最後の鎮魂歌
――流石に巨大すぎる敵に、一撃必殺は効かないか……!
『抜刀法・死式――釼獄舞闘練劇!!』
迫りくる一撃一撃を避けるのは容易い。だがいくら斬ろうが再生するとなると話は別だ。
自身を強化してなお、敵の再生に追いつかず。機械のくせに再生とは、まるで生物のようにも思える。
無意味な消耗戦に、俺は焦らざるを得ない。
「”無駄だよ。イェーガーには再生金属を使っているから、空気中の水素を利用して何度も何度も甦る“」
『くっ……大人しく真っ二つにされておけばいいものの、無駄にタフな奴だ』
「“君の方こそ、さっさと潰されることをお勧めするよ!!”」
俺はこの国が全てを治める姿を見るまで、抹消される訳にはいかないんだよ……!
『抜刀法・死式――絶無蒼天牙!!』
イェーガーのその潰しに来る足を、二刀流のかち上げでもって迎え撃つ。
バランスを崩したところで、俺はその潰しに来ていた足を駆け上がると共に、走った痕をつけるかのように刀で切り傷を作り上げる。
『うおおおおおおっ!!』
つま先から太もも、そして腹部、胸部、喉元へと一太刀の切り傷を作り上げる。
『抜刀法・死式――一刀覇閃!!』
顎先まで籠釣瓶で切り上げると、俺は更に両手の刀をクロスさせる。
狙うはその首一つ。一撃でケリを付ける。
『抜刀法・神滅式――』
――斬首惨劇。
「“なっ――”」
この技は、相手の首を絶対に刈り取る技。即ち、人を模る者ならば必ず死を与える技だ。
相手は再生金属、しかしそれを制御する機関が必ずある筈。
『常人なら、頭にあると考えるだろうよ……機械を操作する方も、直感的に動かしやすい一だろうからな』
「“くっ……こんな、ところで……なーんちゃって!”」
『なっ!?』
確かにイェーガーを倒すことはできた。だが死に際にヤツが見せたホログラムは、俺を愕然とさせるには十二分だった。
「“誰がイェーガーが一体だといった? もう一体は首都に直行させて貰ったよ”」
『馬鹿なっ! あれほどの図体をどこに隠していた!』
「“電気転送、というものを知っているかい? 物質を一度原子分解し、特定地点で再度再構築するとこうなる”」
ここからだとどうあがいても首都まで一週間はかかってしまう。もちろん、そんな期間がシロさん達抜きで持つはずもない。
『クソッ!! 肉を切らせて骨を断つってか!!』
俺は怒りに任せて地面に刀を突き刺し、その場に膝をつく。
「“ははははっ! では僕は一足お先に失礼させてもらうよ”」
高笑いと共に、ホログラムと械王は消えて行く。
『クソッ! クソックソックソッ!!』
何度も何度も刀を地面に突き刺し、悔しさを吐き出す。
「主様!? 一体どうされたのですか!?」
『どうしたもこうしたもない!! イェーガーはあの一体だけじゃなかったんだ!』
「それは一体、どういう事です!?」
「おいジョージ! それはまずいんじゃないか!?」
『……首都ベヨシュタットに、もう一体のイェーガーが向かっている。ここからだといくら急いだところで一週間。俺は、なんてことを――』
俺は絶望に押しつぶされるように、その場にうずくまる。しかしその場にうずくまる俺を、ラストは後ろからそっと抱きしめてくれた。
「主様。一つ、お忘れではありませんか?」
『何をだ……』
「主様は一人で戦っているおつもりですか?」
ラストは俺の身体を抱きよせ、耳元でそっと囁く。
「このラストが、主様の望みをかなえて差し上げます」
俺が振り返るまでもなく、ラストは既に魔法陣を展開している。
「――【転送・ベヨシュタット】!!」
ラストの魔法により転送され、消えて行く最中に俺はラストの方を向く。
『……ラスト』
「はい、何でしょう」
『お前は、最高のパートナーだな』
「ふふ、これ以上無いほどのお褒めのお言葉ですわ」