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過剰攻撃

 おっと、昔のくせで無線越しに《蒼侍》と名乗ってしまった。まあいっか。


『それにしても――』


 対人用として黒刀・《無間ムゲン》を持ってこられなかったのは痛手だと思っていたが、普通に《蝦蟇野太刀ガマノダチ》でも戦えているな。


『レベル70代……上位組の奴等を相手に結構いけるなこの刀』


 この世界はこのように戦いによる抹消デリートがあるせいか、全体の平均レベルは上昇傾向にあるという訳ではない。

 噂によると80レベル以上の輩は全世界の1パーセントにも満たないとか。更に100レベル以上となると0.01パーセントを切るらしい。となるとうちのシロさんは相当な事になっているな……。


『まああの人はまずパラメータを割り振りしてからスキルを上げているしなー』


 レベルMAXでもスキルだけは成長するらしく、うちのカンストギルド長はその後も剣術スキルを上げ続けているとか……おー怖い怖い、いずれ剣王の座でも取って代わる気なのだろうか。


『……俺には関係ないか』


 俺は俺なりのスキル構築ビルドでここまでやってきているし、それに速く世界統一ゲームクリアできるに越したことはない。


『さて、各隊撃破で行くとするか』


 無線を聞く限り、東西南北で包囲網を敷いているのか。


『……温い』


 東側からベヒモス二体で突き崩し、応対している隙に残りの三方向から一気に押しつぶすつもりだったのだろうが――


『児戯に等しい』


 まだあの勇士パラディンの方がマシな作戦を考え付いていただろう。戦力を一点に集中させるのはいいが、分隊長が不在だなど愚行にしか思えない。


『ここにいる面子は確かに強い。だがリーダーは何をしているというのだ?』


 部隊も突然の奇襲を前に散り散りとなり、各個撃破するのもたやすいものであった。しかしこうして考えると、レベル70の割には動きが悪い気がする。


『……最初の一人目で分隊長を倒してしまったというオチではないだろうな』


 まあ、どっちでもいいけど。しかしこうなると残りの部隊はどうやって攻めてくるのか――


「“主様! 聞こえますか!? 主様!?”」


 突然聞きなれた声が頭に響き渡る――珍しい。ラストが【意思憑依テレパス】を使ってくるとは。


『“どうした?”』

「“西方より酸にまみれた醜い化物けものが、砦に向かってきております!”」

『“……援護に向かう”』


 こっちはもしかしたら囮かもという訳か? ベスなら「まだまだ堪能できそうで嬉しいわぁ」とか言いそうだ。

 ともかくひとまず、ゲリラごっこはここまでだ――



     ◆ ◆ ◆



 ――案の定だった。ベヒモスを潰したおかげか、敵はアシッドゴーレムを先頭に領地内へと侵入を開始している。


「撃て! 殺せ! 生きとし生けるもの全てに風穴を開けるのだ!!」


 手つかずの南方からは砲弾が飛び、建物や壁を打ち崩している。


『随分と派手にやっているな…………ッ!』


 自分の方に飛んできた砲弾を真っ二つにしながら、俺は状況把握の為に砦の方へと向かって行く。


『ラスト! 【魅了チャーム】はどうしたんだ!?』

「今行っているところです!」


 ラストは言う通りに次々と【魅了チャーム】をかけていっているようだが、魅了された者は味方が躊躇なく撃ち殺している。


『……随分と訓練された軍隊だな』


 他の軍隊がこうだとすると、余計に東側の不備に首を傾げてしまう。だがひとまずこの戦いで一番目立っている存在を片付けなければ。


『……南側は任せた』

「では、主様……?」

『…………取引は後でだ』

「ッ! では後程!」


 もうどうなっても知らん。

 ひとまずラストに南側の制圧を任せ、俺は正面から制圧をかけている酸ゴーレムの足止めに向かう事にした。


『デカブツが、俺が相手だ』


 酸の膜に身を包んでいる10メートル越えの化け物を前に、俺は仁王立ちで相対する。


「グ…ギ……ギザマ……ダレダ……!?」


 ほう、喋れるのか? ゴーレムとはいえ多少の知識程度は与えられているということか?


『……貴様に名乗る名など無い、と言いたいところだが知りたいのなら教えてやる』


 俺は蝦蟇野太刀ガマノダチを抜刀し、燃えさかる炎を眼前に掲げて名乗りを上げる。


『……貴様を殺す者の名……《刀王とうおう》ジョージ、覚えておけ』

「ジョー……ジ? コロ、ス……ッグァアア!!」

「ッ!」


 酸の拳が地面に突き刺さり、そしてそこには酸で溶けたクレーターが生まれる。


「グラエェ!!」


 相手のTMのレベルは112。仮にレベル80の輩が一人で相手するとしたら、かなり厳しい戦いを強いられるだろう。


『……まあ俺にとってはどうでもいいが。抜刀法・弐式――絶空ぜっくう!』


 蝦蟇野太刀ガマノダチによる炎を纏った斬撃が空を飛び、ゴーレムの右腕が見事切り飛ばされる。


「グオオォアアア!?」

『……鉄をも溶かす酸ならば、直接触らなければいいだけだ』


 俺は静かに納刀をし、怒り狂ったゴーレムが攻撃範囲内に収まるのをじっと待つ。

 この技の攻撃半径10メートル。残った左腕が俺の頭上に振り下ろされる瞬間――


『抜刀法・参式――』


 ――裂牙烈風ざがれっぷう!!

