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覚悟の差

「グルルルルァ…………」


 さて、どうしたものか。

 レベル70代が六体。しかも囲まれた状態から戦闘スタートという、普通なら絶望的な状況。


『……本当に、どうしたものか』

「グルルル……貴様等さえいなければ、大人しくあの村が滅ぶだけで済んだものを……」

『嘘だな。他の村に移って、そこでまた虐殺を繰り返すだけ』

「癇に障る野郎だ……やっちまいな!!」


 獣人相手の戦闘は俺にとってはいたって簡単。ようは武器を持った人間を相手にするようなものだ。


「死ねェ!!」


 俺はまず武器を持たない者――先日両腕を切り飛ばした化け物のいる方角から、包囲の脱出をはかった。


「抜刀法・壱式――牙導裂罅がどうれっか!!」


 納刀状態での突進。そしてすれ違いざまに抜刀、刺突――


「ゴ、ア……」


 喉を貫き、そのまま引き千切り斬る。首を刎ね飛ばして振り向くと、俺は改めて残りの怪物と相対した。


『来るがいい』

「ぐ、怯むなぁ! 行けぇ!! 喰い殺せぇ!!」


 四対同時に飛び掛かり。だが無意味。刀だからといって一対一しかできないと思う時点でお前達の負けだ。


『抜刀法・参式――』


 ――啼時雨なきしぐれ


「ッ!?」


 一閃。悲鳴をあげるまでもなくきゅうしょを刎ねれば、切り口からは勢いよく血の雨が飛び散る。

 真っ白な雪が、赤い血で染められてゆく。


『……どうした? この程度か?』


 残り一体。他愛もない。


「グッ……バ、バカな――」


 こうなれば首を刎ねて一撃で絶命させるのもたやすいが、それだけであの村娘の悲しみが拭えるなどない。


「こうなったら逃げるしか――」


 抜刀法・壱式――


『――奈落ならく


 逃がしはしない。両足を切り飛ばし、徐々に苦痛を与えるのみ。


「たっ、頼む! 殺さないでくれ!!」

『お前は村人たちが同じことを言った時に、聞き入れたのか?』

「お願いだ! お、俺達だってやりたくてこんなことをやった訳じゃ――」

『黙れ』


 うつ伏せになった化け物の背中に、刀を突き刺す。


『貴様はまだまだ苦しめ』


 先に死んだ奴がマシだと思えるほどの、苦痛をくれてやる。


「ッ!? うぎゃああああぁあああぁぁあああぁ!?」


 突き刺した刀を動かし、傷口を徐々に広げていく。骨も断ち切り、徐々に徐々に頭の方へと傷口を広げていく。


「だずげで、おでがいだ!」


 その言葉を無視して、俺は刀に油を垂らし始める。


『……安心しろ。村にいたお前たちの仲間にもすぐに会わせてやる』


 《蝦蟇野太刀ガマノダチ》は油を用いることで、その摩擦で炎を纏う――


「ぷぎゅあっ!?」


 刀身に油がしみ込んだところで、脳髄までいっきに引き裂く。すると上半身が真っ二つに焼け焦げた死体と、燃えさかる野太刀が出来上がった。



     ◆ ◆ ◆



 ※(ここから少しだけ三人称視点となります)



