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味比べ

『――お前も気配を感じたか?』

「まあねぇー。私が首都にいる間もちょくちょく気配を感じていたし、何人かは殺したわぁ」


 えっ? 普通生け捕りじゃないのか?


『……ちなみに袖の色は』

「そうねぇ、青色だったかしらぁ?」


 ……ちょっと面倒になってきたな……。


『何で身内の奴等がコソコソする必要があるのかって話だ』

「私もできる限り話を引きずり出そうとしたんだけど、大抵が拷問に耐えられずに死んじゃうのよねぇー」

『何で拷問してんだよ……』

「楽しいから?」


 可愛らしく小首を傾げるな、お前の場合それは怖いから。

 それにしても反逆者か……面倒なことになりそうだ。


『そういえばベスは偽装を見抜くスキルを持っていなかったか』

「そうねぇ。もしかしたら別の国の人かもねぇ」


 クスクスと笑いながら、ベスはドアの取っ手に手をかける。


「外はまだ肌寒いから、中に入ってお話をしましょう?」

『……そうだな』


 確かにギルド内でも情報を共有しておきたいところだ。

 ベスがそのままレストラン内へと足を踏み入れると、やはりといったところかレストラン内の空気が凍りつく。


「……あらぁ? 私何かしたかしらぁ?」

『何もしていない。だがお前の悪名が広がっているだけだ』

「……そうなのぉ」


 それ以上興味はないといった様子でベスは店の奥の方へと向かい、テーブルの空いている席に腰を下ろした。


「……久しぶりねぇ。キリエちゃん」


 ベスはにっこりと笑っているが、キリエは普通の応対のまま。


「ええ。あの時以来ね」


 何で女性陣の間には妙な緊張感が流れているんですかねぇ……普段の円卓会議ではそこまで仲が悪い雰囲気が無いようだが、プライベートでは何かあるのか……?


『俺達は先に注文している。ベス、お前も壁に掲げてあるメニュー表から注文するといい』

「えぇ、ありがとう」


 そうこうしている内に先に注文していた料理がイスカとキリエの前に置かれる。ごろごろと大きな肉が沈むシチューを前に、俺とグスタフですら涎を垂らしそうになる。


『ぐっ……俺もそっちにしておくべきだったか……!』

「そ、それがしのミノステーキはまだかっ!」

「キモッ! 見つめすぎでしょ常識的に考えて!」

「え、えーと、その……」


 キリエは皿をとっさに自分の方へと引き、イスカは皆を待つべきかどうかと迷っている。


『先に食え。ベスまで待っていたら料理が冷める』

「では……いただきます」


 最初にスプーンで一口、そしてパンをかじる。至福そうな表情のイスカに、意外な美味しさに目を丸くするキリエ。そして俺はそんな二人の様子を見て、いまだに飯を食えずにいるという焦らしを受ける。

 チクショウ、変に気取った和食もどきにしなければよかったのか!?

 そう思っていると、店内に人ならざる生物の鳴き声が聞こえ始める。


「キキーッ! ウキキーッ!」


 振り向くとそこには和食であるざるそばを持ったサルがひょこひょこと届け先を探している。


『……もしかしてさるそばってそういう事か……?』

「はい! うちで飼っているモンジは、蕎麦そばを打つプロですから!」


 すぐ近くでミノステーキを運んでいる看板娘が、にこやかに料理の説明をする。


「…………」


 食品衛生法ぶっちぎってないか……? と思ったがこれはゲーム内だからいいのか……?


『……まあ、いいだろう』


 グスタフは目の前に置かれたミノステーキの肉厚具合に笑顔でかぶりついている様子。となると、先に頼んだ中で料理が来ていないのはラストだけか。


『ラスト、先に食うがいいか?』

「滅相もありません! 主様の食事こそが優先されるべきことですから!」

『そうか……』


 では、遠慮なくいただこう。


『……いただきます』


 中世なのにはしがあるとは――とツッコもうにもざるそばの時点で色々と破綻しているよなぁ。


『……ズズッ…………美味いな……』


 ソバの風味と山葵わさびの辛み。たまらなく美味い。これ本当にゲームか?


『ラスト、少し食べてみろ』

「えっ? で、ですが主様――」

『美味いから。お前も食ってみろ』


 家じゃこんな物作れないだろうし、ラストも食べて気に入ってくれるといいが。


「あ、主様と間接キス……主様と間接キ――」


 うん。呟きは聞こえないことにして、感想だけを聞こう。


「……チュル…………っ! これは……!」


 一口くちにいれるなり、ラストは目を見開らいてまるで今までない美味さを体感したかのような表情を浮かべている。


「主様、確かに美味しいです!」

『だろ? 俺も後でお前の料理を分けてもらっていいか?』

「もちろんです主様!」


 幻魔がざるそばを食うなんて事は普通あり得ないからなあ。こうして喜ぶのも分からなくもない。それにしても、随分と美味しそうに頬張るものだ。


「ち、ちょっとあんた! 何してんのよ!?」

『ん? どうしたんだキリエ。何してんのかって、見ればわかるだろう』


 自分のTMと飯の交換ぐらい別にいいじゃないか。


「分かるだろうって……それずるいじゃないの!」

『はぁ……』


 何をキリエは怒っているのか。そしてイスカとベスは黙って俺のさるそばをじっと見つめている。


『……もしかして、お前等も食いたいのか?』

「エッ!? そ、そういう訳じゃ――」

「ジョージさん、私のシチューを分けますからそれを少しもらえませんか?」

「ちょっとイスカ! あんた何やってんの!?」

「な、何って物々交換ですよ!」


 ……だったら最初から料理を皆でわける方式で行った方が良かったんじゃないかと、俺は自分の注文したさるそばが目減りしていくのを見つつ、心の中でそう呟いた。


「私はパンをあげるからあんたのそば少し寄越しなさい!」

「私は料理がまだ来ていないけど、来たら分けてあげるから頂戴ねぇ」

『ハァ……好きにしろ』

「……それがしも、さるそばにするべきだったのか……?」

「あんたは別にステーキ食っていればいいのよ!」



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