 

「ッ!?」


 勝負は一瞬だった。

 今度は腕だけではなく、体全体を幾つもの斬撃が通過していく。酸の塊は細分化され、その場に瓦解し――


『――ッ!? マジかよ!』


 瓦解する肉塊の裏側から、幾つもの銃弾が飛んでくる。俺はその全てを捌き終えると、ゴーレムの後ろに隠れている、この戦いにおける最後の部隊を目の当たりにする。


『……お前が大将か』

「クククッ、流石に不意打ちのガトリング砲では《刀王》を倒せないか」


 銃王配下のしるしである深緑の袖が俺の目に映る。どうやら軍団長のお出ましらしい。


「俺の名はゲイズ。ゲイズ大尉だ」


 その男が醸し出す雰囲気は、どこかとある人物に似ている。


『……俺は――』

「おっと、二度も自己紹介はいらない」

『……お前が無線で取り仕切っていたのか』

「そうだ。もっとも、作戦は貴様がいたせいで無様に失敗しちまったがなあ!!」


 怒りながら放たれた銃弾を切り伏せながら、俺はゲイズという男の話に耳を傾けた。


「俺はようやくレベル79ここまで上り詰めてきたんだぜ? 大尉の身でありながら、もうすぐ上位1パーセントの仲間入りだったはずなんだよ……それをお前等先行組がぶち壊しにしやがって……」


 いや俺はやるべきことをやっただけで、そもそも敵に対しての逆恨みじゃないかそれ。


「ベスだけなら東のグズどもを生贄エサに三方向から一斉攻撃。後は接近戦ができないアシッドゴーレムでチェックメイトできるはずだった……それがなんだ、《刀王》まで来ているという情報は手元になかった。第一波の連中は俺の経歴キャリアと情報収集の為に捨て駒にしてやったってのに、ただベスに経験値エサをくれてやっただけってか? クハハッ……役立たず共が、囮にも成れやしないとは!」


 ゲイズという男は、自分以外のすべてを駒としか見ていないようだ。自分が昇格レベルアップするためなら、周りの犠牲などどうでもいいといったスタンスをとっている。


「…………」


 シロとベスを足して二で割って、ゲスさで力量を極限まで薄めたようなクソ野郎だな。

 おっと、これではまるであの二人が悪の大王みたいではないか。

 まあ三人で旅していた時を考えると否定はできないが。


『……お前の経歴などどうでもいい。ここでおとなしく投降するか、斬られるか。どちらか選べ』

「……クハハッ」


 ゲイズは突然笑いだし、舌を出してこちらを馬鹿にし始める。


「馬鹿が。無駄なあがきをせず、投降するのは貴様等の方だ」

『……何の音だ?』


 辺りに風が吹き荒ぶ。否、何か巨大な物体が風を起こしている。

 辺りが一瞬にして夜になる。否、地面に巨大な影が落とされる――


「《飛空艇バロン》……我がゲイズ部隊の財を結集して作り上げた最終兵器だ!」


 地対空用の戦闘飛空艇。下部に取り付けられているのは、戦車砲に勝るとも劣らない砲口を持つ大砲。その数なんと十門。


「更に上空からはスナイパーが貴様等の頭蓋に狙いを定めている。無論、いまだ暴れまわっているベスにもだ」

『……はぁ』

「ん? どうした? 震えているのか?」

『いや……』


 一人忘れてやいやしないかって思うと、あの飛空艇も哀れだな。


「――【刺突心崩塵ハートキルスティンガー】!!」


 飛空艇の表面に次々と棘が突き刺さり、それらが爆発し地獄をもたらす。


「貴方様、あれを撃ち落としたら褒めてくれますでしょうか?」

『……ああ、褒めてやるよ』

「フフッ、ベッドの上でも?」

『それはヤダ』

「えぇー……もうっ」


 八つ当たりと言わんばかりに、ラストは更に魔法の重ねがけを始める。


「――【死刻塵顛陣タイム・オブ・デス】」


 時は一瞬にして過ぎて行き、棘が刺さっているとはいえまだ初々しかった飛空艇は老朽化し灰となって崩れてゆく。


「ば、馬鹿な――」

「主様のいじわる!」

『怖い魔法を発動した後に言うな、頬を膨らませていても脅しに聞こえる』


 俺と戦う時は全くそんな魔法を見せるそぶりも無かったのに、一体いくつ魔法を隠しているんだこいつは。


「ば、馬鹿な!? あれを創り上げるのに三億ゲルトかかったというのだぞ!?」


 急に小物臭くなったなこいつ。まあ仮にラストがいなかったとして、あの飛空艇で俺やベスを殺せると思っていたのも問題だが。


『……さて、どうする? 大人しくするか、この場で――』

「くッ!」


 ゲイズは不意に懐に手を突っ込んだようだが、もう無駄だ。


『――そこは反撃範囲内だ』

「が、ハァ……ッ!」


 抜刀での切り上げを喰らい、ゲイズは自ら作り上げた血の海に沈んだ。


『……無駄なあがきをした馬鹿はお前の方だったな』

「あらぁ、もう終わっちゃった感じかしらぁ?」


 相変わらず返り血を浴びたままだなお前は。

 残党狩りでもしてきたのか、ベスはうきうきした表情で駐屯地へと戻ってきた。


『隊長は始末し終えた。今ここにいる生き残りは全て捕虜として取り扱う』

「えぇー? この場で見せしめに殺しましょうよー?」

『……無駄に殺すな。そういうのは嫌いだ』

「……いけずぅー」




 ――今回の戦果。


 ジョージ、ベス共に無事生還。ブライトチェスターの防衛任務を終え、ベヨシュタットへの帰還を開始。二人の報告と捕虜からの情報収集を行う予定。飛空艇に関してはマシンバラからの提供と思われ、我が国は同様にしてマシンバラとも敵対関係する恐れも考えられるであろう。戦線のさらなる激化に注意されたし。


 以上。



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