VS.高貴で高慢な吸血鬼、プライド
戦いは一進一退だった。
『チッ、斬ったそばから復活しやがって……』
「貴様こそ、破魔の力を持つその刀……私には少々、眩しすぎる!」
ノーダメージという訳ではない。だが相手は並大抵の吸血鬼とは違う、正に高く貴い存在。吸血鬼が本来持ち得ている怪力、そして変化能力。極めつけに目の前にいるプライドだけが持つ固有スキル《血潮の海》。これは自分の支配下にある血を、自らの思うがままに自由に操るスキルだ。
そして血でできた剣でもって、プライドは敢えて俺と同じ土台に立って戦いを楽しむ。
しかしそれは、俺の侍としての自尊心を刺激しすぎた。
『抜刀法・三式――裂牙烈風!!』
俺は容赦なく裂牙烈風でプライドの肉体をバラバラに切り刻むと、今度こそ相手のLPは0になったのだと思っていた。
だが――
「……ククク」
『ッ!』
それは失敗だった。
飛び散った血肉の一つ一つが意思を持ち、俺を喰らおうと襲い掛かる。
『クッ――』
襲い来る血肉をいくら切り刻もうが、細かな敵が増えるだけ。俺は後退を余儀なくしなければならず、その分血肉が距離を詰めてくる。
『……こうなったら!』
俺は唐突に相手に背を向け、敵とは反対方向の通路へと走り出す。
「……塵芥が、逃げる気か……? ならば、こちらはゆっくりとあの女史二人を追わせて――」
『抜刀法・弐式――絶空!』
ラスト達を追おうと集合し人を模るプライドに対し、俺は後ろからプライドの首を遠距離から刎ね飛ばす。
『やっぱり破魔ノ太刀で相手をするのは止めて欲しいってか?』
「…………貴様……その肉体をバラバラに引き裂いてやろうかッ!!」
ようやく化けの皮がはがれたといったところか?
プライドは今までの高貴な言葉遣いと違って、化け物らしく荒々しい言葉でもって俺を追いかけ回す。
「待て!! 逃げるなッ!!」
『待てといわれて待つかよ!』
迫りくるプライドを確認しながら、俺は自身の行く手を阻む扉を斬り開いてすすんでゆく。
『どこだ、どこに――』
俺はあるものを探しながら、プライドから逃げるために走り続ける。
『――階段!』
俺は素早く駆け上がり、地下牢から屋敷へと場所を移る。
「貴様! いつまで逃げる気だァ!!」
すぐ後ろを、鬼気迫る表情のプライドが追ってくる。
捕まれば即、死。そんなギリギリの恐怖が俺の後ろからやってくる。
『……ここでいい』
俺は屋敷の広間で足を止め、プライドが来るギリギリまで待ち続ける。
「ようやく死を覚悟で来たか! ならば貴様の脊髄を引き抜いて、屋敷に飾るインテリアにしてやろう!」
散々コケにされ怒り狂う吸血鬼。そんな化け物が俺の背骨に手をかけようとしたその刹那――――全ての刻は止まる。
『抜刀法・神滅式――』
――千閃楼天崩斬!!
「ッ!?」
瞬間――下から上へと突き上げるかのように、全ての斬撃が天へと向かう。同時にプライドの肉体も千の肉片へと切り刻まれ、遥か宙へと突き上げられる。
「ば、バカナ――」
同時に屋敷も全て切り刻まれ倒壊し、プライドはその千の肉片を白日の下に晒し出す。
「こ、これは――」
『確か吸血鬼は、太陽が苦手だったか……?』
俺は分かっていて、あえて挑発的にそう問いかける。
『消え失せるのは、お前の方だったな……』
「き、貴様アアァ――――――――――――何とでも言うと思ったのか?」
『何だと……?』
屋敷が倒壊したことで周辺住民の注目が集まる中、肉片は再び集合し人の形を模る。
一連の光景を見た住民はパニックに陥り、叫び声を上げる。
そして俺は奴がなぜ生きていられるのかと疑問に思うと共に、吸血鬼の弱点が通用しなかったことに冷や汗を垂らし始めた。
「……ふむ、外野がうるさいな」
プライドはそういうと、周辺住民に向かって血の鎖がついた鎗を飛ばし始めた。
「ぐげっ!?」
プライドは槍が突き刺さった住民から吸血を始め、鎖を通して自らの体内に収める。
「……やはり、人間の血は美味であるべきだ」
そしてさっき受けたダメージが明らかに回復し始めていると、俺は即座に理解する。
『……戦闘中に回復行動とるなよ。ずるいだろ』
「ククク、一度逃走を図った者が言えるのか?」
プライドは白日の下にその邪悪な羽を伸ばし、自らの身体で太陽を隠し始める。
「――さて、第二ラウンドといこうか。侍」




