game is never over
【転送】した先には、半壊した首都の姿があった。
『ちっ! 《要塞女帝》でもジリ貧で持たせるのが精一杯か……!』
鉄壁を誇るはずの【大地防衛壁・超弩級)】が、一部瓦解を始めている。オレが来るまでにどれほど苛烈な攻撃を受けたというのか。
そしてその苛烈な攻撃を加えた張本人は、俺達のすぐ後ろに立っている。
「“馬鹿な!? 君はまだシュタイス山にいるはず!?”」
『敵のことを知る前に魔法を少しでも齧っておくべきだったな、械王』
機械に全てを頼ってきたツケとでも言うべきか。人間が歩んできた別の道を理解するのが少々遅かったみたいだな。
「“ふ・ざ・け・る・なッ!!”」
敵も今度は対策を立てて来たのか、飛行する小型機を飛ばして俺を近寄らせないようにしている。
だが、刀の攻撃範囲が見た目通りとは限らないことも教育してやろう。
『そしてもう一度、同じことを繰り返させてやろう』
《血の盟約》の渇望の先に、《大殺界》が存在する――
「――二度目はより手際よくやらせてもらう」
蒼眼にうつるは巨大な機械生命体。だがそれも今の俺にとっては、動きの鈍い案山子にしか見えない。
「――死ぬが良イ」
最速、ゼロ秒。
縦一閃。更に横に一閃。
これだけで終わる訳がない。俺が、《籠釣瓶》が。満足できるはずがない。
「クククク、ハハハハハ、ヒャハハハハハハハッ!!」
楽しい、楽しい! これほどに切り刻むことに快楽を感じたことはない、巨大な敵を賽の目に切り刻む快楽を!!
「あ、主様、もしやまた――」
「クククク……違う、大丈夫だ。ただ“快楽しい”だけだ」
さりげなくラストへと向けられる小型機を叩き斬りつつ、俺はラストを自らの背後へと追いやる。
「俺の後ろにいろ。そうすれば、斬られずに済む」
「主様、もし何かあれば――」
「その時は、お前が止めてくれる…………まあ、もう《籠釣瓶》とは分かち合えたから大丈夫だ」
それにしても、積極的に快楽を与えてくるこの戦闘狂な妖刀には注意しなければならないだろうが。
「まだまだァ!!」
一辺が1メートルでもまだ足りない。一ミリ、いや、マイクロサイズまで切り刻んでやる。
「クハハッハハハハッ!!」
「“ば、か、ナ――”」
おっと、械王まで切り刻んでしまったか。まあ、いい。
「これで終わりだ」
刀を鞘へと納めると同時に、もはや液体と化したイェーガーが崩壊を始めた。
それと同時に、俺は手元にキーボードを呼び出す。
『――フゥ、これで全て終わったな』
械王を倒した事で、マシンバラは自動的に降伏することになるだろう。そして導王率いるブラックアートは、我がベヨシュタットと同盟を組んだ。後は拳王がよこした許嫁と契りを交わせば、全て統一される。
『……長かったな……』
「あの、主様……」
ようやくゲームクリアの兆しが見えたところで、ラストが俺に声をかける。
「とうとう、成し遂げたのですね……」
『……ああ。お前がいなかったら、成し遂げられなかっただろう』
「そんな、ご謙遜を。私は主様さえ……主様、さえ……」
ラストはそれ以上何かを言う前に、その場に泣き崩れてしまう。
『っ、どうしたラスト!?』
俺はラストの両肩を掴んで心配したが、ラストは戦闘で特にダメージを負ったという風でもないようだった。
ただ真っ赤にした目に涙をためた状態で、こちらの方をじっと見つめている。
『一体、どうしたというんだ……?』
「……もう、主様と一緒の道を歩むことができなくなると思うと……ラストは、胸が潰れそうで……」
そこで俺はハッとした。確かにこれはゲームで、そしてラストはゲーム側の住人。こちら側に来ることなどできはしない。
「…………」
俺はラストに、それ以上声をかけることはできなかった。ただ黙ったまま、ラストを抱きしめることしかできなかった。
「ひっぐ、ぐすっ……主、様……見捨てないで、ください……ラストを、置いて行かないでください……」
「…………」
――後は拳王の許嫁を貰い受ければ、今すぐにでもゲームクリアができる。だがそれで、いいのだろうか。
何を考えているのだ俺は。ラストはあくまでNPC。現実の存在ではない。
「……俺は、どうすればいい……」
誰かにすがるかのように、俺は呼び出しボタンを押す。
「――ハァイ、ジョージ。お困りのようだね」
俺が呼び出したのはこの世界を管理している存在、システマだった。
『……分かっているなら教えてくれ。俺はどうすればいい?』
「どうするって、これはゲームの攻略法に関わることだから、ミーは何も――」
『これはゲームじゃない』
少し考え直せば、俺の頭は狂っていると分かっている。だがこう言わざるを得ない。
『俺と、ラストの問題だ』
「ッ!」
俺がシステマを見つめると共に、ラストもまたシステマを見る。システマはというと、俺では無くラストの方をじっと見つめている。
それはNPCに対する上位管理者としての警告なのであろうか。それともまた別の意図があるのか。
しばらく厳しい視線をラストに浴びせた後、システマはいつものようににっこりとした表情で今度は俺の方を向く。
「……ま、そろそろユー達にも通達しなければならないと思っていたから、ちょうどいっか!」
『……何をだ』
「何ってそりゃー、ネトゲには欠かせないアップデートの話だよ!!」
……えっ?
『このまま俺が拳王の差し向けた許嫁と結婚すればゲームクリアじゃないのか?』
「ノンノン。確かにこの大陸は統一したけれど、世界はまだ広いんだよ?」
システマはそう言って、新たな世界地図のホログラムを俺達の目の前に表示させる。
そこには俺達が広いと思っていた大陸が小さいと思えるほどに、他の大陸が海を隔てて存在している。
「このゲームようやくバグ報告が少なくなってきたから、そろそろアップデートをしようと思っていたところなんだー」
『じ、じゃあ俺達が今必死で戦っていたのは――』
「単なる序章に過ぎないって事かな」
俺は流石に絶句した。ようやく元の世界に戻れると思っていた。
だが――
「で、では私はもう少しだけ、主様と一緒にいられるのですね!」
「うん、そういう事になるかな。けど外の世界はより強い敵も出てくるし、レベルキャップも開放するから、これからは《七つの大罪》でも鍛えないとお荷物になるかもねー」
「主様と共に歩むためなら、私はいくらでも強くなります!」
ラストの必死でありながら喜ぶ姿をみると――
「――まあ、もう少しだけゲームを続けてもいい、か……」
ということで、彼等はまた新たな地へと戦いに向かう事になるでしょう。この小説では序章しか書ききれず、自分の力量が足りなかったとしか言えません。ですが、ひとまずここで一区切り、一休みといったところで完結したいと思います。ここまで長らくの間お付き合いいただきありがとうございました。