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お約束

「……随分と薄暗いダンジョンが生成されたようね」


 ここは首都すぐ近くにあるダンジョン、《夢幻の跡地》だ。文字通り毎回毎回潜るたびにダンジョンの構造は変わり、かつ敵や配置されるアイテムのレアリティのレベル帯も1〜60までと随分と広い。


「私のレベルが41だってこと、知っているわよね?」

『それくらい把握できている』


 先ほど難癖をつけてきた少女の名はマコ、職業はいまだに剣士フェンサー。ジョブチェンジもできるようだが、どうやら剣にはこだわりがあるようだ。

 そしてこだわりのある彼女だからこそ、俺はここを選んだのだ。ここなら最大の60レベルを引いたところで、俺がフォローすれば死にはしない(多分)。問題はレアアイテム配置の運だけだ。運が悪いとここを延々と回らなければならなくなる。

 目的はここのレアリティレベル最大値の60の武器なのだが……


「それにしてもこの剣、凄く軽い……ねぇねぇ、この剣貰っても――」

「下郎が。それはジョージ様がわざわざお貸しになられた剣。くれてやる訳が無かろう」

『ピッタリな剣が欲しいっていったのはお前だろう? そんな適当な選び方でいいのか?』

「っ、そうだけど……」


 マコに貸してやっているのは、以前にシロがいらないからと渡してきた軽量化バスターブレード。レアリティレベルは52。シロを褒める訳ではないが、素人でも上手く扱えている様に作られている。

 ちなみに今回の俺の装備は、いつものタイラントコートに引き続き蝦蟇野太刀ガマノダチを装備。念の為回復アイテムは買い揃えておいた。

 ラストは先ほどの服装のままで、ダンジョンだというのにTMとしてついて来ている。どうやら俺と少女だけで行かせたくはないらしい。


「主様、ここに住むモンスターが出てこない様子ですが……」

『……恐らくお前のせいだろう』

「私がですか?」

『たかだかレベル60のところに150が来てみろ。皆ビビって引っ込むに決まっている』

「えぇっ!? そのTM、レベル150なの!?」

「……幻魔わたしを舐めないで下さる?」


 ラストは威嚇するかのように右手に魔力を溜め始めたが、それを俺がいつも通りに制する。


『やめろ。こんなところで暴れるな』

「……分かりました」


 下手に動いてダンジョン崩壊なんてあってもらっては困る。


「…………」


 それにしても退屈だ。モンスターが出ないとなるとこれほどまでに退屈なのか。


『それにしても何もな――ッ!?』


 俺はとっさに後ずさりをし、ラストも俺に同調し後ろに下がる。後をついて来ていたマコは状況をよく分かっていなかったらしく、その場に硬直した。


『スライムトラップか……』


 俺の目の前に粘り気のある水滴が滴る。そして天井を見上げると、ねばねばとしたスライムが引っ付いている。この下を通ろうとした者に対し、上から飛び付いて襲い掛かかってくるのだろう。このスライムは面倒なことに一度取りつかれると一人ではなかなか抜け出せず、その間にLPをごっそりと持って行かれるという、ソロプレイヤー殺しのトラップだ。

 もっとも、普通に出くわしたとしても物理攻撃は通用しづらいという剣士には面倒なモンスターだが。


『これがあるということは……』


 スライムトラップは高レベル帯のダンジョンにしか出てこない。となると、レベル60相当のダンジョンが生成されたと考えていいだろう。


『運が良かったな、マコ』

「何よ」

『お望みの武器が手に入りそうだ』

「本当!?」


 ああ。但し、無事にここを踏破できればな。



     ◆ ◆ ◆



「――ちょっと! 助けなさいよ!」

「…………」


 あのさ、スライムトラップの回避方法ぐらい教えておいたはずだよね? 


『……何でビビって松明を手放したの?』

「だって誰だってびっくりするじゃない! あんなのが落ちてきたら――って助けてよぉ!」


 LPは削れていないものの、鎧が溶け始めてあられもない姿に――


「……主様、もしかして服が溶けるのを楽しみに待っておられるという訳ではございませんよね?」


 ギクッ。


『えっ? ま、まっさかー!』


 俺は油を継ぎ足しておいた蝦蟇野太刀ガマノダチを即座に抜刀し、マコに絡み付いているスライムを焼き斬った。

 しかし女性陣の疑いは晴れていないようで、ラストはため息をついてこちらをじっと見、マコは今や半裸となった体を両手で隠して恨みのこもった目を向けている。


「……じとー」

『……先を急ぐぞ』


 仕方ないじゃない。男の子だもの。



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