情報収集
ふぅ、何とか面倒事は避けることはできたか。
『チッ、雑魚を追っていたら大物に引っかかるとは……』
門の外まで出ると、流石の俺も緊張をほぐさなければならなかった。
「まさか《七つの大罪》が出てくるなんて……」
キリエはいまだに緊張感が残っているのか、ガチガチに震えている。
まあそれも無理はないだろう。七つの大罪と相対した場合は、選択肢としては倒すか倒されるしか残っていない。このゲームの特性を考慮すれば、七つの大罪と戦う時は万全以上の準備を整えてするのが定石中の定石。今回のように上手く戦闘を回避することなど、実は不可能に近かったのだ。
死んだら終わり。それを改めて思い出させる一瞬だった。
「……っ」
ラストはというと悔しそうな表情を浮かべながら、あの場でプライドを相手に一泡吹かされたことに歯噛みしている。
『……次会った時に、倍にして返すぞ。俺のラストをバカにされるのは、俺自身も不愉快だ』
「っ! はい、主様!」
その後「俺の……ということは、私は主様の私物であり所有物……っ、鼻血が……!」なんて言わなかったらTMとして百点満点なのになぁ。
『……ともかく、この街の特ダネを見つけることはできた』
後はどう刺激し、起爆し、燃え広がらせるかだが。
それにしてもまさかこの街に《七つの大罪》がいるなどとは誰も思ってはいまい。
念の為先ほどの争いを誰かに見られていなかったかとラストに問うと、ミリアにも誰にも覗かれたという気配はなかったようだ。
『このまま直でミリアに報告してゆするのも手だが、プライドがこの街の権力の何処までに浸食しているかがまだ分かっていない。それどころか下手するとこの街の貴族という立場から、プライドの方を信用するかもしれないな……』
つまり公衆の面前で奴の化けの皮をなんとかして剥ぐしか方法はないということだ。
『難しいな……』
日差しが上っていく中、俺は人で賑わう市場の端で物思いにふける。正直言うとせめて所持金だけでも奪還できないと、このままだと何もできない。
『……もう一度だけ下水道に向かうか……?』
正直入るのはきついが、そうするべきか……? いや、早計すぎるか。
ひとまずあのプライドとかいう男について、もう少しだけ情報を集めるべきだな。
『……ラスト、お前はあの男と面識があるようだったな』
「はい、一応七つの大罪について、ある程度の知識はございますが……」
『今はとにかく情報が欲しい。お前の知っている範囲で構わない、できる限り教えてほしい』
「承知いたしました」
『では場所を移そう。ここで話して周りの注目を集めるのも良くないからな』
俺はそういうと、人通りの少ない街の裏通りの方へと足を進めて行った。
◆ ◆ ◆
『ここならばれないだろう』
ちょっとばかし治安が悪そうだが。日陰が多く人の目も少ない上、なんとなくだが互いに関与しそうにない雰囲気が醸し出されている。
「では我々七つの大罪について、できる限りでお話をさせていただきましょう」
そこから俺とキリエは、黙ってラストの話に耳を傾け続けていた。
「私達七つの大罪とは、その名の通り大罪に沿ったモンスターで構成されております。そしてその一体一体が強大な力を司る――」
『それは分かっている。俺が聞きたいのは、お前が何故プライドを知っているのかということと、知っているならプライドの弱点を聞きたいんだ』
「申し訳ございません主様。私が意思をくみ取れなかったばかりに――」
『謝る必要はない。今はお前の情報が貴重なんだ』
ラストは深々と頭を下げると、そこから俺の提示した質問に答える形で話を続ける。
「あの男のことを知っている、というより、我々にはもともと会合のようなものがございまして」
『怪物同士の会合――待て、すまない。お前のことをそういうつもりじゃ――』
「主様のご配慮、痛み入ります……その会合なのですが、数年に一度だけ集まるだけ集まり、互いに近況報告などの簡潔な話をし、解散するだけの簡単な集会です。私がプライドのことを知っているのはこのためなのですが……主様のご期待に沿えそうな回答は、これ以上はできません」
あまり多くは知らないといった様子で、ラストは「申し訳ありません」と再度頭を深く下げる。
『構わない。ゼロよりマシだ』
そう言って俺はラストの下がっている頭に手のひらをポンとおき、事情を整理し始める。
『……そういえば、俺のTMになってからの会合は行っているのか?』
「それは、主様に仕える身となってからは、そういった類の呼出魔法は受けておりません」
『ふむ、TMになった事で何かが変わっているのか……? じゃあ、最後の会合でプライドが言っていたことで現状気になる事とかないか?』
「あの男は……常に自慢をしては周りを見下しておりましたので……正直な所を申しますと、いつも話を聞き流していました……」
『そうか……』
「で、ですが一つだけ! 今思えば不可解な事が一つだけありました!」
『何だそれは』
「あの男、いずれは国を支配したいと言っていたような……」
国を支配、ねぇ。貴族のみとして内政面から干渉するつもりであろうか。それにしてもあいつの資金はどこから出ているのか……。
「…………」
トロール兄弟のスリだけでは、貴族の資金としては小遣いにも満たないだろう。俺やキリエの様な特例は置いておいて、もっと大規模な資金供給源があってもおかしくはない。
『……よし、もう一度だけあの屋敷に入りこむか』
「どうやってよ?」
俺は前回のキリエの真似をして、地面を刀の鞘でトントンとたたく。
『地下から行くしかないだろう』
今回は可哀そうだが、女性陣二人にも手伝ってもらうとしよう――




