける。


「……あぁっ!? あんた、何してんの!?」

「主様からお前を休ませるよう指示が下されたために、し・か・た・な・く・膝を貸してやろうというのだ。本来なら主様しか受けられない施しに感謝しろ」


「……あんたねぇ……」

『少しでも寝ておけ。起きた時には頭が冴え渡るようにしておけ』

「……分かったわよ……」


 キリエはそう言って大人しく寝息を立て始め、ラストは不満げに膝枕をしている。


『……そろそろ夕暮れだが、だいぶ敵地の奥にまで飛んでいるんじゃないか?』

「ええ。イェーガー砦まで結構かかるので、丁度夜襲を仕掛けようかと」


 夜襲か……敵スナイパーにも夜は発見されにくくなるからいいだろう。

 そして夜襲となると、腕が成るものが一人。


「あらぁ、だったら私が最初に行くわぁ」


 ベスはそう言って槍を持ち出し、ニヤリと笑ってドロリとした殺気を漏らし始めた。



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