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Bladeload Onslaught

 都市は既に包囲され、敵は既に目と鼻の先。こちらの戦う準備はできている。


『迎え撃つ準備はいいか!?』

「こうなったらやるしかねぇ!」

「ここまでしてもらって黙っていられるか!」


 キリエの魔法を見るなり、彼等の魔導師としての意地が刺激されたのか、続々と士気が上がっていく。


『キリエ! 後ろは頼むぞ』

「はいはい。あんたはいつも通り、暴れまわってくればいいんじゃないの?」

『もとより、そのつもりだ』


 俺は最後にある仕込みを行うために、両手に簡易召喚用の魔法陣がついた革手袋をはめる。


『行くぞ……』

「援護いたします」


 ラストが後ろから見守る中、俺は腰元に挿げた刀を抜いて最後の仕上げに入る。


『――《血の盟約ブラッドアサイン深度弐デプスセカンド》』


 LPの半分に値する血を吸わせ、俺は右手の籠釣瓶カゴツルベを開放する。


『…………《辻斬り化》』


 更に俺は血の滴る左手に、鋸太刀ノコギリダチを構えさせる。


『見せてやるよ……俺がオリジナルで編み出した抜刀法を――』


 俺はまだ腰元に破魔ノ太刀ハマノタチを挿げたまま城壁を降り立ち、敵陣に右手の刀の切っ先を向ける。


『――ククククク……《刀王》ジョージ、いざ参る!!』


 そして、精神汚染が開始される――


『抜刀法・死式ししき――――釼獄舞闘練劇けんごくぶとうれんげき!!』


 二刀流の自分にバフをかけ、そのまま敵陣に自ら突っ込んでゆき、回転する剣舞で敵陣を切り刻む。更に手当たり次第にあたりの敵を斬り伏せ、敵陣の奥へ奥へと突き進む。

 黒々としたコートが、鮮血の色で染められる。


『遅い! 弱い!! 木偶デクの坊か貴様等!!』


 パワードスーツに乗っていようが関係ない。左手の鋸太刀が全て叩き斬ってくれる。

 そして右手の籠釣瓶が精神汚染と引き換えに敵の血をすいとり、俺のLPを徐々に回復させていく。

 被弾など関係ない。それを上回る勢いで斬り殺していいだけの話だ。


『――ッ!』


 不意に遠くの方から砲弾が撃ち込まれるが、俺はすぐさまに反応して砲弾を真っ二つにし、砲弾が飛んできた方へと身体を向ける。

 そして俺は鋸を持つ手を大きく後ろにそらせて、両肩に大砲を背負っているパワーアーマーの男の方へと照準を定める。


『抜刀法・死式!!』


 ――飛鎌頭刃ひれんとうじん!!


