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番外編その二 ―ゲーム管理人システマによる、《蒼侍》に対する考察―

 はいはいどーもどーも! 大規模オンラインゲーム「キングダムルール」、皆も楽しんでいるかな!? ……えっ!? 誰だって!? 暗黒騎士ゴウじゃないよ? ミーだよ! このゲームの管理人、システマだよ!

 今回は番外編ということで、特別にこのミーがこの小説ゲームの主人公であるジョージについて話していきたいと思うんだ。


 現実世界での彼の名前は湊川譲二みながわじょうじ。冴えない引きこもり青年さ。彼のゲーム内でのチャット頻度と現実における発言頻度は見事に反比例していて、ゲーム内ではおしゃべりでコミュニティもそれなりに取れるキャラクターだけど、現実では人とは目も合わせようとはしないほどの人見知りさんだよ。

 そしてそれはゲームに取り込まれてからもいかんなく発揮され、彼はキーボードでの発言以外ではほとんどしゃべる事が出来ないんだ。過去に一度だけベスというプレイヤーがいたずらに彼からキーボードを取り上げると、彼は何も喋らなくなるどころか家から出てこなくなったこともあるんだよ。笑えるよね?


 そんな彼もキーボード越しには饒舌じょうぜつで時にはジョークも言い放つほどのキャラクターであるけど、それはあくまで身内のメンバーにしか向けられない一面なんだ。

 彼がまだ《蒼侍あおざむらい》と呼ばれていた頃、他の国からの彼への評価は「冷酷にして理知的、そして戦闘面ではあまりにも残酷すぎる」と言われるほどに危険視されていたんだ。


 どうしてかって? その理由は、普段彼がフランクにキーボードで発言している内容のあて先が、身内にだけにしかあてられていないからだよ。

 つまり傍目から見ると彼は無言で敵を切り刻み、口から出るのは冷酷な発言しかないという大変危険な人物としてしか見えないのさ。


 その実例として、ミーが今から一つだけ話をしてみよっか?

 あれはキャストラインとの戦時中、まだラストっていうTMと出会っていない時のことだったかな――



     ◆ ◆ ◆



 ※(ここから三人称視点だよ!)


「バースラー制圧まであと一歩だ! 領主ボス討伐まで気を抜くんじゃねえぞ!」


 バースラー集落地侵攻戦――ベヨシュタットでも端の方に位置する小さな集落を攻め落とすまでに与えられた期間はわずか二日。この集落地には平穏と静寂を司る神、《シズメ》を祀っているガント寺院が建てられており、寺院はこの地における平穏を常日頃願う者達が集う場所でもあった。

 だが平穏は、奴等によって汚されることとなった。


「“ガント寺院を制圧すれば我々の勝利はほぼ確定だ! キャストラインに栄光を!”」

「“栄光を!”」


 無線によって激が飛ばされ、この地を攻める部隊の士気が上げられる。車輪を付けられた大砲が前へと進み、集落に轟音と砲弾を降り注がせる。

 とある寺院の僧は、外に出てこの場に存在しない神に向かって救いを求めた。しかしそれも一発の砲弾によって、あえなく潰されてしまう。


「“集落はほぼ落ちた! 寺院はできる限り形を残しておけ! その方が後々の支配の時に楽になる”」


 壊滅状態となった集落を作り上げたのは、たった七名の兵士。

 いずれもレベルが60代と、現時点の環境では上位数パーセントに位置するほどの凄腕のプレイヤーばかりである。

 だが今回は小さな集落を陥落するだけとあって、装備は整えてあるもののTMは呼び出していなかったりと、この戦いにたかをくくっている様子であった。


「我らベリル隊所属第三地上部隊! 全員いまだ存命! このまま一気に寺院を制圧すべきかと!」


 部隊の一人、小太りだが真面目そうな男がライフルを構えながら隊長に進言をする。それに対し隊長格と思われる男は無言でうなずき、隊員全体に命令を下す。


「よし! 今日限りでバースラーを制圧し、見事戦地から帰還するぞ!」

「隊長! その時は一杯奢って下さいよ!」

「……全く、まだ戦闘中だ! 飲むのは帰ってからにしろ!」

「よっしゃ! やる気が出て来たぜ!」


 もはや敵なしといった様子で、七名の地上部隊はゆうゆうと寺院の扉を開き、銃を構えた。

 ――広間の奥。巨大な女性の像が、慈しみを持った表情でたたずんでいる。その姿は、見る者の戦意を自然と失わせ、武装を解除させようとするほどである。

 そして広間の中央では一人の男が、フードをかぶったまま座禅をしているところであった。

 フードをかぶっているせいか顔の素性は分からないままだったが、蒼く縁どられたフード付のコートと、自らの目の前に置かれている一振りの刀から、ベヨシュタット所属の侍とだけは理解することができた。


