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疑問

『――おい、起きろ!』

「……んぅ…………ぐー……」

『起きろって!!』

「ふぇっ!?」


 口から垂れてるよだれぬぐいなさいよ全く…………あっ!? 俺のコートによだれついてる!?


「…………」

「お、おはようございます……」


 怪訝そうな俺の表情をみて、イスカは恐るおそるといった様子で声をかけてくる。


「その……コートを汚してしまったみたいで――」

『いいよ、洗えばいいだけだ』

「そうですか……」


 それよりも昨日は互いに緊張していたと思っていたが、先にすやすやと寝やがって。


『……先を急ぐぞ。カナイ村まであと半分だ』

「はい、行きましょう」


 吹雪もだいぶ和らいでいる。先を急ごう。



     ◆ ◆ ◆



 山の頂上につくと、今まで隠れていた山の反対側の景色が見える。


『……カナイ村も見えるな』


 常に雪が降っているからか空も薄暗く、村にも照明がともっている。それにしてもここ周辺は他の国との戦線もないせいか、いくぶんか平和に思える。


『……山を下ってあの村に行く。そこで依頼を遂行するぞ』

「分かりました」


 イスカは腰元にレイピアを装備していることを確認し、俺と共に山を下っていく。

 しばらくすると山道の途中で、野生動物に絡まれている人影を俺達は見つけた。


『助けるぞ』

「はい!」


 近づくと野生生物に囲まれている人影は、五匹のオオカミに絡まれている老婆の姿へと変わっていく。


『抜刀法・三式――霧捌きりばち!』


 自分の周囲二メートルを問答無用で切り刻む。これにより攻撃範囲内にいたオオカミ三匹は、見るも無残にズタズタに切り刻まれた。


「参ります――」


 イスカは腰のレイピアを抜き、その右腕を引いて刺突の構えでオオカミに突進する。


「ピアッシング!」


 頭から勢いよくレイピアを刺突し、そのまま絶命させる。


「……そこまで強くないようですね」


 イスカはそう言って残りの一匹も始末し、老婆の身の安全を確保した。俺はベリアルロウが出るといわれていた地域のモンスターのあっけなさに首をかしげた。


『レベル30位か……?』

「そのようですね……」

「二人ともありがとうなあ。ばあはここで死ぬかと思ったでよ」


 俺達が助けた老婆は行商をしているようで、助けてくれたお礼に半額でものを売ってくれるようだ。

 行商には何かと思い入れがある俺は、掘り出し物が無いかと品物を見ることにした。


『……うーん』

「何かいいものはあったでね? 何でも半額で良いでよ」


 以前は黒刀という大当たりを発掘したのだが、今回は目ぼしいものは――


『……婆さん、これも半額か?』

「ええそれは滅多に手に入らない異民族の衣装でな……いいでよ、命に比べたら全然安いもんでよ」

『本当か?』


 亜人――いわゆるエルフやドワーフなど、人型に近い魔物全般を指す。ん? 家にいるアレも大きく分けると亜人になるのか……?

 それにしてもこの服、装備したときのステータス付与が中々に優秀ではないか。これならあの痴女服から衣替えもしてくれるだろう。


『じゃあそれを売ってくれないか?』

「ええでよ。十五万ゴルト、いただくでな」

『丁度だ』


 少々胸元が大きく空いているが、あいつが今着ている服に比べたらまだ健全な方だろう……俺の感覚がマヒしているとか、そういうのは抜きにして。


「そ、それは誰に……?」

『ん? 家に住み着いている居候だ。あいつの戦闘時に着る服の露出度が、あまりにも高すぎるからな』

「そ、そうなんですか……」


 え? 他に誰にあげるの? 少なくとも君にあげたら胸元がぶかぶかでそれはそれでまずいでしょ?


『さて、他には……お前は何か買っておかなくていいのか?』

「私ですか? 私は……とりあえず後で防寒具として作る材料としてこの毛皮を買おうかと」

「あいよ、それは千八百ゲルトさね」


 イスカは言われた通りにお金を出そうとしたが――


「……あれ?」


 ポケットやら何やらを探ってみても財布が見つからないらしい。どうやらワイバーンに括り付けたまま帰してしまったようだ。何と言うドジっ子。

 イスカは「今回は良いです……」と言って渋々返品しようとしたが――


『俺が買いとる』

「え?」

「そうかい? ありがとうね」


 俺は毛皮を買い取ると、イスカに渡した。


『もってけ』

「いいんですか……?」

『また帰りに寒がられても困る』


 イスカは嬉しそうに毛皮を受けとり、珍しく素直に「ありがとうございます」とお礼を言った。


『ちなみに婆さん、行き先は?』

「カナイ村さね。ばあはそこで休憩して、また旅に出るさね」

『丁度良かった。俺達もそこに用があるから護衛についていこう』

「ありがたいねー。ばあは嬉しいよ」


 その後道中野生のオオカミやクマなどの野生生物が出てきたがいずれもレベルが低く、俺は自分の受けた依頼に首をかしげた。


『……本当にべリアルロウがいるのだろうか』



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