「グハァッ!?」


 鋸太刀は正確に男の頭を貫き、俺は素手となった左手で腰元の破魔ノ太刀を抜刀する。


「後ろががら空き――」

『抜刀法・死式――迎戟列衝斬げいげきれっしょうざん!!』


 敵の攻撃に対し、PRO(器用さ)の数値に合わせた正確なカウンターが返される。


『流石に一万は……グッ!』


 突如視界がボヤついてしまい、俺は思わずその場でふらついてしまう。

 ――血の盟約ブラッド・アサインの効果が、もう切れてきたというのか。


「隙あり――ぐぎゃ!」

『……無駄だ。迎戟列衝斬げいげきれっしょうざんは発動中TPを常時使うが、今の俺はTPが無限だ』

「ば、ばきゃな……グハッ!」


 俺の周りに新たな死体の山が築かれていく中、俺はふと城壁の方を見渡す。

 すると皆が皆敵を必死に寄せ付けまいと、城壁の上や穴から魔法を飛ばして敵を倒しているのが見える。

 そんな中キリエはガーゴイルを自動思考に任せて四方を守らせながら、例の骸の王を率いて戦場へと降り立つ。


『……来るか。キリエの真骨頂が』


 俺が作り出したたくさんの死体を見て、キリエは上機嫌そうににっこりと笑う。


「さて、早速死者の軍勢を作ってもらおうかしら」


 キリエはそう言って声をかけ、主の期待に対して骸の王は望む答えを返す。


「御心のままに――【死霊再臨リ・バース】」


 骸の王を中心に戦場に瘴気が満ちてゆき、死んだはずの肉体が息を吹き返す。


「アハハハ! 一万の軍勢から、こっちに寝返った者が現れたみたいね!」


 キリエはご機嫌になって笑いながら、更に死体の一つ一つにナイフを投げて刺し、追加でステータス向上の呪術の詠唱を開始する。


「――【死体改造デッドリーチューンアップ・Luck】!!」


 うごめく死体に正確な銃撃など求めていない。ただたまたま当たった時に、致命傷が与えられればいい。そうした方が相手にとってのプレッシャ―になる。


「さて、後は貴方に指揮権を譲るわノーライフ・キング。好きに殺しまわって頂戴」

「我が主の想うがままに」


 死体の数――およそ五百。しかしそこからは兵が増えることはあっても、減る事など無い。

 そしてこれこそがキリエの考案した「敵から無料で兵を頂くことで兵力を逆転させる作戦」の全貌だ。


『……相変わらずエグいな』 


 目の前の敵をバッサバッサと斬る俺が言えたことでは無いかもしれないが。

 そんな中で、今度は城壁を崩すための攻城兵器が進軍を開始する。


『ッ、キリエ!』

「分かっているわよ!」


 巨大な装甲車など、マシンバラでしか造れないであろうものが押し寄せてくる。


「装甲を弱めておくから、あんたが一撃で決めなさい!」

『分かっている!』


 その前に再度、俺は左手の甲に刀を突き立てる。


『――血の盟約ブラッドアサイン深度参デプスサード!』


 満タンまで回復したLPが、今度は四分の一まで減らされる。


『グハッ…………カッ!』

「“主様!? 今急激にLPが下がったのがお見えになりましたが――”」

『“気にするな! お前は都市内部に敵が侵入されていないか確認しろ!”』

「“ですが――”」

『“俺の言う事がきけないのか!”』

「“…………”」


 思わず声を荒げてしまった俺に対し、ラストは無言のままでいる。


『“聞こえているのか!? オイ!”』

「“……今は主様の指示を仰ぎますが、後で私の話を聞いていただきます”」


 ラストはそういうと、俺との【意思憑依テレパス】を途中で切ってしまう。


『……チッ、今はそういう事を考えている場合じゃないんだよ』


 俺だって分かっていない訳じゃない。精神汚染は確実にきている。只今は敵の血を十分に吸えているからいいものの、それも長く持つ訳じゃない。


『……キリエ、早く終わらせるぞ』

「? 当たり前でしょ?」

『……そうだったな』


 キリエは首を傾げながら、装甲車の前方四か所にナイフを投げて突き刺す。


「――【改造劣化デチューン・durability】!」


 敵のDHR(耐久力)が減った所で、俺は破魔ノ太刀を振りかぶって装甲車に勢いよく投げる。


『抜刀法・死式ししき――飛鎌頭刃ひれんとうじん!!』


 装甲車が爆発すると共に、俺の手元にはとうとう籠釣瓶だけが残される。


「い、今のうちに奴をやれ!!」

『無駄だ――【短距離呼出インスタントコール】!』


 俺は籠釣瓶を左手に持ち替え、右手の皮手袋に描かれた魔法陣を起動させる。

 掲げた右手に、先ほど突き刺したまま放置していた鋸太刀が呼び寄せられる。


『俺を相手に、隙がある訳無いだろうが!!』


 再び敵陣を切り開き、俺は更に奥の方へと向かう。

 途中敵を刀で敵を突き刺すも、すぐに今度は左手の魔法陣で刀を呼び出す。


『【短距離呼出インスタントコール】!』


 左手に破魔ノ太刀を携え、更にさらにと敵陣を斬り崩す。

 無限に刀を召喚し、無限に敵を切り刻む――これが俺の編み出した抜刀法、その名も抜刀法・夢幻ムゲン


『大将首はどこだァ!!』


 そろそろ血の盟約ブラッドアサインも切れてきている。次はもうない。


『出てこいよォ!! 早くその首討ち取らせろォ!!』


 まずい、徐々に精神汚染が始まっている。

 そして更にまずいことに、敵は尋常にならないほどの被害を出した事で撤退を始めている。


『チッ、クソ……!』


 既に敵方後ろの方の部隊は撤退に成功しているようで、俺は周りを死体に囲まれながらその場にうずくまる。


『納刀を……!』


 俺は最後の力を振り絞って籠釣瓶を納刀し、その場に片膝をついた。


『……ハァ、ハァ…………』


 危なかった。あと少しで汚染がさらに進むところだった。


『……こっちの被害は……』


 見た所一部城壁が瓦解され、ガーゴイルが二体倒されたぐらいだろうか……


『……よかっ……た――』


 そしてそこで俺の記憶は一度、途切れることとなった。




 ――今回の戦果。


 ジョージ、キリエ、両名共に生還。しかしジョージの方は、突然の大規模な防衛戦にて奮闘しすぎたせいか疲弊している様であり、しばらく静養が必要と思われる。刀王をここで失うのは我が国としても手痛いダメージとなるため、きちんとした休養が必要と思われる。


  以上。



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