「クイックスタブ!」


 ジョージの宣言通り、イスカは既に二体のべリアルロウを地に沈めていた、


「相手になりませんね!」


 口ではそう言っているが、村人たちから気を逸らさせながらの戦いは中々骨が折れるものがある。


「グルルァ……調子に乗りやがって……ッ!」


 イスカは自分の背中に孫娘を隠しながら、残りの二匹を相手に何とか立ち回っている。


「くっ、ジョージさんはまだでしょうか……!」

「グギャハハハッ! あの男なら、とっくにあいつ等の胃袋ん中だろうよ!」

「そんなことはありません!」

「お前も俺達相手によく頑張っているが、所詮は人間ってところかー?」

「このっ……」


 一匹の怪物の挑発を受けて、イスカは怒りを露わにする。しかしそれは、化け物なりの巧妙な罠であった。


「ほーら生肉ゲットー!」

「――リンさん!?」


 イスカが振り返って叫んだ名は、今やもう一匹のべリアルロウに捕まっている村長の孫娘の名前だ。


「このっ! 離しなさい!」

「所詮ガキか。あー痛いいたい、ぼくちゃん死んじゃうわー」


 リンは拘束を振りほどこうとしたが、少女の腕では化け物の拘束から逃れることなどできはしない。


「クククッ、ガキを殺されたくなかったら大人しく剣をおきな」

「卑怯なっ……」


 だがこの状況で生死与奪権を持っているのはべリアルロウ側。


「勝負に卑怯も糞もあるか!」


 そう言って化け物はイスカの細い首を掴み上げ、笑いながら持ち上げる。


「グハハハ、若い女の肉だぁ、さぞかし美味ぇだろうなぁ」

「ずるいぞ! 俺にも食わせろ!!」

「バーカ、お前はその女食えばいいだろうが」

「ッ!? リンさんには手を出さない約束じゃ――」

「知るかよそんなもん。言ったはずだぜ? 勝負に卑怯も糞もあるかって――」

『その通りだ』


 その瞬間べリアルロウの動きが止まり、燃える刀がイスカの目の前で止まる。


「ジョージさん!」

『大丈夫か?』


 背後から心臓を一突き。ジョージが刀を抜き取ると、べリアルロウは力なくその場に倒れ伏した。


「ば、馬鹿な!? 六対一だぞ!?」

『全く、卑怯な手を取りやがって……』


 ジョージはそのまま一歩一歩と、最後の一匹となったべリアルロウへと歩み寄る。


「ま、待て! こいつがどうなってもいいのか!?」

「…………」


 ジョージはそれまで進めていた足をぴたりと止め、刀をしまう。そして未熟さゆえに悔しがるリンと、視線をゆっくりと合わせた。


『……リン、お前はどうしたいんだ?』


 この場の選択権を、孫娘へと引き渡す。この状況の全てを、一人の少女に判断をゆだねる。

 幾何かの時が経過していく中、ジョージはリンの瞳をじっと見据える。

 そしてリンはある決心をし、静かに口を開いた。


「……私は、どうなってもいい!!」

「ッ!? お前何を――」

「だから、兄ちゃんの敵を……こいつを、殺して!!」

「お、おい待て――」


 ジョージは再び歩き始めた。腰元の鞘から刀をゆっくりと抜き、フードの奥で笑いながら。


『……どうやらリンは覚悟ができてるみたいだぜ……?』

「ま、待て! それ以上は!」

『なのにテメェは、死ぬ覚悟一つしてこなかったのかよ……ッククク……笑えるぜ』


 刀を前につきだし、更に距離を詰める。そして――


『抜刀法・四式ししき――断鋼たちはがね


 リン諸共、べリアルロウを叩き斬った――



     ◆ ◆ ◆



 ※(ここからまた一人称視点です)



『……これで大丈夫だ』


 俺は少女の傷口に薬を塗り終えたのを確認すると、そう村長に告げた。

 致命傷をうけているものの、その後すぐに俺が持っていた回復薬は全てリンに使った。

 抜刀法・四式。これは相手がどんなに体力を残していようが、必ず致命傷を与える技だ。致命傷を与える代わりに、LPは必ず1で止まる。今回はこの仕組みを逆手に利用して、リンだけを助ける様にしたという訳だ。


『それにしても危なかった……』


 とっさに思いつかなかったらどうしようかと思っていた。それにしても、この少女はよくあの場面で言いきったものだ。正直尊敬する。


「ジョージさん、これでよかったのでしょうか……?」

『あの場面ではああするしかなかった。それに結果的にはべリアルロウをすべて殲滅することができた』


 俺としては、洞窟前の奴等をもう少し痛めつけたい気分だった。しかし村に戻ることを考えると、もう少し早く切り上げた方が、リンも傷つかずに済んだのかもしれない。


『……さて、後はこの薬を使って下さい』


 首都でしか買えない高級な薬だが、これだけあれば十分持つだろう。


『後はまた国に報告して、また使いの者をこちらからお送りしたいと思います』

「ありがとうございます……! 何と言ったらよいか……」


 村長は何度も頭を下げたが、俺は気分が沈んだままだった。


『礼を……言うことはありません。娘さんを、傷つけてしまったから……』


 俺はそれ以上何も言えずに、その場を立ち去ろうとした。すると――


「……兄ちゃん……ありがとう……」


 リンのか細い声が、耳に届く。


「仇を……討ってくれて……」

『……お前の方が、立派に戦った』


 横になった少女の頭を撫で終えると、俺は今度こそその場を立ち去っていった――




 ――今回の戦果。


 ジョージ、イスカ、両名共に無事帰還。べリアルロウは全て討伐完了。更に被験体サンプルとして、瀕死のべリアルロウ二体を首都に持ち帰る事に成功。


 ――経過報告。


 村長の孫娘、リンは無事元の身体に復帰。今は《刀王》の背中を追って武器を毎日振るい、訓練を行っているとのこと。更に村には一体の氷塊ゴーレム(レベル80)を見張り番として設置する模様。


 以上。



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