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釣り

「…………」


 幸いにもここの布団は自分にはよくあっていた様で、ふわふわとしたシングルベッドの上でぐっすりと眠る事は出来た。

 ……よく寝たのはいいが、俺は少なくとも一人でシングルベッドに一人で寝ていたはずだ。


「…………」


 なのに……なのに――


『――俺の布団から出て行け!!』

「うひゃっ!?」

「ど、どうしたのですか主様!?」


 どうしたもクソもあるか! 何でお前等さも当たり前であるかのように俺の布団に潜り込んでいるんだ!?


『ラスト! お前は全裸で布団に潜り込んで何をする気だったんだ!?』


 俺のツッコミに対し、素肌のままのラストはきょとんとした表情で非常識な答えを返してきた。


「それは、主様が寒がらないよう身体で温めて――」

『要らないから! 健全な青少年への配慮を考えなさい!』


 本当に目のやり場に困るから! そして後は――


『キリエは何で俺の布団にいる!?』


 普段ドレスで着飾っている少女がパジャマ姿で、寝ぼけた目を擦りながらこちらを向いている。しかし俺からの指摘を受けて改めて辺りを見回すと、キリエは顔を真っ赤にしてまくしたてる様に言い訳を言い始めた。


「えっ!? えーと、それは……よ、夜に花を摘みに行った帰りに、寝ぼけていたから間違えて布団に入ったのよ! 大体紛らわしいあんたが悪いんだからね!」


 えっ!? 俺のせい!?


『むちゃくちゃすぎるだろ……』


 とにかく出て行ってほしい。ある意味一発で目が覚めたが、これでは寝覚めがいいのか悪いのかわからない。


『とにかく俺の布団から出ろ。それとラストは服を着ろ。話はそれからだ』



     ◆ ◆ ◆



『……今日はひとまずネタ探しだ。街に下って何か噂や不満が無いか、探りを入れるぞ』

「仰せのままに」

「……分かったわよ」


 キリエは何か不満でもあるのか、俺の言葉に対し一拍遅れて返事を返す。


『……ついでに買い物を見てまわればいいだろうが』

「違うわよ」

『……朝の件については事故だ。俺にもお前にも非があった』

「うるっさい! バカ!」


 顔を真っ赤にしているが、恥ずかしいのは俺の方もだぞ? 女の子と一緒のベッドで寝た経験なんて俺の人生で一度も無かったぞ?(痴女ラストはノーカンで考えるべきだと俺は思う)

 皆が皆寝巻きから着替え、いつもの服装そうびを身に着け終える。


『……そろそろ行くか』


 俺はため息をつきながらフードを被り、ミリアにこの度話し合いの場を用意して貰えたことに対する礼を告げる。


『この度は時間を取らせて悪かった。それにしてもこの街は魅力的だ。今度は外交抜きで訪れてみたいものだ』

「フフ、その時ついでに厄介ごとを持ち込むのは止めて頂戴ね?」

『そうだな……』


 苦笑しながらその場を立ち去ると、神殿の門は再び閉ざされる。


『……まずは、キリエのスられた金額の行方でも追ってみるとするか』

「どうやって?」

『……簡単な話だ』


 俺は手持ちの金百万ゲルトが入った麻袋を呼び出すと、キリエに差し出しこう言った。


『これに追跡魔法をかけておけ。後は俺がエサになる』

「……なるほど」



     ◆ ◆ ◆




 市場には相変わらず活気が宿っている。そして今回は少し気軽に見て回る事ができるだろう。そしてできる限り金がある様に見せかけねばならない。何故なら敵は金が目的なのだから。


「これいいかも! でもこれも捨てがたい……」

『そうかそうか。迷うなら両方買うと良い』

「本当!?」


 本当の事だけどエサとなるお金の分は残しておいてくださいねキリエさん。


「主様、私も……」

『お前も好きなものを買うと良い』

「! ありがとうございます!」


 パァッ、という効果音が聞こえる様な笑顔を見せると、ラストもそのまま露店の方へと小走りに向かって行く。


『……全く、金が余っているのも困りものだなぁ』


 うーむ、我ながらヘタクソな演技。だが品物を眺めていたはずのラストがちらりとこちらの方を向き、アイコンタクトを取る。

 どうやらエサに食いつきそうだ。


「…………」


 俺は密かにステータスボードを開いておいた。所持金はいまだに百万G。だが次の瞬間、百万がいきなりゼロへと変化する。


「……よし」


 俺は相手がエサに食いついたことに、小さく喜びの声を漏らした。

 金が目当てのコソ泥、といったはずだったが、相手は俺が思っていた以上に愚かだったようだ。


「――ゴミが」


 俺は人目をはばからず即座に抜刀し、対象の右腕を切り飛ばした。


「っ!? きゃああああ!」


 市場に悲鳴が響き渡り、コソ泥は右肩を抑えながら人を押しのけて人ごみの中へ消えていく。


「…………」

「主様!? 何故抜刀を!?」

『あいつ、俺の刀も盗もうとしてやがった。流石に武器を取られるとなってはその腕を切り飛ばすしかないだろう』


 キリエの時は隠しナイフだったので気づかなかったのであろうが、俺は堂々と刀を腰元に挿げている。昨日の今日で欲が出たのだろう。


『それよりこれを見ろ』


 俺は落ちていた右腕を布越しに拾い上げる。布をどかすと、そこには緑色の醜い腕が姿を現す。


『ゴブリンか? それとも――』

「主様、お怪我は!?」

『大丈夫だ。それより連中、金を途中で落としたりしてないだろうな?』


 キリエが追跡魔法を発動させると、対象はまだ動き回っているらしい。


「……あら? 対象はまたこっちに来ているわよ?」

『どういうことだ?』


 俺は静かに腰元の刀に右手を添えたが、いまだにパニックしている市民しか目に映らず、敵が来るような様子は見受けられない。


「敵がもうすぐ来る、後五メートル、四、三、二、一――」


 ――しかし敵は俺の視界に現れることは無かった。


『……どういうことだ?』

「……分かったわ」


 キリエの探知魔法は二次元的な位置関係しか測れない。だとするとそこから導き出される答えは唯一つ。

 キリエは近くにあるマンホールを見つけると、それを足でトントンと踏みつける。


「地下にいるわ」


次は一旦追加解説編なりおまけを挟もうか考え中です。その場合世界観解説としてまたあの暗黒騎士が出るかもしれませんが。

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