巨像と蟻
目下広がるは巨大な敵要塞。そして堕ちて行くは要塞の中心。ど真ん中。
『これで終わりだ!!』
それまでラースに集中砲火していた敵が、自由落下する俺の存在に気がついたのか砲台を一斉に真上へと向け始める。
だがもう遅い。
『砕けろ!!』
刀の切っ先が金属面と接触する。だがそれだけでは終わらない。
そのまま巨大な豆腐でも突き刺すかのように、籠釣瓶は一直線に地面へと突き抜けて行く。
――要塞は、たった一撃のもとに瓦解を開始した。
そのまま地面に着地、そして即座に離脱。この時待機していたペルーダが俺を連れてすぐさま要塞の足元から離脱。俺は崩れゆく要塞をしり目にペルーダと共に離脱することに成功した。
『やったか……?』
超高度からの天墜で完全破壊――かと思いきや。
「“流石は刀王だと、まずは賞賛の言葉を送らせて貰おう”」
瓦解していく要塞――かと思えば、中から別の何かが蠢き始めている。そしてま
るで拡声器から流れているかのような音声が、その場に響き渡る。
『どういうことだ!?』
「“初めまして刀王。僕は械王。君のおかげでわざわざ外装を外す必要がなくなったよ。感謝しなければね”」
自らを械王と名乗る男から、突然の礼を告げられる。敵の要を破壊したはずの俺にとって、その言葉を素直に受け取る事などできず、むしろ疑問がわくばかり。
だがその疑問に答えるべく中から現れたのは、想像を絶するものだった。
「“移動要塞は唯の運搬手段に過ぎない。隠し玉は隠しておくから隠し玉なのだよ”」
無機物と有機体が入り混じったかのような、おぞましい姿をした二足歩行のロボットがその姿を露わにする。
「“紹介しよう、彼の名はイェーガー。文字通り、君たち虫けらを狩る者だ”」
全ての域とし生ける者を狩る二足歩行の化け物――それが俺達の目の前に立っている。
「ゴガガ……ギャガガガガガガガァーー!!」
その咆哮は聞く者に恐怖のデバフを植え付け、その圧倒的な姿は戦意すら喪失させる。
一体どうやって要塞に保管しておいたのであろうか、ラースですらその姿を前にすれば小さく見えるほどに大きい。
「ば、化け物……ッ!」
『落ち着け、ペルーダ! 何のためのB計画だ!』
「わ、分かったよ!」
事態の収拾を図るべく、俺は事前に持っておいた音響石で次の作戦を伝える。
『次の作戦に移る! 作戦に残るのは俺とペルーダ、そしてラストのみだ! 後は全力で撤退しろ! エンヴィーはその援護だ!』
即座に旋回し退避するラースに向かって、イェーガーは口を大きく開く。開いた口から覗いているのは砲口。そして狙いはラースへと向けられている。
『抜刀法・参式――断切鋏!!』
舌切り雀――というわけではないが、照準をずらす程度のことはできるはず。
案の定斬撃は砲台を構築する金属に阻まれたものの、イェーガーはまるで苦痛にもがくかのように砲口を口の中へと収め始める。
『お前の相手は、俺だ……!』
《籠釣瓶》に《鋸太刀》。この二振りの刀でもって、俺は目の前の巨大な化け物と一対一を図る。
「“やはり、ベヨシュタットの要の一つとされる刀王がたちはばかるか”」
『追うなら、俺を倒してから行け』
「“ハッハッハッ! これは傑作だ。大きければいいというわけではないことくらいは分かっているが、これだけの差があってなお――”」
『だったら、試してみるがいいさ』
俺は自身の左手の甲に、籠釣瓶を突き刺す。
『《血の盟約・深度死》』
「“……本当に気でも狂っているのかい? 自らLPを1にするなど――”」
械王の言葉をさえぎるように、俺は一撃の下でイェーガーの左腕を刎ね飛ばす。醜い悲鳴と共に、イェーガーは体中を巡っている液体をこれ以上流すまいと、右手で左肩を抑え始める。
『御託はいい……さっさとかかって来い』
「“……いいだろう!! 君はイェーガーのテスト運行には十二分すぎるからな!!”」