「……貴様! 何者だ!」


 侵入者が現れたにも関わらず、一切の敵意すら持たず落ち着き払った様子。隊長は敵のそれを余裕ととるべきなのか、はたまた諦めととるべきなのか、いまだ推し量れずにいる。


「……串もち、撃て」


 隊長から命令を受けた小太りの男は、突然の発砲命令に戸惑いを隠せずにいる。


「ですが隊長、無抵抗な者を撃つのは――」

「構わん、撃て」


 どうせ証拠など残りはしない――そう思っての命令だった。

 だが――


「――あれ? 隊長、俺の手が――」


 次の瞬間、フードをかぶった男は片膝をついて抜刀をしている。そして小太りの男の両腕は途中から切り落とされ、勢いよく血が流れ出ている。


「う、うわあぁ――」


 悲鳴を上げようにも、今度は首を落とされて無情にも地に伏せられる。フードをかぶった男はその様子を見ながら、ゆっくりとその場に立ちあがった。


「な、何者だ貴様は!?」


 残った六名から一斉に銃を突きつけられるが、一切臆さず。唯々刀を腰に挿げたままその場に立っている。


「貴様! どうやって串もちを殺した!?」

「…………」

「言え! さもなくばこの場で撃ち殺して――」

『貴様等はこの平穏たる地を、許されざる戦火で汚した……』


 フードをかぶった男は刀をぬらりと引き抜き、その切っ先を侵入者へと向ける。


『この地を汚した罪……その血でもって、そそぐとしよう』


 その瞬間に壮大なエピックBGMが流れ始め、目の前の男に殺意が満ち始める。その時部隊は、初めてある事に気がつく。

 この者こそがこの場で一番強く、そしてこの者こそがここの領主ボスなのだと。

 だがそれに気づくには、少しばかり時間がかかり過ぎていた――



     ◆ ◆ ◆



『――弱い』


 数十秒後に立っていたのは、フードを被った侍ただ一人だけであった。


『貴様等は弱すぎる』


 地に伏している中で唯一息があったのは、あの部隊の中でも隊長と呼ばれていた男唯一人だけであった。

 目の前に散らばっているのは、先ほどまで虫けらのように切り刻まれていた仲間の死体。そして自分の下半身。


『弱き身でありながらこの地を汚した罪……その血でもって償うがいい――』


 そして隊長格の男が最後に見たのは、自分の額につきたてられた切っ先と、フードの奥の冷たい瞳だけであった――



     ◆ ◆ ◆



 ※(ここからまたミーのお話だよ!)


 どうだったかな!? 結構発言が冷酷だったけど、ジョージと敵対した相手はこんなことがしょっちゅうだったみたいで、そこから冷酷な蒼い侍、いわゆる《蒼侍》と呼ばれるようになったみたいだよ!

 《刀王》となった今でもかなり諸外国から警戒されていて、彼が使いとして来たときも扱いには細心の注意を張られるみたい!

 だけど彼の普段を知っている人にとって彼はユニークな人間で、とても優しい人だっていう評価がほとんどみたい。例えば過去にキリエってプレイヤーが山賊から取り囲まれているところを助けたり、シロっていうプレイヤーと結託してとある街の復興と防衛に心血を注いだりと、行く場所によっては剣王よりも英雄視されているみたい。

 おっと、ミーとしたことが一人のプレイヤーに対し贔屓ひいき気味だったね! まっこれからもずっと彼がそういうプレイヤーでいられるかどうかは分からないから、これからも彼の行動には注目していけたら面白いかもね! 

 じゃあミーはこのへんで失礼するよ! 今度はゲーム内で会えるといいね! あっヘルプでいつでも会えるんだっけ! じゃあ、またねー!



ちなみにボス戦のBGMはボスとなったプレイヤーが自由に決められるみたいです。

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