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コルタ砂漠戦~追撃開始

『抜刀法・参式――裂牙烈風ざがれっぷう!!』

「ぐおぁッ!!」


 くっ、グスタフさんに軍を分断してもらったとはいえ、流石に五万の大軍勢を相手となると面倒になるな……。

 途中イスカの支援を受けながらも、俺は更にさらに軍勢をかき分けるように切り進む。

 討ち漏らした敵にはキリエ率いるガーゴイルに、骸の王率いる不死の軍勢が待ち構えている。突破できるはずもない。


「しかしそれにしても……」


 途切れることのない敵の軍勢を前に、俺は途方もないルーチンワークをしているような感覚に陥る。


「主様! 加勢いたします!」


 先に敵の通信関係の人間を潰して回っていたラストが、ここでようやく合流する。


『おおもとの伝令や司令官は全て殺せたか?』


 俺の言葉に対し、ラストは戦場であるにも関わらず頭を下げて謝罪をする。


「申し訳ありません。一部隊だけ、装甲車に乗った状態での撤退を許してしまいました」

『何ッ!? ――ッ、そのまま頭を下げておけッ!』

「えっ――」


 ラストの背後に立っている敵兵を刎ね飛ばし、俺はラストを抱き寄せる。

 敵は近距離戦を予想して銃剣もつけているようだが、こっちは近接武器の百戦錬磨が揃っている。片手間に倒せて当たり前だ。


『危なかったな……』


 TMに無駄にダメージを与えては俺の名が廃る。と思っての攻撃だったが、ラストにとっては主が身を守ってくれたことに喜びを感じていたようだ。


「主様……私を想って――」

『いいから報告を続けろ。今は惚気のろける時間じゃない』


 真剣な表情でそう伝えると、ラストは自らを戒めると共に業務的に報告の続きを放始めた。


「撤退した男についてですが、深緑のマフラーをつけていたところから、恐らく大将格と思われる男かと」

『…………そうか』


 面倒だな……この戦いについて報告される上に、大将格を逃がしたというのならこれ以上こいつ等を相手にするメリットなど無いに等しい。

 基本的に侵攻戦や防衛戦は、侵攻側か防衛側の大将を討たないと勝敗が決まらない。

 こっちの大将はもちろんシロさん。だが敵大将がこの場にいないということは、俺達にとって敗北はあっても勝利は無い。こうなると戦うだけ無駄だ。


「ラスト! 手早く片付けてシロさんの元に向かうぞ!」

「仰せのままに! ――【刺突心崩塵ハートキルスティンガー】!!」


 死の棘を一面にまき散らし、ラストはその場から敵陣を崩してゆく。俺はラストが狙われないよう護衛にまわるが、必死な敵が一挙に押し寄せてくる。


『チィ、こうなると抜刀法・終式しゅうしきを使った方が早いんじゃないか?』


 あれなら多勢を一気に一網打尽にでき――


「――《封龍滅獄斬バハムート・アポカリプス》!!」

『エッ!?』


 シロさんその技は――


「ぐわあああああぁぁああああぁぁあぁああああ――!!」


 俺がその方を振り返った時にはすでに遅かった。先ほどグスタフが放ったものとは比べ物にならない極限の斬撃波が、戦場を突き進んでいる。

 翼竜を模った斬撃は敵の隊列の最奥まで突き進み、途中の兵隊を全てなぎ倒して消えていく。

 残ったのは見るも無惨な光景――直線状の敵兵全てを殲滅し、抹消させた跡だけが残っている。

 

『……マジかよ』


 俺はまさかと思いながらも、自分の首にかけている音響石サウンドストーンを手に取る。


『……シロさん、まさかあの技使いましたか?』

「“はい。あまりにも雑兵すぎて欠伸あくびが出てしまいそうでしたので、気つけ代わりに一発お見舞いしました”」


 しかし雑兵相手にその技を使うのか……まあ、多勢に無勢すぎて欠伸が出るのは合意だが。


『ラストからの情報によれば、敵大将は撤退したようで……俺もそろそろ仕上げにかかります』

「“そうですか。期待していますよ、刀王”」


 俺は音響石から手を離し、目の前の軍勢の方を改めて向きなおす。


「な、何だったんださっきのは……」


 敵はこっちを向いてはおらず、先ほど起きた衝撃の事態に目を奪われている。


『俺のギルドメンバーが、あんた等の軍勢に失望して放った一撃だ。向こう側に生き残りはいないだろうな』


 冷酷に現実を突きつけると、敵兵は恐怖に怯えて現実逃避をし始める。


「ふ、ふざけんじゃねぇ、相手はたったの六人だってのに……っ! 俺達は、最強の軍勢なんだぞ!? 十万人いるんだぞ!?」


 確かに十万人かき集めたのはすごい。


『だが六人には負ける。これが現実だ』


 目の前の敵が圧倒的な実力差を前に、絶望の表情を浮かべている。

 安心するといい。その記憶もすぐに抹消まっしょうされるだろう――


『抜刀法・終式しゅうしき――』


 ――滅剱めつじん


「あ――ッ?」


 その技は、シロが放ったようにド派手な演出など起きなかった。ただ一瞬だけ風がそよぎ、一瞬だけ斬撃が通り過ぎるだけ。

 だが――


「――あっ……これは……血……?」


 俺は自分の血を不可解そうに見つめる敵兵を見ながら、ゆっくりと納刀を始める。


「……何で俺、LP減っているの?」


 切断か所から徐々に血が流れ、出血によるスリップダメージでどんどんLPが削られてゆく。


「……これはッ!? ッ、ガハァ……っ」


 そしてLPがゼロになった者から次々と、その場に倒れて消えていく。


『……弱い』


 そして納刀し終えるころには俺の目の前に立つ敵など、だれ一人いなくなっていた。


『……フゥ』


 これ個人的には大技すぎて嫌いなんだよね。今のでTP全部持っていかれたし。


『こんなものか』

「“流石は刀王、そして侍。即死技という訳ですか”」

『そうじゃない。落ち着いて手早く止血し、切断された体を縫合ほうごうすれば死なない技だ』


 だが対処法を知らないのならばLPだけが無残に減り続け、そしてやがて死ぬといういわゆる初見殺しな技だ。


「“えげつない技ですね”」

『あんたの技ほどじゃないよ』


 レベルカンストの人が格下相手に竜撃なんて大人げなさすぎだろ。


『それよりどうする? 敵は撤退した、俺達はここで守備に徹するか――』

「まさか、追撃しますよ」

「…………」 


 ――ですよねー。



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